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聖女の条件ー家出した令嬢は精霊に愛される

誤字脱字報告をいただき、ありがとうございました。


「では、本日の聖女試験の前に『聖女の条件』について、お話をします。あなたが、この条件を受け入れることが、聖女試験を受ける資格となります」


 光の神殿の一室で、壮年の神官長は、重々しい口調でマリナに言った。


―いよいよ、なのね……。でも……私、今になって、何故、リューの顔が心に浮かぶの?


 神殿に滞在し、試験を待っていた3カ月の間、友人のように過ごした青年の顔が、マリナの心に浮かぶ。


「はい。始めてください」


 マリナは、自分の迷いを打ち消すように姿勢を正し、言った。


「では、始めますね。あ、ご質問はありますか?おおよその説明はさせていただいたつもりですが、なんせ、約1000年ぶりの聖女試験で……。私も初めての経験です。説明が足りない点は、ありませんでしたか?」


神官長は、目の前の分厚い書物に目を落としながら言った。


「あの……なぜ、聖女試験は、1000年もの間、行われていなかったのでしょう?」


「ええっと……。なんでも、この1000年間に3人の光の精霊が現れたそうです。1000年前に聖女試験が行われ、1人の女性が、1人目の精霊と契約し、聖女となった。その後、500年前にその聖女が亡くなり……つまり、精霊が寿命を迎えた、ということですね。次の精霊は、おおよそ400年生きたが、聖女になりたいと女性が来ても、自分には聖女は不要と言って、試験を受けさせることが無かったそうです。今日の試験は、3人目の精霊が行います。……この説明でわかりますか?」


 マリナは、神官長の言葉にうなずいた。


「もう1つ質問してよいでしょうか?『聖女の条件』を受け入れるというのは、その条件を了承するということ、と考えてよいでしょうか?」


「そうですね……。了承するというより、約束のようなものだと、書物には書いてあります。約束を破ると、罰せられると……」


「約束ですか……。条件とは、聖女の規則のようなものなのですね。わかりました。……もう、質問はありませんので、進めてください」


 マリナは、そう言い、緊張した面持ちで、神官長の言葉を待った。


「では、条件をお伝えします。1つ目の条件は、『正しい心を持っていること』です。この神殿に参られた時にあなたの『聖女になって、人を癒す仕事をしたい』という強い意志は、お聞きしました。ですので、この条件については、改めて確認をしなくてもよいかと私は、思っています」


「はい。ずっと、人々の病を治す仕事をしたいと思っていましたから……」


―そうよ。私は、ずっとずっと、聖女になりたかった。そして……、やっと、試験が受けられるのよ。


 マリナの強い意志の持った目を見て、神官長はうなずき、話を続けた。


「では、2つ目の条件です。……2つ目の条件は、『恋をしないこと。』です」


「え……?恋……ですか??」


―もう少し、厳格な条件かと思っていたけれど、恋をしないことが条件だなんて……。恋……そう聞くと、やっぱり、リューの顔が浮かぶ……。


「あの……、それは、どういうこと……」


 チュン……チュン……


 マリナが、神官長に疑問を投げかけようと口を開いた時、2羽の雀が、部屋の窓を叩いた。


「もしかして……、リュー?」


 マリナは、窓のほうを見て、つぶやいた。


「マリナ様、もしかしてリュー様をご存じで……?あの方の存在は、私しか知らないはずなのですが?」


「はい。リューのことを知っています。彼とは、私がこの神殿に到着した日に出会いました……」


 神官長に尋ねられ、マリナは、3カ月前の出来事を話はじめた。





―光の神殿に行けば、聖女になるための試験が受けられる。聖女になる試験を受けるまでは、神殿が保護してくれるはず……。見つかる前に早く、神殿に着かなければ。


 3カ月前、そう思いながら、マリナ・レグラス侯爵令嬢は、王都で雇った町馬車に揺られ、夜道を光の神殿へと急いでいた。


 その日は、マリナの18歳の誕生日だったが、夕食時、マリナの母は、祝いの言葉は口にせず、「あなたより、20歳も年上で、後妻になるけれど、金持ちの公爵と縁談がまとまったわよ。支度金も頂けるし、本当によかったわね」と喜んで、ワインを飲みだした。

 その様子を見たマリナは、これはチャンスだと、喜びのワインに酔う母親の目をすり抜け、王都にあるレグラス家の屋敷から逃げ出したのだった。


「外に人がいます!」


 神殿の明りが木々の合間に見え始めた頃、急に馬車が停まり、御者が叫んだ。

 マリナが馬車の窓から覗くと、青年がうずくまっているのが見えた。


「大丈夫ですか?気分が悪いのですか?怪我ですか?」


 馬車から降り、マリナはその人へ駆け寄った。


「大丈夫。ウサギの足の怪我の手当をしていただけだよ。ねぇ、君、心配してくれるのはありがたいけど、護衛もいないのに女性1人で、外に出ちゃだめだよ」


 振り返りそう言った青年の顔が、御者の持つランプの明りに照らされた。

 その美しさにマリナは息を飲んだ。


―銀の髪にアクアマリンのような青い瞳……なんて、きれいな男性かしら……。


 青年の手から飛び出したウサギは、怪我をしているはずなのに、不思議なことに元気に森の奥へ走って行った。


「ふーん、君、聖女になりに来たんだ」


 その青年は、マリナを品定めするようにじっと見て、言った。


「な、なんで、わかったのですか?」


「聖女かぁ……。このまま帰ってもらえると、面倒が減っていいけど……。人を助ける為に、こんな暗い森へ1人で飛び出す、お人好しな令嬢に興味が沸いたよ。また、会おうね」


 そう言って、その青年は、森の中へと入っていってしまった。




「リュー様が、『また、会おう』と言ったのですか??あの、人間に興味が無く、人に仕事を押し付けるだけのリュー様が……?」


 神官長は、そう小声でつぶやくと、マリナへ尋ねた。


「ほかには、リュー様は、なにかおっしゃっていましたか?」


「はい……。お話しします」


―なぜ、リューのことを聞くのかしら?森に住んでいるから、知っているのかしら?『聖女の条件』と関係は、ないわよね?


 疑問を感じながらも、マリナは、話を続けた。


「こんなこともありました……」




「あ、あの、リューは、森に隠れて住む……盗賊……それとも、失脚した王子様なの?」 


 その日、マリナは思いきって、リューにそう尋ねた。


 神殿に逃げ込んで以来、マリナは、神殿を囲む森の中をよく歩いた。

 神殿を囲む森は、光の精霊の住む聖なる森とされていて、精霊の力のせいか獣が人を襲うことはなく、人間の狩猟も禁じられていることをマリナは、神官から教えられた。


 その森で、マリナは、あの美しい青年と何度も会うようになっていた。

 青年は、自分の名を『リュー』と名乗った。


 木の株の上に座っているリューは、肩にとまった雀の羽を撫でながら、答えた。

青年は、この森の動物に好かれているようだった。


「あのねえ……。本の読みすぎじゃない?僕は、隠れている訳ではないよ。ここにいないといけないの。それに、盗賊とか王子だったら、仲間とか従者がいるでしょ。ほら、見て。今日の僕の友達は、雀だよ……。長い時間、ここにいるけど、動物達だけが、僕の友達だよ」


「リュー、この森で、ずっと1人で暮らしていたの?てっきり、誰かと一緒かと……。食事は、大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。まったく、君は、面白い子だね」


 そう言って、リューはくすりと笑い、マリナの髪についた木の葉をとった。

 リューの顔が近づいてきて、マリナは顔を赤らめた。





「なるほど……」

 

 神官長は、心なしか赤らんだ顔でそのマリナの話を聞いていた。


「あ、あと……聖女の試験の際に、お話ししようと思っていいたのですが……こんなこともありました」 


 マリナは、神官長の様子には気が付かず、話を続けた。





 その日は、森の泉に咲いた水連の花を2人で眺めていた。


「ふーん、君は、家出娘って訳だ。家出もしたくなるよね。よりにもよって、生まれ変わったらこの世界だなんてね」


 泉のほとりにマリナと並んで座り、リューは言った。


 それは、マリナの幼い頃からの疑問を溶かす言葉だった。


 マリナには、生まれつき、日本という国で、看護師をしていたという前世の記憶があった。

 マリナは、日本とは違う異世界へ記憶を持ったまま、転生したのだった。

 

 生まれ変わった世界は、日本より文明的にかなり遅れており、精霊という魔法のような存在がいる世界だった。


「生まれ変わり……。じゃあ、あの日本で看護師をしている私は、本当のことなのね?私、どうしても、この世界でも看護師のような人を癒す仕事をしたくて、聖女になろうと思ったのよ」


 この世界には、火の精霊の力を攻撃に使う、土の精霊の力で、農作物を実り豊かにするなど、精霊という存在の力が、以前マリナが生きた世界の科学や技術のような役割をしていた。

 

 その力は、精霊が認めた人間にだけに貸し与えるとされており、精霊を祀る神殿での修行が必要とされていた。


 マリナの前世でいう医療は、光の精霊の力を借りて人の怪我や病気を治す、癒し手と呼ばれる男性の神官たちが担っていた。 


 それは、光の精霊の力を体に送り、病や傷を治すというもので、マリナには魔法のよう思えた。

 幼い頃、家庭教師に癒し手について尋ねたマリナは、癒し手は、光の精霊の力を骨や体の器官に直接送るのだと教えられた。

 癒し手になるのには、人体のつくりを理解していないと力を送ることができない為、人体について学ぶことが必要なのだと家庭教師は言った。

 

 それを聞き、看護師の知識があるマリナは、自分が女性であることに落胆した。

 神官は、男性しかなる事を認められていなかったからだった。

 

 がっかりした様子のマリナを慰めるかのように、その家庭教師は、聖女のことを教えた。

 聖女とは、光の精霊と契約してその力を分け与えられた女性で、どんな病でも治すことができる存在であると、その家庭教師はマリナに言った。


 それ以来、マリナは、この世界で聖女になることを支えに生きてきた。


 聖女の条件は厳しく、聖女なった者はここ1000年おらず、その条件は、試験を受ける当日にのみ伝えられると歴史書には書いてあったが、マリナは諦めることはなかった。


 マリナは、ずっと家から逃げ出す機会を伺っており、監視役の母親の目が緩んだ誕生日の夜にやっと、家を出たのだった。


「きっと、マリナは、ずっと、違和感を抱えていたよね……。苦しかったよね?この世界じゃ、貴族の娘は政略結婚の道具だし。……ただ、この世界でも前世のような仕事をしたい、という心は素晴らしいし、僕も一緒に仕事をしたいと思うけれど、聖女は、お勧めしないな。僕は、『聖女の条件』は、普通の女の子には、ちょっと可哀そうだと思うんだ。だって……」


 リューの話の途中で、マリナは、わっと泣き出した。


「よかった……。私、変な子じゃないのね??お母様が、いつも私をそう呼んで……。妹だけいればいいって、何度も何度も……。ずっとずっと、苦しかった……。この世界には、理解できないことが多すぎて……。だから、聖女になる事だけが、私の……」

 

「あー、泣かないで、君は変じゃないよ。……前はね、僕は、聖女はいらないと思っていたのだけど……。今は……」


 リューは、顔を真っ赤にしながらも、マリナを抱きよせて、落ち着かせようとした。


 ―リュー様、試験の当日に伝えられる『聖女の条件』を知っているの?一体、何故……?


 リューの腕のなかで、マリナにふっと疑問が浮かんだが、それは、リューの温もりですぐに消されてしまった。





 マリナの話を聞く神官長の顔が、ますます赤くなっている。


「あの……。神官長様??」


「大丈夫です……。あなたは、転生者だったのですね……。侯爵令嬢でありながら、ここへ来たあなたの強い意志……そういうことでしたか」


「はい。……はじめにお話ししようかと思いましたが、前世というものを理解していただけるかが、わからなかったので……」


「大丈夫ですよ。私たちは、異世界の存在も、前世についても学んでいます。それに、過去にここにいた神官にも、異世界の記憶を持って生まれた転生者がいたという記録があります。なんでも、彼は、光の精霊に気に入られ、長生きしたとか……。まぁ、この世界では、特殊な力や知識がある者……それが特に女性なら、生きづらいかもしれませんね」


 そう言い、神官長は、優しく微笑んだ。


「もっと、早くお話をすればよかったです」


 マリナは、安心てた様子で、神官長のほうを見た。

 その時、ふと、リューとの出来事を思い出した。


「あっ、そういえば、リューは、キツネの傷を治したのです。あれは、一昨日、リューに最後に会った時のことでした……」






「うわ、マリナ、血だらけじゃないか。それで、僕の名前を呼んでいたのか」


 スカートを血で赤く染め、暴れるキツネを抱きかかえて座るマリナを見て、リューは声をあげた。


「リュー、よかった……。近くにいたのね。キツネが罠にかかって、暴れていて……」


「……神聖な精霊の森で、罠か……。まったく、人間は……。で、君は、キツネを罠から助けて、今、スカートで押さえて足の傷の止血中、なんだね?」


 マリナは、リューの問いかけにうなずき、言った。


「抱いていないと逃げてしまうから……リューの名前を呼んでたの。私、何も持っていなくて……。

せめて血を止めて森に帰してあげたいのだけど、リューのうちから、いらない布をもらえないかしら?」

 

「全く……。まぁ、頼りにされるのも悪くないね。それにしても、名前を呼ばれるのって、こんなに嬉しいものだったかな……」


 最後の言葉は小声だったため、マリナには聞き取れなかったが、リューはそう言うと、キツネの足に触った。


「これで、大丈夫だよ」


 マリナがキツネの傷を見ると、そこには傷跡が無く、血も止まっていた。


 マリナは、驚いてリューを見て言った。


「リュー……ありがとう。……リューは、癒し手なのね?もしかして、動物専門だから、森の中にいるの?」


「はぁ……。前世の記憶持ちとはいえ、ちょっと鈍いかもしれないね、マリナは。僕の気持ちにも、全く気が付いてないしね」


 ため息をつきながら、リューは優しくマリナを見つめた。





「マリナ様は、本当にお気付きではないのですか?」


 話を聞き終わった神官長は、なぜか呆れた顔をしていた。


「え……?なんのことでしょうか?もしかして……やっぱり、癒し手なので、神官長様は、彼のことをご存じなのですか?」


「あーっ……どうお答えすれば……。とりあえず、『聖女の条件』はお伝えしましたよね。私の役目は、あなたに条件を伝え、あなたを精霊の元に連れて行くことだと聞いています」


 神官長は、マリナの質問には答えず、頭を抱かえながらそう言った。


「あの……、『恋をしないこと』とは、一体、どのような意味ですか?」


「実は……2つ目の条件についての詳しい説明は、試験の際に精霊自らがされるということなんですよ。ただ、神殿に伝わる書物によると、この条件は、普通の令嬢には、かなり難しいと思うのです。

聖女、それは、光の精霊と契約し、光の精霊の半身となり、その力を分け与えられる存在です。それは、精霊と共に生きる、ということです。彼らの寿命は、300年~500年とされていますが、その間、老いることはなく、精霊の元からは、離れられない。だから、『恋をしないこと』が条件とされているのだと……」


「つまり、聖女は、精霊の生贄のような存在ってことですか?あ、でも、前の精霊は、聖女は不要と言った……?聖女とは、なんなのですか?」


 外では、マリナの声を遮るように、雀がチュンチュンと騒いでいる。


「それは……あぁ、そろそろ、彼の我慢の限界かもしれない。あの、……これは、私の推測ですが、たぶん、マリナ様は、条件を受け入れることができると思います。なぜならば……うぁっ……!」


 突然、まぶしい光が部屋の中に溢れた。


 マリナが、おそるおそる目を開けると、そこには、リューが立っていた。

 神官長は、立ち上がり、高貴な人にするお辞儀をしている、


「神官長、余計なことは、言わないで。僕が話すことがなくなっちゃうよ。……ねぇ、マリナ、まだ気が付いてないの?」 


 美しい顔に微笑みを浮かべ、リューは、そう言った。


「リュー……!!なんで??」


「本当は、試験で2人きりの時に伝えたかったけど、神官長の話が長いから、来ちゃったよ」


「あ……、リューが……光の精霊なのね?」


 マリナは、動物たちがリューの傍にやってくること、キツネの傷を治すことができたこと、それらは、精霊の力のせいだと理解した。


「やっと、気が付いた?」


リューは、マリナに微笑みかけて、話を続ける。

「まずは、神官長の話の補足をするよ。精霊には、性別があって、女性と男性の精霊がいる。

僕の前は女性の光の精霊だった。その精霊は、前世の記憶がある神官と恋に落ちて、契約をしたらしい。だから、彼女が生きていた時代は、聖女試験は行われなかった。実際は、そうして精霊と契約した男性も、精霊の力を使えるんだ。でも、この世界では、女性が癒し手のような役目をすることも、結婚をしないことも滅多に無いことだから、女性だけが聖女として、特別視されるようになったみたいなんだ」


「なるほど!それは、書物に追加で記載しないと……」


 嬉しそうにつぶやいた神官長を冷たい目で見ると、リューはまた、話はじめた。


「『聖女の条件』についても、ちゃんと説明するね。精霊との契約はね、精霊が恋した人間としかできないんだ。だって、契約したら、ずっと一緒にいないといけないんだから……。だから、契約の時に聞くんだ。『真っ直ぐな心で、正しく精霊の力を使えるか』『精霊()以外には恋をしないか』と……。これが、『聖女の条件』なんだ」


 リューは、マリナを熱のこもった目で見つめる。

 マリナは、リューを見つめ返すが、驚きで言葉がでない。


「マリナは、いつかは、子供や孫に囲まれて……と考えていたことあるでしょ?普通の女の子には、つらいと思うんだ。長い時を1人の精霊と共に生きるなんて……。でも……」


 話を続けながら、リューの青い瞳が、一瞬、戸惑うように陰る。


―私、『聖女の条件』のことを聞いた時から、リューの顔ばかり浮かんでいたわ......。あぁ……、この気持ち……。私、たぶん、ずっと思っていた……。私、リューと一緒に居たい。


 マリナは、リューの言葉を遮って、言った。


「リュー様、私、『聖女の条件』を受け入れます!」


「あぁ……もう……。ちゃんと伝えようと思ったのに、先に答えるなんて……。やっぱり、君は面白いね」


 そう言うと、リューは、マリナの前に跪き、唇をマリナの手の甲に優しくつけ、言った。


「マリナ、僕の傍にいてくれる……?マリナ・レグラス、『聖女の条件』を受け入れて、僕と長い時を一緒に過ごす聖女()になってください」


 マリナは、真っ赤になりながらも、きっぱりと答えた。


「はい。私、聖女になります。あなたの傍にずっといます」


 マリナがそう言い終わると同時に、リューは、立ち上がり、マリナを抱きしめた。

 その青い瞳には、喜びの色が浮かんでいた。





 なお、マリナが神官長に語った話は、精霊と人間の恋物語として、書物となり、後の世に伝えられることになるのだが、「あの……話もまとまったし、試験は、もう無しでいいですよね?」と神官長が言い、リューに「空気を読め」と睨まれたことは、その書物には書かれていない。


読んでいただき、ありがとうございました。


※(2020.07.04)句読点位置、改行位置を変更しました。文章は変わっていません。

※誤字脱字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 美しい物語ですね。 こういった転生ものは初めてでしたので、視野が広がりました。
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