第八話
「さ、ここだよ」
案内されたのは、私の屋敷の部屋よりも一回り広い寝室だった。
内部も私の部屋よりも豪華で、こんないい部屋に泊まることができるのは、申し訳ないと思ってしまった。
「どう? 気に入った?」
お姫様が笑顔でそう聞いてくる。
お姫様の笑顔は、まるで輝く月のようで、伝承で聞いていた吸血鬼とは大きく違うように思えた。
悪意は感じられず、それどころか、暗闇を照らすように私を輝かせている。
美しい、という言葉が正しいかはわかりませんが、彼女にはそんな魅力を感じる。
……って、同じ女性なのに、私は一体何を考えているのでしょう? この感情は一体何なのでしょうか? 先ほど抱き着かれた時も同じような感情を感じましたが、色んなことがあり過ぎて、私はどうかしてしまったのでしょうか?
「おーい! 大丈夫?」
お姫様が私の目と鼻の先に近づいてきて、私は我に返った。
「あ、いやその……とても、美しいです……」
って、私は一体何を言っているのですか! お姫様に対する率直な気持ちを伝えてしまいましたわ! あぁ……どうしましょう、おかしな人だと思われてしまったのでしょうか?
「でしょ? 私の部屋も似たような感じなんだけど、気に入ってるんだよね」
「へ、部屋!? え、えぇ……」
良かった、誤魔化せたようですわ。
「さ、座って」
お姫様は、ベッドの隣にある椅子を引いて、私に腰を掛けるようにと誘導する。
お姫様にこんなことをさせてしまい、申し訳ないと思ってしまったのですが、お言葉に甘えることにした。
机を挟んで向かいに、お姫様が座る。
……どうしましょう、こういう時は何か話題を振らないと……。
「それで? 貴方の名前は?」
「ひゃ、ひゃい!?」
「あはは、緊張しなくてもいいんだよ、お見合いじゃないんだから」
「は、はい……」
話題を振ろうとしたその時に、お姫様が話しかけてきて、つい驚いてしまった。
私としたことが……いけませんわ。
「あぁ、こういうのは私から名乗るべきだよね、ごめんごめん」
「あ、いえ……申し訳ございません」
「貴方が謝る必要はないよ」
やはりこの方は、美しい笑顔を見せてくれる。
私は彼女の笑顔で、不思議と安堵した。
すると、部屋を叩く音が、ドアから鳴った。




