第十六話
私はアブラム様に連れられ、部屋に戻る為に脚を動かした。
なんか、不思議と早歩きなような気が……先ほどの殺気といい、この方は私の事が嫌いなのでしょうか?
カグラ様は、悪い人ではないと仰っていましたが……。
……というか、部屋までこれほど長い道を歩いていたんですね、先ほどはカグラ様とお話していて、そこに関しては気にも留めていませんでしたが……。
……そんなことを考えていると、アブラム様が途中で立ち止まり、こちらへ振り向いた。
顔つきは先ほどのようににらみつけるような目で、顔も何やら怒っているように見えた。
「あ、あの……どうかされましたか?」
私は震えながらも、質問してみた。
「……別に、お前みたいな人間を見てると、無性に腹が立つだけ」
「……。」
突然、アブラム様の口調が変わり、私は黙ってしまった。
ど、どうしましょう……話しかけないほうがいいのでしょうか?
で、ですが、カグラ様は優しい方でしたし、アブラム様だってお優しい方の筈!
ここは話題を振りましょう!
「あの……質問してもよろしいですか?」
「……何だ?」
「あの……なぜ、私みたいな人間を見ると……ッ!?」
突然アブラム様が私を壁に追い込むように接近してきて、壁に張り付いた私の顔のすぐ真横に、片手を強く叩きつけた。
「あ、アブラム様……?」
「……」
アブラム様は牙を立て、私に嚙みつこうとしていた。
え、えぇ!? 一体突然なんなんですの!?
私は動揺のあまり、目の前のアブラム様の顔を凝視するしかなかった。
「……」
「あ、アブラム様……?」
「……やっぱり、お前の目はあの人間に似ている」
「あの人間……?」
アブラム様は私から離れ、背を向けた。
あの人間とは一体……?
それについて聞こうと思いましたが、あまりの恐怖に口を開けなかった。
「……怖がらせて、悪かった」
「あ、いえ……」
「オレは人間は嫌いだが、お前は姫様が招いた客だ、一応今は認めておいてやる」
「は、はぁ……ッ!?」
返事をすると、アブラム様は再度私に接近した。
「だがな、これだけは覚えておけ、人間はクソみたいな奴しかいない、お前はどうか知らんが、オレはお前の事なんざ、少しも信用してないからな」
「は、はい……」
「いいか? 少しでも姫様を傷つけてみろ……お前の血を一滴残らずすべて吸い取って、空になった体を猛獣の餌にしてやるからな……」
アブラム様は私の体に人差し指を突き刺し、牙を見せつけ、警告(?)をした。
「わかったなら、返事をしろ」
「は、はい!」
「……部屋まで案内してやる」
アブラム様は私の体から離れ、再び歩き始めた。
私はその後ろについていくしかなかった。
アブラム様……少し怖いですけど、悪い方ではない……ように思えますわね、少なくとも私はそう見えます!
「早く来い!」
「は、はい!」




