閑話 吸血鬼の過去
この土地に吸血鬼が生まれたのは、約4千年前と言われている。
この迷宮の森に生息していたコウモリが神のお恵みで進化し、吸血鬼になったと伝えられていた。
吸血鬼たちは森の中で狩猟生活を送り、平穏に暮らしていた。
ところが、ノクチュア王国建国の際に、吸血鬼は窮地に追い込まれる。
コーヴァス家の初代当主であるメリク・コーヴァスが土地を所有し、迷宮の森はその範囲の中にあった。
メリク率いる調査隊が森に入った時、吸血鬼たちは騒然となった。
「猿の進化体が我らの森に侵入した」
このように里に伝えられた。
吸血鬼の中には、「奴らを皆殺しにしよう」という過激な思想家もいた。
だが、盟主であるナミスは、その考えに異議を唱えた。
「森はもはや私達だけのものではない、ここは対話をし、我らの考えを伝えるのが最善だ」
ナミスは、ここで争えば吸血鬼の血統が途絶えかねない、そう考えたのだ。
調査隊は途中で道に迷い、帰れなくなっていた。
そこでナミス率いる吸血鬼の里の有志達が集結し、「貴殿らの代表と話し合いたい。」と伝えた。
調査隊の面々は、突然の来訪者に敵意を向けたが、メリクはそれを退け、自ら名乗り上げた。
メリクはナミスに同行され、他の調査隊は、吸血鬼有志達によって森の外へ誘導された。
まずはメリクに里を見てもらった、そこに暮らす人々の生活、習慣、伝統などを一通り見てもらった。
メリクはそれに感銘を受けた「我々よりも一歩先を生きている」と言って。
ナミスは「我々はあなた方に敵意はない、我々はあなた方との共存を望んでいる」と言った。
ところがメリクの答えは、「私もそう望んでいるが、多くの人間はそれを望まないだろう」だった。
それを聞いた従者の吸血鬼は、「やはり信用できない!」と言って、メリクを殺害しようとしたが他の従者によって止められた。
ナミスはメリクに何か考えがあると踏んでいた。
メリクは、「この森を恐ろしい場所であると伝えれば、他の人間は立ち寄らない。」と伝えた。
ナミスはその考えに納得し、他の吸血鬼にもそう伝えると、皆がそれに納得した。
かくして、この迷宮の森は、「吸血鬼が住んでいて、一度入ったら抜け出せなくなる」と伝えられ、以後、人間達はその森に近づかなくなった。
しかし、メリクはその後も交流を続け、それが歴代当主にも伝わり、人間でこの里の存在を知ることができるのは、コーヴァス家の当主というのが鉄則になったという……。