第九話
『姫様、お茶の用意ができました』
「あ、どうぞ!」
声からして、お姫様の部下の方だった。
ドアが開き、お茶を乗せた台車を押した、メイド服を着た金髪の女性が入ってきた。
あら? 吸血鬼は銀髪の筈では?
「ありがとう、『アブラム』」
なるほど、この方はアブラム様というのですね。
この方もお姫様と同じような白い肌をしていらっしゃいますね、このお二方は、何と言えばいいのでしょう……雪のような肌をしていて、つい、視線が行ってしまう。
人の事をジロジロ見るなんてはしたないとは思いつつも、つい見てしまう。
あぁんもう! 私ったらなんでこんなことを考えてしまうの!
「失礼します……」
アブラム様がお茶の用意をしてくれている。
……その時だった、私に対するアブラム様の視線が険しいことに気づいた。
先ほどもそうでしたが、私は彼女から嫌われているのでしょうか……?
アブラム様はお茶を置いた後に、空の台車を押して、部屋を出た。
「ごめんね、あの子悪い子じゃないんだけど、どうも外にいる人間に不信感があってね」
「あ、いえ……私こそ……」
「さ、飲んで」
私は出された紅茶を飲んだ……美味しい。
屋敷で飲んでいる紅茶よりも、香りが口の中に大きく広がる。
宮殿で出されたものも飲んだことがあるが、あれよりも断然おいしいと断言できる。
……そういえば、吸血鬼って血以外は口のできない筈では? なんでこんなにも美味しい紅茶を? お姫様も普通に飲んでいらっしゃいますね……アブラム様の髪の色といい、伝承で聞いていたこととはまるで違いますわ……。
お姫様を見ながらそんな事を考えていると、彼女がこちらに気づいたのか、またあの月のような笑顔を向けてくれた。
「吸血鬼が紅茶飲むのがそんなにおかしい?」
「あ、いえ、そうじゃなくて、あの……」
「いいよいいよ、知らない事なら仕方がないし」
「あ、その……申し訳ございません……」
私ったらまた失礼なことを! さっきから謝ってばっかりではないですか!
なんとはしたない! なんとみっともない!
私は恥じらいを隠しつつ、そう考えながら、紅茶を飲んだ。
「ところで、そろそろ自己紹介をしなくちゃね……。」
お姫様はカップをソーサーに置いて、私へ視線を向けた。
「私の名前は『カグラ』、みんな姫様って言うけど、盟主の娘ってだけで私はそういう器じゃないから……まぁ、気軽にカグラでいいよ、よろしくね」
お姫様……カグラ様はそう言ってまた笑顔を向ける。
そ、そうですわ! 私も自己紹介を……。
「あ、その、私はリブラ・コーヴァスと申します!」
「コーヴァス? ということはオヒュカスとベガの娘さん?」
「へ!? 両親をご存じなんですか!?」
「うん、もちろん! そっかぁ……あの二人はもうそんな年齢になったんだぁ……感慨深いな」
そんな年齢!? 見た目は私より年下に見えるのですが!?