第十二話
「リブラは!?」
「ダメです! まだすべては確認していませんが……」
オヒュカスの問いに、スピカが答える。
屋敷はレオと一部使用人を覗いて全員領内に飛び出し、隅々までリブラを捜索していた。
「……オヒュカス、流石に屋敷の人員にも疲れが出ているし、君にもその兆候がある、ここは一旦休もう、夜も遅い」
「……」
オヒュカスは、自分の無力さに悔しさを感じていた。
「……行きましょう」
「あぁ」
オヒュカスとベガは馬を走らせ、屋敷へと帰還することにした。
(……リブラ、まさかあそこへ?)
◇ ~リブラ視点~
「あの……質問してもよろしいですか?」
「別にわざわざ聞かなくても、私に答えられる範囲なら何でも答えるよ」
「あ、はい……あの、伝承では、吸血鬼は皆銀髪で、血以外を口にできなくて、そしてその……大変失礼だとは存じておりますが、人間を見つけたら襲い掛かって……血を一つ残らず吸うというのが……」
私ったらなんて無礼な質問を! 仮にも助けて頂いた相手に対してなんですかそれは!
「ふふふ……あはははは!!」
カグラ様……笑っていらっしゃる?
「面白いね、それ」
「は、はぁ……あの……申し訳ございません!」
「なんで謝るの? 別に気にしてないよ、それどころか凄く笑えるよ! あはは!」
カグラ様は立ち止まり、腹を抱えて笑い出した。
……そこまで面白いのでしょうか?
「いやね、私たちは別に人間を襲うほど度胸はないし、メリットも無いし、血液なら動物からいくらでも取れるし、人間を襲うなんてそもそも興味が無いからやるわけないよ。」
「そ、そうなのですか……」
「それにさ、人間だって茶髪の人とか金髪の人とかいるでしょ? 確かに吸血鬼の多くは銀髪だけど、普通に考えて吸血鬼も人間も、いろんなのがいるわけだし、それだけとは限らないでしょ?」
「そう……考えれば、そうですね!」
カグラ様につられて、私も笑った。
「ふふ、やっと笑ってくれた」
「え?」
カグラ様は、先ほどまでの笑い方とは違い、まるで子供に接する母親のような笑みを浮かべた。
「さっきから悲しい顔しかしてなかったから、心配だったんだけど、大丈夫そうだね」
「あ、えっと……申し訳ございません……」
「だから謝らなくていいんだって、ほら」
すると、カグラ様は私に近づき、私の口元に手を触れた。
「ほら、笑って」
「ちょ、ちょっと、カグラ様ぁ……」
カグラ様は、私の口を引っ張り、無理矢理笑顔を作らせた。
な、なんてことをするんですかぁ……嫌じゃありませんけど。
「さ、行こっか、そろそろ『ママ』が待ちくたびれて怒り心頭になるかもしれない」
「へ?」
ママ? どういうことですの? 盟主は男性の筈では……?