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第七話 「戦」

第七話 「戦」


ギエンとカシムは高台から砦を見渡していた。

「見事な布陣だな・・・」

カシムは討伐軍の布陣を見て感心した。

「砦の四方に3000の歩兵、その後方に2000の騎兵を北東、南東、南西、北西にすえる・・・か。」

カシムは地面に配置を描いてギエンに見せた。

「これはまた、骨が折れそうな布陣ですな。」

ギエンも頭をかきながら呆れ顔で感想を述べた。

「ギエン、貴様の兵は?」

「300です。」

カシムは頷くと矢印を一本引いた。

「ここだ。」

カシムが矢印を引いた場所は今いる場所から北西に位置していた。

「ここに陽動を掛ける。馬は何頭いる?」

「100と3頭です。」

カシムは満足そうに頷いた。

「十分だ。ギエン、私に乗馬が得意な兵を100名預けてくれぬか?」

ギエンは自慢げに答えた。

「すでに用意しております。」

「流石に察しがいいな?」

「騎馬により撹乱し、歩兵で敵陣に穴を穿つ・・・カシム殿の十八番でしたな?」

カシムは口元を緩めると鼻で笑って見せた。

「まさか味方相手に使うとは思いもよらなかったがな。」

カシムは籠手の紐を固く結びなおすと得物の剣を鞘から出した。

そして軽く一振りするとギエンに目配せをして出陣の準備に取り掛かった。


時同じくして討伐軍の本陣では一人の将軍が足を震わせながら苛立ちを露わにしていた。

将軍の名はニール・シムス。

かつてギエンの直属の部下だった男である。

ニールはここにいたってもカーン砦が降伏する気配がないことに苛立ちが頂点に達していた。

「レドム殿とギエン殿は何を考えておるのだ!?」

ニールのそばに居た一人の青年将校がつぶやく様に答えた。

「レドム将軍は分かっておられるのでしょう。」

「何をだ?」

「この戦に勝ちの目がないことにです。」

「当たり前だ。いかに両将軍が勇猛といえどこれだけの兵力差ではどうにもならん!!」

すると青年将校は首を軽く横に振った。

「将軍、私の言う戦の敵はカーン砦ではありません。」

「何?」

ニールは怪訝な表情を浮かべた。

「この戦・・・真の敵はヨルドです。」

青年将校は東の方角を指差して言った。

「馬鹿な!?新王はヨルドに与すると申しておるのだぞ!!」

「将軍、ヨルドがなぜ此度の戦に参戦せずに静観をしているかお分かりになりますか?」

しばし考え込んだニールは何かに気付いたように青年将校の方を向いた。

その表情を見た青年将校は頷きながら答えた。

「将軍、我々も進むべき道を決めるべきかと・・・」

「ケン、お前は密かにカーンに赴きレドム殿と連携を図れ。」

「かしこまりました。して、将軍はどうなさるのですか?」

「私は隊を砦の北西に移動させる。この状況だ・・・スベルナニアに亡命する他あるまい。」

ケンと呼ばれた青年将校は大きく頷いた。

「私も同感です。今は退き機を待つのが得策かと・・・」

「急げ!直に開戦するぞ。」

「はっ!」

ケンは一礼するとその場を後にした。


カーン砦ではレドムが兵を広場に招集していた。

レドムはテジムと壇上に上がり兵たちを見渡した。

レドムを見た兵たちは一糸乱れぬ動きで敬礼を交わしていた。

ひとしきり見渡したレドムは手をかざしてその手を下ろさせた。

「皆、私についてきてくれた事に礼をいう。しかし、戦局は絶望的だ。」

兵たちは誰一人として動揺を見せない。

「ここに至り我々は開戦と同時にこの砦を放棄し、スベルナニアに亡命する!」

この言葉を聴いた兵たちから初めて動揺の声が漏れた。

レドムはざわめきをよそに話を続けた。

「此度の戦、我らに勝ちの目はない。敵は討伐軍にあらず!真の敵はヨルドだ!」

兵たちはレドムの言葉に息を呑んだ。

「今ここで我らが戦えばいたずらに国力を削るだけだ。そしてそれはヨルドの思惑でもある。

現状で考えられる最善策は我らが退き、機を待つしかない。」

レドムの言葉を聞いた兵達はざわめき始めた。

そして一人の将校が叫んだ。

「将軍!!将軍は我らに友軍を楯に逃げよと申されるのか!?」

レドムはその将校を睨み付けた。

しかしレドムは何も言わずに視線を逸らした。

将校はレドムのその態度に腹を立て、一層語気を荒げた。

「将軍はこのスルトをヨルドに渡しても良いと申されるのか!?将軍ほどのお方がヨルドを恐れるのか!?」

将校のことばはレドムの胸を締め付けていた。

その時、レドムの背後から不意に声がした。

「そこの将校、言葉が過ぎますよ!?」

レドムは背後の声の主を見て驚きを隠せずにいた。

「お、お前はケンではないか!?」

「お久しぶりでございます。将軍・・・」

ケンは敬礼をして挨拶を交わすと、先の将校に向かって語りかけた。

「将軍はヨルドを恐れてなどおりませんよ。将軍が恐れているのは無益な戦による無駄な死です。」

「国を守る事が無益で無駄な事だとお主は言うのか!?」

ケンは黙って首を横に振った。

「国を守ることと自らの信念を守ることとは意味が違います。スルトという国と民を守りたいのなら・・・今は退くべきでしょう。」

「き・・・貴様は一体何者だ!?」

将校に指差されたケンは口元に笑みを浮かべた。

「これはこれは・・・申し遅れました。私、スルト軍第二近衛師団ニール隊所属ケン・ハモンドともうします。」

それを聞いた将校は愕然とした。

「あ・・・あなたが・・・あの・・・あ、青き風の・・・?」

ケンは笑顔で応えていた。

「将軍、時間がございません。急ぎ出陣し、北西の方角にお向かいください。」

「それよりもケン、お主は何故ここに?」

ケンは手をかざしてレドムの言葉を遮ると平伏しながら言った。

「今は急を要します。細かいお話は後で・・・」

「お前を信じて良いのだな?」

レドムの言葉にケンは目を見ながら答えた。

「我が将と青き風の名にかけて・・・・」

ケンの言葉を聴いたレドムはケンに背を向けた。

「皆のもの、聞いての通りだ!我らは孤立してはおらぬ!!友軍を信じ北の門から出陣、北西に向け進軍せよ!!」

兵達は一斉に声を上げた。

そしてその声は砦周辺の討伐軍にも届いていた。


一方、救援に向かっていたギエンとカシムも討伐軍の動きに変化があったことに気付いていた。

「カシム殿!!」

カシムはギエンに頷いて見せた。

「これより騎馬隊は遊撃行動に移る!皆のもの、着いて来い!!」

カシムの号令に従い、一斉に騎馬隊が駆け出していった。

カシムが出陣したことを見届けたギエンは兵たちに号令をかけた。

「我らは退路を確保すべく騎馬隊の後方支援につく!!いくぞ!!」

ギエンを先頭に歩兵部隊も後を追って出陣した。

残されたアドル達はしばらくその場に立ち竦んでいた。

「アドル・・・?」

茫然自失のアドルにサラが声をかけた。

「え?ああ・・・始まったな。」

「ええ・・・」

アドルは後ろを振り向くと残った者たちに声をかけた。

「今から村長の指示通り北西に向かう。戦場を迂回しながらの行軍になるけど油断はしないで欲しい。」

皆は無言で頷いていた。

「僕とサラが先行する。ギエンさんの隊の方は後方を頼みます。他の人はお年寄りと子供を守るように左右に分かれて欲しい。」

アドルは指示を出し終えると砦の方角を見た。

「戦が・・・始まる・・・」

アドルの呟きに応えるように砦の城門が開いた。


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