第二十九話
その後は、食事をして、カグラ様がまた血を飲んで、屋台のゲームで遊んで……。
楽しい日々は、あっという間に過ぎて行ってしまった。
気が付くと、私は遊び疲れたのか、欠伸が込み上げてしまった。
「ふふふ、そろそろ戻る? 私もそろそろお風呂に入りたいな……」
「お、お風呂!?」
「あ、私たち流水は別に平気だよ?」
「よ、読まれましたか……」
「この辺は有名どころだからね」
伝承って本当に役に立ちませんわね! 嘘だらけじゃないですか!
……まぁ、これも里を守る為でもあるのでしょうか?
「じゃ、屋敷へ戻ろうか!」
「は、はい!」
再びエスコートされ、私たちは城へ戻った。
◇
今、私は大変な状況に陥っている。
私は今、お風呂に入っている。
それだけならば別にいい、お風呂は生活の中では欠かせない物ですからね。
問題はこの状況です。
「いやー、こんなに大きいお風呂、やっぱり複数人で入らないと意味が無いよね!」
「そ、そうですね……」
今、私の真横には、雪のように美しい、白い肌の女性がいる。
今この場には、アブラム様もいない。
完全に2人きりである。
私は横に目をやることができなかった。
「どう? リブラ、温度はちょうどいい?」
「え、えぇ! とても気持ちが良いですわ!」
「そう、なら良かった」
視界の端っこに、カグラ様が見える。
カグラ様は万年の笑みでこちらを向いている。
カグラ様は気にしないのでしょうか? 同性と2人きりでお風呂なんて……。
でも普通に考えて、同性なら何も問題はない筈……問題ない筈なんです!
「どうしたの? なんか顔赤いけど」
「い、いえ!」
「もしかして、お風呂の水、熱い?」
「あ、熱くありませんわ! あはは……」
私は緊張を笑ってごまかした。
な、なんとかして、この場を切り抜けられる方法は……。
い、今は何とかして視線を……
私は硬くなっている首を動かし、カグラ様に目をやる。
カグラ様はやはり美しい。
服越しではわからなかったが、若干筋肉がついているのが分かる。
やはりあのような猛獣を相手にするには、少しは鍛えていないとやられてしまうのでしょうか……?
吸血鬼は皆力が強いというのも伝承である。
全ての吸血鬼がそうとは限らないとは思いますが、少なくとも、カグラ様とアブラム様は、里の中では強い方なのでしょうか?
里の皆様は安心しますね……このような方々が盟主様の娘であり、従者であり……。
それに比べて私は……婚約を破棄され、屋敷から飛び出してみんなに迷惑を掛けて……。
「ん? どうしたの? 私の顔になんかついてる?」
「あ、いえ……その、同性とお風呂に入るのが初めてなもので……」
「そうなんだ、私はしょっちゅう入ってるけどね」
「しょ、しょっちゅう!?」




