第二十八話
「ねぇ、リブラ!」
「は、はい!?」
私は思わず大声で返事をした。
み、耳障りになってしまったかも!? どうしましょう……。
「あはは、さっきので気持ちが高ぶっちゃった?」
「は、はい……お恥ずかしながら……」
「そうなんだ」
カグラ様はダンスの時のように、両手を合わせた。
「実は私も、さっきから気持ちが高ぶってるんだ」
「ど、どういうことですか?」
「その……何というか……リブラの事を、直視できないんだ」
「え、それはどういう……」
私はどういうことか聞こうとした。
しかしカグラ様は片方の手を放し、視線を前に向けた。
「ま、そんなことは置いておいてさ、あの屋台の串焼き、物凄い美味しいんだ! 食べない?」
「え、えぇ……」
「それじゃ、私がおごってあげる!」
「そ、そんな、申し訳ないですよ!」
「いいからいいから、リブラはお客様なんだからさ!」
「は、はい……」
私は答えを聞けないまま、屋台へと誘導された。
「あ、そうだ、そろそろ飲まないと……アブラム!」
「……はい」
「飲む? 飲むって何を……って」
アブラム様はどこからか、緋色の液体が入った瓶を取り出す。
こ、これはまさか……血液!?
「あ、ごめん、怖がらせちゃって……」
「い、いえ! 生きるためなので仕方ないですよ!」
「そう言ってくれると、安心するな」
「あ、あはは……」
カグラ様は血液を受け取ると、一口で飲み干した。
口の周りに着いた血も、舌で舐め切った。
鋭い牙が見えた時、私はアブラム様に抑え込まれた時の事を思い出す。
あの時は恐怖でしたが、カグラ様の牙を見ると、つい、私を噛みついてほしいという気持ちになってしまう。
あの舌……私が怪我をして、傷口に舐めて頂いた時に感触を味わった。
あの舌の感触を、いずれは私の口にも……
……ななななんでしょう!? 私ったらこれではただの変態じゃないですか!
あぁダメダメ! カグラ様に失礼です! 馬鹿馬鹿馬鹿! 私ったら大馬鹿者です!
「おまたせ、リブラ。終わったよ」
「あ、えっと……」
「大丈夫?」
「だだだ、大丈夫です!」
「そう? ま、いっか!」
リブラ様は私の手を再び掴み、歩き始めた。
私もそれに合わせて脚を動かした。




