閑話 突き放した者
「アトラス様……愛していますわ……」
「俺もだ……『ハイドラ殿下』」
2人の男女が、一糸纏わぬ姿で月明かりが照らすベッドの上で、余韻に浸っていた。
「ねぇ……本当に私でいいんですの?」
「あぁ……君ほど素晴らしい女性はいないさ」
「……他の女性との婚約を破棄したそうですね」
「あぁ、君のために破棄したんだ、あの女よりも、君の方が可憐で何よりも抱いた時の感触がまるで焼く前のパンを抱いているようだ、あの女の焼きすぎて焦げのついた体なんかよりも何倍も良い」
「まぁ……それは嬉しいですわ、アトラス様はまるで……大木を抱いているようでしたわ。」
「ありがとう」
ノクチュア王国の宮殿の一室で、その国の第三王子であるアトラスとブラキウム公爵家の令嬢である「ハイドラ・ブラキウム」の2人が、お互いの愛を語り合う。
「ところで明日は……泊っていくのかい?」
「えぇ……迎えの馬車が、あの森を迂回するのにかなりの時間を有しているようでして……」
「迷宮の森……なんと忌まわしい、あの女のいる土地であるということだけでも忌まわしいのに……」
アトラスの表情が険しくなり、ハイドラを抱いている手に力が入る。
「でもまぁ、私は嬉しいですよ、こうしてアトラス様のお側に長くいられるのは」
「そうだね、俺も嬉しいよ」
二人は口づけを交わし、白い波に包まれ、愛について語り合った。




