第二十一話
「そこに椅子があるから、しばらく眺めてよっか」
「えぇ……そうですね」
「さぁほら」
カグラ様は、先ほどまでの急かすような感じではなく、まるで紳士のように、私を椅子まで誘導した。
ちょうど2人分が座れる椅子で、アブラム様は、遠くで見守るように距離を置いた。
アブラム様は立ちっぱなしで辛くないのでしょうか?
こちらが目線を送っても、アブラム様はそっぽを向かれてしまいましたわ……別に気にしないで良いという意味なのでしょうか?
「ほんと、悩みなんて、この綺麗な蛍たちと比べたらちっぽけな物なんだよ」
「……どういうことですか?」
「蛍はね……条件が上手く揃わないと暮らしていけないんだよ」
「そうなのですね……」
「彼らは住むのに悩み、卵を産むのにも悩み、天敵から身を守ることにも悩み……そんな悩みと比べたら、私たちの悩みなんて、くだらないと思わない?」
「……言っている意味がよく分かりませんわ」
「ははは! まぁまぁ、上手くは言えないけど、とにかく悩みなんてその程度ってことだよ!」
「ふふふ……そうですね」
言っている意味はよく分かりませんでしたが、少なくとも私を励まそうとしているのは伝わった。
私たちはそんな他愛のない会話を続けながら、無数の光を眺めた。
◇
「そういえば、街が大変賑わっていましたね」
しばらく経って、私たちは屋敷へ戻ろうと立ち上がる。
私は街がやけに賑わっていたことについて、カグラ様に聞いてみた。
「あぁ、そうそう! そういえばつい昨日、男の子が産まれたらしいんだよね!」
「男の子……? あ! そういえば……」
先ほど、カグラ様が仰っていたことを思い出す。
『子供で男の子が産まれるとその家は里の人総出で祝われるんだよ』
なるほど……。
確かにそれならば、あれほど賑わっていたのも納得できますわ。
「気になる? お祝いがどんな感じで行われるのか」
「……はい! 気になります!」
「じゃ、行こう!」
「えぇ! ……でも、今度はゆっくり歩いてくださいよ!」
「わかってるよ!」
「あ、ちょっと……」
私は再び引っ張られた。
確かに先ほどよりかはゆっくりですけど……。
私たちは、漂っているわずかな光よりも輝いているところへと向かった。
体調を崩してしまったため、本日の更新はこれで終わりです。
明日の夜、回復したら更新します。
楽しみに待っていただいている皆様、本当に申し訳ございません。




