閑話 王城
「お父様!」
「アトラス? 何の用だ?」
公爵令嬢、ハイドラと夜を共にした翌日。
アトラスは、父である、ノクチュア王国国王、『アルゴ・ノクチュア2世』に訴えようとしていた。
アルゴは書斎で仕事をしていた。
「お父様! 単刀直入に申し上げます! あの忌まわしい迷宮の森の木を伐採させてください!」
「なんだと?」
アルゴは、息子が言った言葉に、驚愕の表情を露にした。
「そんなこと、ダメに決まっているであろう!」
「なぜです? あんな交通の邪魔である森なんぞ、必要ないではありませんか!」
「ダメなものはダメだ! あそこには恐ろしい吸血鬼がいると言われている……下手に木に手を加えたら、この国は終わるぞ!」
アルゴの発言に、アトラスは懐疑的な気持ちになった。
「お父様……そんな迷信を信じるのですか!?」
「迷信ではない! 現に目撃情報もある!」
「そんなもの……鳥か何かと見間違えたのではないですか?」
「……」
森について言い合いしている二人の中、書斎に一人の男が入ってくる。
アトラスはその男に見覚えがあった。
アトラスの一番上の兄で、第一王子の「カノープス」だった。
「お父様! 聞いてください! 私の提案した労働政策により、農業の生産効率が上がり、農民から喜びの声を預かりました!」
カノープスは、大量の手紙を持って、書斎に入室した。
「カノープス……」
「おやぁ? 兄さんはどうした? アーティ」
「……」
アトラスにとって、兄の存在は目の上のたんこぶだった。
そう、彼にはもう一人の兄がいる。
「父さん! 聞いてよ! 俺の作曲した曲が、今度の晩餐で演奏が決まったんだ! 是非とも父さんに聞いてほしい!」
「凄いじゃないか、『マルケブ』」
そう言って入ってきたのは、第二王子で、作曲家の「マルケブ」だった。
優秀なカノープスと芸術の天才であるマルケブ。
2人の兄に挟まれた彼の唯一のアイデンティティ、それは……。
「でもなぁ、アーティはいいよなぁ、公爵家の人と結婚が決まってさぁ」
「こらこらマルケブ、言ってやんな、こいつは女を取り囲む以外は何のとりえもないんだからさ」
「ははは、言えてるね、兄さん」
「……」
アトラスは、握りこぶしを作り、そのまま書斎を後にした。
「またないか! アトラス! カノープスもマルケブも! アトラスを煽るんじゃない!」
2人の兄は、ヘラヘラ笑いながら返事をした。
アトラスは、そんな2人に目にものを見せてやろうと考えた。
「今に見てろ……あの忌まわしい森を消し炭にして、まっすぐな道を作ってやる……そうすれば、きっと……」
アトラスはそう呟きながら、自分の部屋に戻った。




