閑話 待機する者 後編
僕は起き上がって、扉を慎重に開けて、隙間から覗き込んだ。
そこに見えたのは……燕尾服を着た女?
こんな時間に客とは一体……?
女とあいつが客間に入っていったのを見て、僕はすかさずそこの扉の前へ行った。
何者なんだ……? 王族の人間ではなさそうだし、他の貴族でもああいう奴は見たことが無い。
僕は客間の扉に手をかけた……その時だった。
「ぼ、坊ちゃま!?」
「!?」
あいつが扉を開けてきたのだ。
「どうされたのですか!?」
「そ、それはこっちの台詞だ!」
「あ、申し訳ございません!」
あいつの後ろから見たあの女は……やけに白い肌をしていた。
俺はこいつを連れ出し、あの女が聞こえない位置まで連れて行った。
「ど、どうされたのですか、坊ちゃま?」
「あの女、誰だよ? こんな時間に客っておかしいだろ」
「私もどうしようか迷ったのですが……旦那様に用があるということで……服装からしても平民ではないことは分かりますし……」
「……あの女の名前は? なんて名乗ったの?」
「さぁ……」
「さぁ!? 名乗らなかったのに入れたのか!?」
「ですが、『ナミス様より伝言を預かっている』とだけ……」
「ナミス? 聞いたことないぞ?」
「えぇ、私も。ですが、旦那様にその名前を伝えれば、すぐに分かると……」
「……」
怪しい、お父様に伝言?
今は誰もいないし、ここは次期当主である僕がビシっと言ってやろう。
「あ、ちょっと、坊ちゃま!」
「あんな如何にも怪しい女、屋敷に置いておくわけにはいかない、僕が追い返してやる」
「お待ちください!」
僕は速足で客間の扉の前に着き、思いっきり開けた。
奴は恐らく、使いのフリをした泥棒か何かであろう。
それならば、この場から消えているはずだ。
……扉を開けて見えたのは、優雅に紅茶を啜る女の姿だった。
「……」
僕は思わず、黙り込んでしまった。
「お、お坊ちゃま!」
あいつが僕を呼び止める声を叫ぶ。
しかし、時すでに遅し、僕は客の前で恥をさらしてしまっている。
パジャマ姿の少年が、ドアを思いっきり開けて、固まってしまっているからだ。
「坊ちゃま……? 一瞬ベガ様に見えてしまって焦ってしまいましたわ、初めまして」
「……」
こいつはお父様の名前を知っていて、尚且つ姿が似ていると言った……まさか本当に……伝言を預かってきただけ?
「あの……申し訳ございません!」
「ぼ、坊ちゃま!」
僕は自分の部屋に向かって走り出した。
部屋に着くや否や、僕はベッドに潜った。
そして、あの女について考えた。
あの女……白い髪に白い肌をしていたな……まさか?
……いや、目は青い色をしていた、恐らくは違うだろう。
吸血鬼……か、まさかな、いるわけない! いないんだ!
……だが、本当にいたら……ちょっと、怖いかな、ちょっと!
あぁ、なんか馬鹿らしくなってきた、寝よう……。




