第一話
馬を途中で降り、私は森の中を駆けた。
どこまで走ったかは分からない、でもここが暗闇なのはわかった。
空を見ようにも、木々がそれを邪魔して見えない。
ここはただの森ではなかった。
『迷宮の森』、「吸血鬼が住んでいて、一度入ったら抜け出せなくなる」と言われている森だった。
私は子供の頃から両親に、「そこには絶対に近づくな。」と言われていた。
迷宮の森は、伯爵家領地の端……王都との境界に存在し、王都から領地へやってくる際は、通常、この森を迂回してやってくる。
ここなら簡単に消えることができる、途中で走り疲れた私は息を切らしながら、森の中をただただ歩いた。
優しい木枯らしが吹き、木々がそれによって音を鳴らしていた。
そろそろ吸血鬼が飛び出して、私の時間を止めてくれないかな、そう考えていた時、風の影響ではない、木々が揺れる音が鳴った。
あぁ、これでやっと歩くことをやめられる、私はそう思って、そこから出てくるであろう怪物を待っていた。
だが、そこから飛び出してきたのは……一人の少女だった。
少女は左手にランタンを持って、右手に刃物を持っていた。
ランタンの灯りから、少女の風貌が微かにわかった。
白銀の長髪に、赤い目、彫刻のような白い肌……。
この見た目は……。
「吸血鬼……?」
吸血鬼、伝承でしか聞いたことが無いが、同様の見た目をしていると聞いていた。
人間を襲い、血を一滴残さず吸い上げる。
そして空っぽになった人間は、血を求めて、また人間を襲う吸血鬼となることがある……。
あぁ、本当にいたんだ、なら都合がいい。
ここで血を吸い上げてもらって、殺してもらおう、できれば、吸血鬼に転生はしたくないかな……。
私はそう思って、目を閉じ、両手を広げた。
すると、私の存在に気付いたのか、こちらに向かって歩いてくる音が聞こえた。
あぁ、やっと消えることができる、早く血を吸ってくれないかな……
「あの……大丈夫?」