第三十二話
「はぁ……カグラ様ぁ……」
眠れませんわ。
頭の中はあの白く美しいカグラ様でいっぱいだった。
最初に会った時、そして一緒にお話しした時、そして一緒に蛍を見た時、一緒に踊った時。
私はあそこまで美しく、強く、しかし私を包み込んでくれる女性には会ったことが無かった。
あの人とは違い、カグラ様は私の事を真剣に見ていただいている。
「あぁもう! 眠れませんわ!」
私はベットから飛び起きた。
どうしましょう……。
勝手に屋敷の中を徘徊したら怒られるでしょうか……? 主にアブラム様に。
こんな時、カグラ様がいたら……。
そんな事を考えていると、扉を叩く音が小さくなった。
私は思わず驚いてしまった。
『ごめん……リブラ、起きてる?』
その声は……。
「カグラ様?」
『そう、入ってもいい?』
「え、えぇ! もちろん!」
私は飛び上がるほど嬉しくなった。
理由は不明ですが、カグラ様が視界の中に入るというだけでも、今は嬉しく感じていたと考えた。
扉が開き、外に待っていた白き姫が目に入る。
「ごめんね、寝てる時に」
「いえいえ! 私もちょうど寝れなかったので!」
「そうなんだ」
カグラ様は変わらず笑顔を見せてくれる。
「今日の事、謝ろうと思ってさ……」
「あ、謝る?」
私、別にカグラ様に何かされたわけでもないのですが?
寧ろ、謝るならこちらかと……
「じゃあ、入るよ?」
「え、えぇ……」
カグラ様は入室するなり、ベッドに腰を掛けた。
私はその隣に腰を掛けた。
「で、その……謝りたいこととは?」
私はカグラ様に語り掛けた。
「いやあのね……私、今日興奮しすぎちゃって……リブラの事、振り回しすぎちゃったかなって……」
「いえいえ! とても楽しかったですよ!」
カグラ様は、若干落ち込んでいるような表情だった
そんな! カグラ様がそんな顔をする必要は……。
「そう? ならいいんだけど……」
「とても楽しい日でしたわ! その……色々と落ち込んでいましたが、カグラ様のおかげで、そんなちっぽけな事、忘れてしまうほどに!」
「本当?」
「えぇ!」
カグラ様はまた笑顔を浮かべる。
やはりカグラ様の笑顔は、私を照らしてくれる。
「それと、もう一つ……」
「もう一つ?」
まだあるのですか? 別に何も……。




