まろ言うな!
例によってネタを思いついたのですが、長編を1本書いていて余裕がないので短編にしてみました。
毎度、誤記チェックとかも出来ていませんが、温かい目で読んでいただけると助かります。(^^;)
その日、大学生の山城勇気は、授業も終わりアパートに向かって帰宅していた。
とある神社の石段に差し掛かった辺り。
足元からする、弱々しい鳴き声。
視線を落とすと、痩せたぶちの子猫がいた。
この子猫、俺と目が会うなり、いきなりじゃれてきた。
めちゃくちゃ、かわいい。
「お前、可愛いな。」と褒め、あごの下の方を撫でてやる。
子猫は、目の辺りは黒いのだが、まるで丸い眉のように白い所が二箇所ある。
第一印象、まろだな。
子猫に首輪はない。
こんなに小さい子猫なのに、もう野良をやっているのだろうか。世の中、世知辛いものだ。
そうは思ったが、念の為、交番に届けを出して、飼い主が名乗り出てくるまで飼うことにした。
名乗り出てこないなら、そのまま飼えばいい。
「まろ・・・。見たまんまか(笑)」
この子猫、『まろ』と呼ぶと体をひねってじゃれてくる。時折、猫パンチも混ぜてくる。
山上はこの時、この名前を気に入ったのだろうと思い、この子猫を『まろ』と名付けることにした。
が、真相は違った。
この子猫、実は数ヶ月前、高校三年生の時に事故死した小学生からの幼馴染、恋人だろうと揶揄されていた吉田紗季が転生した猫だった。
吉田は事故に遭った後、神社の境内の下で猫として転生した。
正真正銘の野良。
飼い主はいない。
暫くは母猫の乳で育ったが、生まれて数ヶ月、人間の時の記憶が邪魔をして母猫が持ってきたネズミは無理。もちろん、虫も食べることが出来ず、痩せ衰えていった。
そろそろ死ぬ・・・。
私は、子供がよく野良猫に餌付けをしているのを思い出し、神社の境内から外の世界に踏み出すことを決意した。
鳥居を抜け、階段から街を見下ろす。
この神社は、高台の上に建っている。
見下ろした街には、人の営みが広がっている。なんとなく、懐かしさを感じる。
階段の下を見下ろす。
人間の頃は、神社の石段なんて何とも感じなかった。だが、今は子猫の姿。
神社の石段、こんなに急だったか?
一段一段が、思ったよりも高くて怖い。
石段の脇の斜面を伝って降りていくことにする。
半分降りた所で、蝶を見かける。
猫の本能がウズウズする。
お腹は空いているのに。
無駄な力を使うまいとなんとか我慢し、下に向かう。
下に着くと、何の因果かそこには見慣れた顔があった。
助かった!勇気のやつだ!
確か、勇気は隣の県の大学を受けると言っていたので、ここは埼玉か。
私は紗季だと気付いてもらうために、勇気に呼びかけながら足元を猫パンチした。
勇気は私を抱き上げ、顔を近づけて笑顔で「お前、可愛いな。」と言って下あごを撫でてきた。
こんなに面と向かって可愛いと言われると、ちょっとドキドキする。
私は、このまま勇気の家で飼ってもらえるんだと思ったのだが、よりによって警察に連れて行かれた。
地獄に仏と思っていたのに!
私は紗季だとアピールして、通じたんだと思っていたのに!
ものすごく、裏切られた感がある。
警察に渡されて保健所に行った日には、野良なので殺処分になるかも知れないと思うと泣けてくる。
さっきまで私のことを「可愛い」と言ってくれたのに、即ポイ捨て?
人間だったら、私、絶対「勇気、サイテー」って言ってるよ!
今は「ニャー」としか言えないけど……。
一生懸命、勇気に飼ってくれとアピールする。
だが、通じず手続きは進んでいく。
悲しくなっていると、勇気が「一先ず、飼い主から連絡があるまで俺が面倒を見ます。もし、飼い主が名乗り出てきたら、さっき書いた紙のところに電話してください。」と警官に言いながら私の頭をなでてきた。暫定ではあるが、勇気に飼ってもらえるようだ。
とにかく助かった。
殺処分は、御免こうむりたい。
そう思ったのもつかの間、山城は私に名前を付け始めた。
紗季・・・は無理だろうけど、せめて可愛い名前にして欲しい。
が、その期待は淡く消え去った。
勇気のやつ、「まろ・・・。見たまんまか(笑)。」って、それ、ひどくない?
子供に付けたら、絶対に駄目な名前だよ?さっきからまろ、まろって、まろ言うな!
鳴いても通じないので、体をひねって抗議する。
それでも通じないので、猫パンチ。
武士の情けで、爪は立てないでおいてやる。
結局、この抗議は届くこと無く私の名前は「まろ」に決まってしまった。
意思を疎通する手段が見つかったら、猛烈に抗議して絶対に変えさせてやろう。
私は、そう心に誓った。
勇気の家に向かう途中、コンビニで勇気が猫缶を買う。
それじゃない!
私が食べたいのは、そっちのサンドイッチよ!
そうアピールしたが、通じなかった。
ちなみに勇気は、焼肉弁当だ。
勇気の家に入ると、急にドキドキしてきた。
これから一緒に住むという事は、つまり、同棲だ。
向こうは猫としか思っていないから、どうという事もないだろうけど。
けど、こっちは何となく気恥ずかしい。
部屋に入り、勇気が服を脱ぎ始める。
私は抗議の意味で鳴いたのだが、「お前、腹減ってんのか。ちょっと待ってろよ。」と言って猫缶を開け、床に置いた。
グ〜〜〜〜!
否応なく反応する、私のお腹。
お箸は・・・、あったとしても使えないか。
誰か、猫用のお箸を発明して欲しい。使えるのは私みたいな転生した猫くらいだろうけど。
本当は人間と同じ物が食べたいが、贅沢は言っていられない。
とは言え、他に食べられそうなものもない。
私は恐る恐る、一口、猫缶を食べた。
めちゃくちゃ美味しい!
むしろ、人間の時から食べたかった!
思わず、がっついてしまう。
「おー、よく食ってんなー。」
そんな事を言いながら、勇気は着替えを済ませ、夕食の焼肉弁当を食べ始めた。
こうして、一緒に住み始めたこの二人。
お風呂騒動、自分からの見知らぬメール騒動、一緒に住んでんだから自慰は控えろ事件、誘拐騒ぎ。
色々あったものの、なんだかんだで毎日ご飯が食べられて幸せを感じる紗季であった。
おわり
ちなみに今回は、野良猫って、ネズミや虫なんかも食べるらしいという話から広げました。
この先は、
・女子高生の紗季がまろに転生したのに、知らない勇気くんが無理やりお風呂に入れてしまうやつ
・まろが家に置いてあるノートPCをいじって勇気あてにメール送信するやつ
・まろが勇気のオ◯ニーの現場に遭遇するやつ
・まろが紗季と判って名前が紗季に変わるやつ
・それを周囲の人が見て、死んだ幼馴染の名前を猫に付けるなんて重症だと心配するやつ
・紗季が近所の家猫に襲われそうになっているところを勇気が偶然助けるやつ
・紗季がワクチン接種するやつ
・勇気が可愛い女の子を家に連れてくる(真相は無理やり入ってきた)やつ
・紗季がノートPCを使うところを偶然勇気の友達に見つかって拉致られるやつ
・友達が世間に公表した結果、そこで助けを呼ぶ事が出来て助け出されるやつ
・紗季の両親が紗季を引き取ろうとするやつ
・無事、二人で暮らせるようになるやつ
と言った感じの構想ですが、おっさんが書いても面白くならないのでこれで一区切りとなります。。。(^^;)
* 2021/10/16
階段を降りる描写を追記。
その他、こまごまとした所を大筋を変えずに修正。