第十七話
「ここだ」
「あ、ありがとうございます……」
「……別に、仕事だからな」
アブラム様の案内で、私は部屋に戻った。
「姫様はもうじき来る……くれぐれも変な真似はするなよ?」
「や、やりませんよ!」
「……どうだかな」
アブラム様は私の事をどう思っているのでしょうか?
人間に対して何か恨みでも……?
私が椅子に座ろうとすると、アブラム様は、すかさずその椅子を引いた。
ご、ご丁寧にどうも……。
「お茶のお替りを持ってくる」
「あ、いえ、いいですよ!」
アブラム様は椅子を引きながらそう言った。
遠慮をしたが、アブラム様はカップを強引に持って行った。
「客のカップが空なのが見てられないんだ……別にお前の為じゃない」
「は、はぁ……」
「少し待っていろ」
アブラム様はそう言って部屋を出て行った。
なんでしょう……なんやかんや言っても、私を部屋まで案内したり、椅子を引いてくださったり、お茶を用意してくれたり……本当はお優しい方なのではないでしょうか?
不思議な方ですね……。
すると、部屋の扉が思いっきり開いた。
「うわぁ!?」
私は驚いて、椅子から転げ落ちそうになってしまった。
「あ、ごめん! ちょっと張り切り過ぎちゃって……」
「あ、いえ……大丈夫です」
ドアから出てきたのはカグラ様だった。
カグラ様は液状の何かが入った瓶を持っていた。
「あ、あの……それは……?」
「あ、これ? 聞いて驚かないでね!」
「え、えぇ……」
カグラ様は私の向かいにある椅子に座り、瓶を見せつける。
「これはね、私たちが森の外に出るために使う薬品なんだ!」
「へ、へぇ~」
なるほど、それを飲めば人間に化けることができるのですね! 画期的ですね。
「私たちが人間に化けられるなら、人間のリブラは逆に吸血鬼になるんじゃないかと思ってさ!」
「いやいや、流石にそんな単純な……」
すると、部屋の扉を叩く音がし、誰かが入室してくる。
……アブラム様だ。
「姫様、お茶のお替りをお持ちしました」
アブラム様は、丁寧口調に戻っていた。
カグラ様の前ではその態度なのですか!?
「あ、ちょうどいい!」
カグラ様は、お茶を見るや否や、台車に向かって歩き……片方のカップに薬品を入れた!




