閑話 待機する者 前編
「ねぇ、なんで屋敷の人、ほとんどいなくなったの?」
「さ、さぁ? それよりもお坊ちゃま、そろそろ寝る支度を……」
「……」
おかしい。
使用人も、料理人も、果てはお父様やお母様まで。
みんなどこかへ消えた、僕とこいつを置いて。
今日は出かける予定はなかった筈だし、使用人も今日は皆出勤しているはずだ、壁に使用人全員の札が掛けてあったのでそれは間違いない筈だ。
一体何なんだ? お父様もお母様も何でもないと言っていたが、何かある。
ここは少し探ってみよう。
「聞きたいんだけどさ、屋敷の人って今日は全員いる筈だよね?」
「え、えぇ……」
「ほんとに全員いる? 誰か抜けてる人はいない?」
「え、えーっと……」
「じゃあ確認しようか、一人ずつ、まずは僕、そしてお前、それから?」
「えーっと、旦那様に、奥様に……」
……おかしい、なぜそこで止まる?
姉さんをカウントしていないとはどういうことだ?
「姉さんは?」
「へっ!? り、リブラ様ですか!? そうですね! そうでした! あはははは……。」
「姉さんに、何かあったの?」
「……」
……読めた。
どうやら姉さんに何かがあって屋敷の人がそれで出払ったのか。
「し、心配いりませんよ! リブラ様はきっと見つか……」
「……なるほど」
どうやら姉さんが失踪したそうだ……。
だからお父様もお母様は心配掛けさせまいと気を使ったんだな。
……ここはそれに乗せられよう。
「ま、いいや、ちょっと眠れないから本取りに行ってもいい?」
「あ、いいですよ! ここは私が……」
「いいよ、自分で読みたい本は決めるから」
「は、はい……」
……心配だけど、僕が出たとこでどうにもならない、ここは気を紛らわすために本でも読もう。
図書室へ足を運び、僕は本を吟味することにした。
ろうそくを片手に、図書室の扉を開ける。
今日はどんな本を読もうか……と、そういえばお父様に、「お前は当主になるのだから、そろそろ家の歴史も勉強しなさい」と言っていた。
家の歴史……正直自分の家の事を詳しく知るなんて恥ずかしいけど、いい機会だから追求してみるか。
えーっと、これかな? 結構奥の方にあったな、『コーヴァス家その歴史』。
僕はその本を片手に寝室に戻った。
ベットに入るや否や、わずかな明かりを頼りに本を読む。
へぇー、このメリクって人が僕の曽祖父……なになに? 迷宮の森の探査……?
そういえばお父様はこうも言ってたな、『将来、森についてお前に言わなければならないことがある』と、ちょっと予習してみるか……。
……って、ここだけページが破られてるじゃん、気になって逆に眠れなくなるじゃないか。
……あぁもう! ……まぁいいや、明日抜けたページについて聞いてみよう、とりあえず読める範囲から読んでみるか、ええっと……。
……ん? なんか部屋外から足音がするな?
明らかに2人だ、1人はあいつとして、もう一人は誰だ?
……気になる。




