第三十三話
「それと、もう一つ……」
「もう一つ?」
まだあるのですか? 別に何も……。
「あの、ダンスが終わった後の事……」
「え……?」
終わった後の事?
ま、まさか……。
「あの、えっと……もしかして、口づ……」
「そうなんだよ! 本当にごめん! 風呂場で女性に興味あるとかないとか言ってたから、もしかしたら気にしてるのかなーって思って! この通り!」
「あ、ちょっと、カグラ様!?」
カグラ様は私に向かって土下座をした。
「私ったらつい、その場の勢いでその……その……」
「あ、頭をお上げください! 別に私は気にしてませんからぁ!」
私はそのことを思い出し、どんどん顔が熱くなっていくのが分かった。
……さすがにカグラ様もあの時の事は魔が差してやってしまったらしい。
「あ、あの、私もあの時はつい……」
「リブラも?」
カグラ様は、頭を上げ、こちらを見た。
「そっか、なら……」
「一緒……ですね……あはは……」
「ふふふ……」
私たちは、お互い顔を向け、笑いあった。
「ところで……吸血鬼の皆さんはやはり日が昇ったら寝るのですか?」
私は素朴な疑問をカグラ様にぶつけた。
外に出る前、カグラ様は時間を無駄にしてしまう事を「日が昇る」と表現した。
ということは、吸血鬼の方は人間とは活動時間が逆なのではと考えたのだ。
「そうだよ、やっぱり私達の祖先ってコウモリでしょ? 夜行性ってやつだね」
「へぇ~、ということは、カグラ様は今全く眠気は無いのですか?」
「ん~、ちょっと『夜寝』したいかな、色々あって疲れたし」
昼寝ならぬ夜寝、ここにも吸血鬼らしさが……。
「あの……それで……伝承の話なのですが……」
「お? また面白い話?」
「お、面白い……?」
カグラ様にとって、こちら側の伝承は単なる面白話らしい。
当然といえば当然ですが……。
「その……吸血鬼の方は……陽の光で……燃えたりとかは……?」
「ふふふふ……あはははは! ごめん……あははは!」
「わ、笑わないでくださいよ~」
カグラ様はお腹を抱えて笑い出した。
その姿はまるで少年のようだった。




