かごめかごめは輪になり廻る
読書家の友人がビールとコンビニ弁当、それと携帯電話を残して忽然と居なくなった。家族が警察に行方不明届を出したとかどうとか、しばらく周りで噂になっていた。
あの日、奴はこれ面白いよと読んでるウェブサイトのソレを勧めてくれた。ホラー小説だけどね、冬場に読むのもオツだよと屈託なく笑っていたのに。
電話のやり取りの最中、お前この歌知ってる?と聞いてきたから知ってると話をしたのに。
何も言わずに消えてしまった奴。残されたのはウェブサイトの一遍の小説。
どんな話なのか。気になるから読んでみる事にした。テーブルの上には、缶ビールが数本とコンビニ弁当。
――、追いかけて読んでる小説がある。ジャパンホラーテイストのそれ。朝からは何なので、何時も仕事帰りに電車で読むのが最近の日課。
――『お兄ちゃん、あそぼ』、おかっぱ頭の子供が僕に言う。
「君と?」
僕はその子に答えた。
「ううん、いっぱいと」
パカっと紅い口を開いて子供が笑う。
お兄ちゃんあそぼ、あそぼあそぼ!子供の足元の影がズズズ……と泥饅頭を形作ったあと、伸び上がり、ヒトの形を取っていく……、手を繋ぎ僕を取り囲むと、歌をうたい始めた』
帰り道、頭の中で作中歌が流れてしまった。
駅で降り歩いていても、流れている。
耳に憑いてしまった。しばらくすれば消えるだろうと、特に気にはしない。
家に到着。鍵を開け部屋に入る。
頭の中に流れる作中歌。馴染みあるそれだったからか、つい口ずさんでしまう。
靴を脱ぎワンルームの室内に上がる。口ずさんでいる。テーブルの上に、ビールとコンビニ弁当が入ったエコバッグを置いた。
先に食べようかと思ったが、シャワーを浴びてから……、人混みから戻ったせいか埃っぽく感じていた。バスルームへ向かう。
シャァァァァ……、シャワーヘッドからお湯。ボトルからシャンプー。髪を濡らし目を閉じ泡立てる。
……、かあごめかごめ
シャァァァァ、音に混じり歌が混ざる。小説に出ていたあの歌だ。
……、かあごのなぁかのとぉりぃはぁ。
「いついつ でぇやあるぅ」
自問自答。バスルームには他の誰もいない。
……、よあけの ばんに
律儀に続き。シャァァァァ……、音に混ざるソレは頭の中で流れている。
「つるとかめがすべった……」
泡を流し終え、カランを止める。ポタポタ、ポタポタ……、ヘッドから名残の湯が落ちる。流石に終わったな。と目を開けて鏡を見ると……、
「うしろのしょうめん、だぁれ」
おかっぱ頭の子供がそこにいた。
「お兄ちゃんあそぼ」
鏡の中でその子が笑う。紅い口をパカッと開いて……。慌てて鏡の前を離れて脱衣所へと出た。
ガタガタとする震えを押し殺す、ポタポタと身体を伝い滴り落ちる雫。バスタオルで拭き取ると着替える。
「お兄ちゃんあそぼ」
背後から声……。そこに有るのは洗面台の鏡。
ギ、ギ、ギ……。軋むように目を動かし少しばかりそちらに向けた。ヤメロ!本能が危険を告げている。
「お兄ちゃんあそぼ」
鏡の中の自分。子供の足元の影がムクムクと盛り上がる。小説と同じ様にそれに取り囲まれた!ガクガクとする足元。ワナワナと震える、カチカチと歯の音。
歌が始まる。そして……、
――、ここで小説は終わっていた。何だ?尻切れトンボだな。と思いつつビールを飲んだ。弁当を食べる前に風呂に入っておこう、残っている缶ビールは食べながらゆっくりやろうと、思いつく。
シャァァァァ……、シャワーヘッドからお湯。ボトルからシャンプー。髪を濡らし目を閉じ泡立てる。
……、かあごめかごめ
ん?小説に出て来た歌が聞こえた。
……、かあごのなぁかのとぉりぃはぁ
「いついつでぇやあるぅ」
答えた。そしてそれから……。
――、友人が行方不明になった。部屋には飲みかけのビールと手つかずのコンビニ弁当。それと携帯電話。
あの日、突然親友が居なくなり、落ち込んでいた彼とラインでやり取りをした。
おすすめされた小説を、飲みながら読んでみるよと返信があったのに……、どんなのだろう。タイトルを教えて貰っていたから、これから読んでみる。サイトにアクセス、ジャンルはホラー。
タイトルは……、
かごめかごめは輪になり廻る。