第三十四話
「いやーやっぱ、面白いね、人間の考える私達って」
「そ、そうですね、あはは……」
私は爆笑するカグラ様につられ、笑ってしまった。
「まぁでも、私達も人間に対する伝承みたいなのも、笑えるんだよね」
「わ、私たちの……?」
一体なんなのでしょう? 想像がつきません……。
「人間は夜になるとすぐ交尾をしだすとか、人間は木に登らないと死ぬとか……」
「あ、そうなんですね……」
わ、笑えません……。
むしろどういう経緯でそんなイメージが?
「まぁでも、そういうので笑い飛ばせた方が良くない?」
「え……?」
笑い飛ばす……?
「そういうのを変に偏見だとか言ってたらキリがないでしょ? なんなら、笑いのネタにしたほうが楽しいと思わない?」
「た、楽しい……ですか……」
言っている意味がよく分かりませんが……。
まぁでも、笑った方が気が開くというのはありますね、えぇ。
「ふぁー……」
いけない、私ったら欠伸が……。
「お? 眠れそう?」
「え、えぇ……」
「そっか……じゃあ、眠いうちに寝た方がいいよ」
「そうですね……」
明日は戻らなければいけませんし、早めに寝ましょう……。
「それじゃ、ベッドに潜ろうか」
「えぇ……」
私はシーツを上にあげ、その中へ入ろうとした。
その時だった。
「よし、じゃあ私も~」
「えぇ……え!?」
カグラ様が……わ、私の隣に……。
「私も夜寝したいんだ~」
「あ、ちょ、ちょっと……でしたらご自分のベッドに……」
「戻るのが面倒だからさ……それに……」
「それに?」
「君の事が心配だから」
「え?」
わ、私の事が……心配?
どういうことでしょうか?
「もしかしたら、悪夢にうなされるんじゃないかと思ってさ……側にいてあげようと思って」
「は、はぁ……」
「私、君の事が心配なんだ……初めて出会った時から……」
心配……。
「ねぇ、誓って。もう二度と死のうとか考えちゃダメだよ」
「は、はい……」
「辛いことがあるなら、誰かに相談するんだよ? それこそ、オヒュカスやベガとかにね……」
「わ、わかりました……。」
カグラ様は、段々と目の力が無くなっていき……寝息を立て始めた。
どどどどど、どうしましょう? 今、私の目の前には、先ほどまで頭の中でいっぱいだったカグラ様が……。
なんでしょう、眠かったのに緊張で目がさえてきましたわ……。
こ、ここは羊でも数えましょう! えぇ!
羊が一匹、羊が二匹……。
「んん……」
か、カグラ様の寝息が……私の体に……。
なんででしょう? 心臓が高鳴って……。
あぁもう! 目を閉じればいずれ眠れますよね! そうですよね!
もう寝ます! 寝ますとも!
私は目を閉じた。
……今、私の耳からは、カグラ様の寝息しか聞こえない。
カグラ様は、ゆっくりと呼吸をしている。
人間と変わらず、均等に吸って、均等に吐いて。
私もそれに合わせれば眠れるのではないかという謎の発想に陥り、息をする。
吸って、吐いて、吸って、吐いて……
これで本当に眠れるのでしょうか……?
謎ですね……でも、なんでしょう……?
だんだん、暗闇がどんどん……奥深く……。




