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第四話 「始まりの火の手」

第四話 「始まりの火の手」 


アドルとサラがカーン砦に着いたのは昼過ぎだった。

砦の門に一人の男がいた。

レドムであった。

「兄さん・・・?」

アドルは何故レドムが門まで出向いてきたのか不思議であった。

兄弟とはいえ、仮にも砦の主が一兵卒の為に出迎えなどありえなかったからだ。

「アドル、よくきてくれた。君は・・・?」

レドムはアドルの後ろにサラがいることに驚いた。

「お久しぶりです、レドム将軍。」

サラは胸に手を当て一礼した。

「アドル、どういうことだ?」

レドムの問いかけにサラが答えた。

「私が志願しました。何卒、一兵卒としてお加えください。」

サラの態度に戸惑いながらも、レドムは頷いた。

「いいだろう・・・二人とも、皆に合わせる前に話がある・・・着いて来い。」

レドムは二人を引き連れて自室に向かった。

部屋に着くとレドムはアドルたちを椅子に座らせた。

「アドル、サラ・・・本当によく来てくれた。」

「仕方ないよ。状況が状況だから・・・」

サラもアドルの言葉に頷いていた。

「そうか・・・」

レドムはアドルたちが最低限の状況は把握していることを悟った。

「アドル、サラ・・・着いて早々に悪いが、二人には選んでもらわねばならん。」

「選ぶ?」

レドムは席を立つと、二人に背を向けながら話を続けた。

「今朝のことだ。王都から使者がきた。」

「王都から?」

「うむ、国王からの勅命が下った。」

レドムの言葉にサラがいち早く反応した。

「将軍、待ってください!国王は・・・・その・・・」

レドムはサラに向かって頷いて見せると、手をかざしてサラの続きの言葉ををさえぎった

「国王・・・いや、現国王はこの国の領土をヨルドに差し出すと言って来た。」

「ヨルドに・・・差し出す!?」

アドルは両の手を机について立ち上がった。

「そうだ。そして、この命にそむく者と前国王に忠誠を誓う者を逆賊とみなすと言っている。」

「無茶苦茶だ!」

「将軍、現国王というのは?」

「アレン王子だ。」

「アレン王子が何故こんな愚かな決断をされたのですか?」

サラの言葉を遮るようにアドルが口をはさんだ。

「いや、そんなことよりも・・・いつアレン王子は即位されたんだ?」

ふたりの疑問を黙って聞いていたレドムが一言だけ呟いた。

「ふたりとも、選べ。」

レドムの言葉に二人は黙った。

「アレン国王のもと、ヨルドの属国になるをよしとするか・・・それとも・・・」

「逆賊の汚名をまといながらも、自分の信じる正義を貫くか・・・だろ?」

レドムの言葉を先読みしたアドルが続けた。

「・・・そうだ。」

アドルは少しおどけながら答えた。

「聞くだけ無駄じゃないのかな?」

「そうよね?」

「分のない戦になる。しかも、同胞を打たねばならんのだぞ?」

レドムは軽々しく答える二人をたしなめるように言った。

「分かってる。それに、ヨルドも相手にしなくちゃならない・・・」

「そうよね、手引きしていたのがアレン国王なら、呼応していると考えるのが妥当だもの・・・」

二人はレドムの話を聞いて、冷静に状況を把握していた。

そんな二人に頼もしさすら感じたレドムは念を押すように聞いた。

「本当に・・・いいんだな?」

二人は黙って頷いた。

「では、皆に引き合わせよう。」

レドムは二人をつれて自室を出た。


カーン砦には見張りの塔の下に中庭がある。

レドムはテジムに二人を引き合わせると、中庭に兵達を招集するように指示を出した。

テジムがその場を離れてものの数分で兵達は中庭に集合していた。

アドルが見ると、兵達は一糸乱れぬ隊列を組み、その錬度と士気の高さをかもし出していた。

レドムはテジムに聞いた。

「何人・・・残った?」

テジムは誇らしげに答えた。

「ご覧のように、誰一人として欠けておりません。」

それを聞いたレドムは苦笑いを浮かべると、呟くように言った。

「酔狂な奴が多いな・・・私の周りには・・・」

レドムは壇上に上がると、兵達に話はじめた。

「まずは、皆がこの砦に残ってくれたことに感謝する。」

兵達は口々にレドムの決断に賞賛を贈っていた。

レドムはその声に手をかざして答えると、真剣な表情を浮かべながら続けた。

「しかし、我々が選んだこの道は同胞との戦という茨の道だ。」

レドムの言葉にその場が水を打ったように静まり返った。

「今日、新たに二人の若者が我が砦に来てくれた。紹介しよう・・・」

レドムの手招きに呼ばれるように、アドルとサラはレドムの隣に立った。

「アドル・ルフト、そしてサラ・スエンだ。」

二人は軽く頭を下げた。

「皆も知っているように、アドルは私の弟だ。そして、サラはあのスエン将軍のご令嬢だ。」

兵達がどよめいた。

「この二人には軍歴こそないが、実力は私が保証しよう。二人には私の指揮下に入ってもらう。」

レドムは兵達の表情を見て、異議がないことを見て取ると解散させた。

「アドル、サラ・・・これで、引き返せないぞ?」

アドルとサラは表情を硬くし、黙って頷いた。

その時だった・・・

「伝令!」

物見の塔から降りてきた兵がレドムの下に駆け寄ってきた。

「どうした?」

「砦の東50ミルで火の手が上がっております!」

「なんだと!?」

「恐らくサロが襲撃にあっているものかと・・・」

アドルとサラは顔を見合わせると厩に向かって走っていった。

「まて!アドル、サラ・・・!」

二人はレドムの制止を聞かずに行ってしまった。

「ギエンを呼べ!それと、テジムに戦の準備を急がせろ!」

「はっ!」

レドムは二人を気にしつつも、指揮所へと向かった。

「何事だ!?」

「ギエン、来たか・・・ヨルドの動きが予想以上に早かった。」

「どういう事だ?」

「サロが襲撃された。」

「なんだと!?」

「アドルとサラが飛び出して行ってしまった。ギエン、二人を追って欲しい。」

「分かった。」

「私もすぐに後を追う。」

「いや、お前は残れ・・・ヨルドの動きが陽動の可能性もある。」

「しかし・・・」

「案ずるな。二人はまかしておけ。」

「・・・分かった。頼む。」

ギエンはレドムに背を向けながら軽く手を振って見せた。


一方、砦から飛び出した二人は馬を急かせていた。

(・・・お父さん!)

サラは手綱を握り締めながら、父の無事を祈っていた。

小一時間ほどすると、かすかな異臭が鼻をつくようになった。

そしてサロの大風車が見える距離まで来たとき、二人は目の前の光景に驚愕した。

村は火の手に包まれ、いたるところに村人が変わり果てた姿で横たわっていた。

あまりの惨状に、二人は言葉を無くして立ち尽くしていた。

「な、なんて・・・ことを・・・」

アドルは怒りにその身を震わせていた。

サラは茫然自失となって、立ち尽くしている。

アドルはサラをその場に残し、村に足を踏み入れた。

そこは・・・地獄だった。

今朝まで過ごしてきたその場所は、おびただしい死と破壊に満ちていた。

村長を探しながら村を徘徊したが、村長はおろか生存者すら見つけることができなかった。

落胆しながらサラの元に戻ると、ギエンが手勢のものを引き連れて追いついてきていた。

「おお、無事だったか!?」

「ギエン将軍・・・?」

アドルは何故そこにギエンがいるのか理解できずにいた。

「レドムが心配していたぞ?全く・・・無茶をする・・・」

「ギエン将軍、これが・・・戦ですか?」

アドルは眼前の地獄を凝視しながら呟いた。

「無抵抗で非力な民を軍隊が制圧する・・・しかも・・・一方的に!」

「たしかに・・・これは酷いな。」

「アドル・・・お父さんは?」

我に返ったサラが恐る恐るアドルに聞いた。

「見当たらなかった。もしかしたら、どこかに逃げ延びているのかもしれない。」

それを聞いたサラは気が抜けたようにその場に座り込んでしまった。

「よかった・・・まだ死んだと決まった訳じゃないのね・・・」

「あぁ、大丈夫だよ、きっと。」

アドルはサラの肩に手を置いて慰めた。

その時、物見の兵がギエンの下にもどってきた。

「伝令!前方10ミルにて戦闘が行われております!」

「まことか!?」

アドルはそれを聞くや否や馬に跨り、駆けて行った。

「いかん!アドル、戻れ!」

ギエンの静止も空しく、アドルはその場を後にしていた。


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