表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

桜子さんのそんなに怖くないお話

かごめかごめは輪になり廻る

作者: 秋の桜子

 読書家の友人がビールとコンビニ弁当、それと携帯電話を残して忽然と居なくなった。家族が警察に行方不明届を出したとかどうとか、しばらく周りで噂になっていた。


 あの日、奴はこれ面白いよと読んでるウェブサイトのソレを勧めてくれた。ホラー小説だけどね、冬場に読むのもオツだよと屈託なく笑っていたのに。


 電話のやり取りの最中、お前この歌知ってる?と聞いてきたから知ってると話をしたのに。



 何も言わずに消えてしまった奴。残されたのはウェブサイトの一遍の小説。



 どんな話なのか。気になるから読んでみる事にした。テーブルの上には、缶ビールが数本とコンビニ弁当。






 ――、追いかけて読んでる小説がある。ジャパンホラーテイストのそれ。朝からは何なので、何時も仕事帰りに電車で読むのが最近の日課。


 ――『お兄ちゃん、あそぼ』、おかっぱ頭の子供が僕に言う。


「君と?」


 僕はその子に答えた。


「ううん、いっぱいと」


 パカっと紅い口を開いて子供が笑う。


 お兄ちゃんあそぼ、あそぼあそぼ!子供の足元の影がズズズ……と泥饅頭を形作ったあと、伸び上がり、ヒトの形を取っていく……、手を繋ぎ僕を取り囲むと、歌をうたい始めた』  




 帰り道、頭の中で作中歌が流れてしまった。


 駅で降り歩いていても、流れている。


 耳に憑いてしまった。しばらくすれば消えるだろうと、特に気にはしない。



 家に到着。鍵を開け部屋に入る。


 頭の中に流れる作中歌。馴染みあるそれだったからか、つい口ずさんでしまう。


 靴を脱ぎワンルームの室内に上がる。口ずさんでいる。テーブルの上に、ビールとコンビニ弁当が入ったエコバッグを置いた。


 先に食べようかと思ったが、シャワーを浴びてから……、人混みから戻ったせいか埃っぽく感じていた。バスルームへ向かう。


 シャァァァァ……、シャワーヘッドからお湯。ボトルからシャンプー。髪を濡らし目を閉じ泡立てる。



 ……、かあごめかごめ



 シャァァァァ、音に混じり歌が混ざる。小説に出ていたあの歌だ。


 ……、かあごのなぁかのとぉりぃはぁ。


「いついつ でぇやあるぅ」


 自問自答。バスルームには他の誰もいない。


 ……、よあけの ばんに


 律儀に続き。シャァァァァ……、音に混ざるソレは頭の中で流れている。


「つるとかめがすべった……」


 泡を流し終え、カランを止める。ポタポタ、ポタポタ……、ヘッドから名残の湯が落ちる。流石に終わったな。と目を開けて鏡を見ると……、



「うしろのしょうめん、だぁれ」



 おかっぱ頭の子供がそこにいた。


「お兄ちゃんあそぼ」


 鏡の中でその子が笑う。紅い口をパカッと開いて……。慌てて鏡の前を離れて脱衣所へと出た。


 ガタガタとする震えを押し殺す、ポタポタと身体を伝い滴り落ちる雫。バスタオルで拭き取ると着替える。


「お兄ちゃんあそぼ」


 背後から声……。そこに有るのは洗面台の鏡。


 ギ、ギ、ギ……。軋むように目を動かし少しばかりそちらに向けた。ヤメロ!本能が危険を告げている。


「お兄ちゃんあそぼ」


 鏡の中の自分。子供の足元の影がムクムクと盛り上がる。小説と同じ様にそれに取り囲まれた!ガクガクとする足元。ワナワナと震える、カチカチと歯の音。


 歌が始まる。そして……、





 ――、ここで小説は終わっていた。何だ?尻切れトンボだな。と思いつつビールを飲んだ。弁当を食べる前に風呂に入っておこう、残っている缶ビールは食べながらゆっくりやろうと、思いつく。


 シャァァァァ……、シャワーヘッドからお湯。ボトルからシャンプー。髪を濡らし目を閉じ泡立てる。



 ……、かあごめかごめ



 ん?小説に出て来た歌が聞こえた。



 ……、かあごのなぁかのとぉりぃはぁ



 「いついつでぇやあるぅ」


 答えた。そしてそれから……。





 ――、友人が行方不明になった。部屋には飲みかけのビールと手つかずのコンビニ弁当。それと携帯電話。


 あの日、突然親友が居なくなり、落ち込んでいた彼とラインでやり取りをした。


 おすすめされた小説を、飲みながら読んでみるよと返信があったのに……、どんなのだろう。タイトルを教えて貰っていたから、これから読んでみる。サイトにアクセス、ジャンルはホラー。


 タイトルは……、


 かごめかごめは輪になり廻る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] シャワー中の浴室という水場に、「かごめかごめ」の童謡。 Jホラーの王道的道具立てが、和風の恐怖感に満ちた世界観を構成していますね。 行方不明者が次々に出る展開も、「かごめかごめ」の別名であ…
[一言] 「かごめかごめ」はホラーではテッパンですよね。歌聞いただけで怖いです。 シャワーのシーンが歌とリンクしていて一番怖かったです。ラストも秀逸な終わり方で、良いホラー作品を味わえました。
[良い点] 謎と媒体があってそれを起点にホラーが続く定番ですが、描き方が上手いですね。媒体の最後で疑問を抱きつつも何処か拍子抜けにさせておいて、心に余裕というか安堵を持たせてからの本番がまた上手い。そ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ