屋敷幽霊のアリアさん-①
少しの間逡巡したあと、とりあえず【テイム】することにしました。
敵意がないなら別に無理やり討伐する必要もないかとおもったからです。
〔ありがとうございます。誠心誠意、御遣いさせていただきます〕
「いや、私も主がいる身ですから。私より上位の者には従ってもらいますよ?」
〔わかりました〕
綺麗な所作でお手本のようなカーテシーをするメイド服の女性。とてもたわわなモノが前かがみになったときに強調されて思わず視線が行ってしまう。
うん、胸の大きさとか全然気になりませんよ。真っ白な紙に黒いシミがあればそこに視線が向かうのと同じで一部分が強調されていると視線が向かってしまうだけです。ほんとうほんとう、しつじうそつかないです。
「では、いま私が仕えている人とそのご友人を入室させます。大丈夫ですね?」
コクリと肯定したのでお嬢様たちを招き入れる。大丈夫だとはおもうけど、もしお嬢様が嫌がることがあればどこかに移動してもらうか別の家を探す必要がありますね。
結果から言えば心配は杞憂に終わった。最初こそ警戒していたものの、すぐに打ち解けて今も楽しそうに話している。
それに、アリアさんが準備してくれた昼食がおいしかったのが功を制したのだろう。私よりもおいしくつくれてますね。
そうですね。これからは家事もアリアさんがしてくれるのですか。それに多感な時期真っ最中のお嬢様たちの服も洗ってくれるし相談にも乗ってくれるだろう。これは、とてもいいことですね。
「お嬢様、親方様に報告してきますのでしばらく席を外します」
「いってらー」
「……」
「コホン。執事、いってらっしゃい」
「はい、お嬢様」
いいですね。人がいる時はちゃんとしてくださいね?
親方様の許可はあっさりととれた。とはいえ事後報告になってしまったので報告書だけつくっておく。それと同時に屋敷の書庫で家妖精、いやこっちの世界では屋敷幽霊って名前だったか。それに関しての書物を何冊か借りていくことにした。
幸い、借りた家の部屋数は5部屋であり、俺とお嬢様メンバーでちょうど埋まる。
なので一番下の階の出入り口に近い部屋を借りてそこを自室にさせてもらった。
「ふむ……大丈夫そうだな」
自室にて、メガネを外してから借りてきた書物を読み込む。
家や住居に住んでいるとされる幽霊。形態や性格は地域によって異なるが、一般的には美しい姿をしていて家の中で暮らしながらそこに住んだ家族に幸運をもたらすと言われているらしい。
好物も地域や住み着いた個体によって異なり、生前の影響が色濃く表れるらしい。ただ不思議なことに、清潔に家を保つことが好きだと言われていて、一緒に住んでいる家族に家事を手伝ってくれる人がいると喜ぶと言われているそうだ。
基本的に人間に対しては敵対する個体はいない(というか人間の益になる個体を屋敷幽霊と言ってまとめているらしい)が、家が汚れている、家族の中に喧嘩が多い、家族の中に不幸なことが起こっている、酒を飲みすぎる人や嘘をつく人がいると不快に感じて姿を消したり強い個体だと逆に追い出そうとしてくるとか。
《コンコンコン》
〔お風呂が空きましたよ〕
「お嬢様たちは?」
〔もうすでにはいられました〕
「わかった」
そうか、俺の仕事がなくなったのか。自由時間が増えるならゴーレムの研究をしたり、たまには夜の街にでも――――
ふと、もしかして俺って夜の街で遊べないのでなかろうかと思い至った。
いままでのヨツバさんとのあやふやな関係から一歩踏み込んで100年後の結婚を予定した。それはいい。いわゆる婚約者の関係だ。素晴らしいじゃないか。
が、それを考えると夜遊びをするのはアウトだろうか。
「……」
アリアさんと名乗った屋敷幽霊が視界に入る。不思議そうな顔をして首をかしげる仕草に揺れた髪が大きな山脈にひっかかる。
生きていないレイス系の魔物ならセーフか? いやいやいやいや。
雑念を振り払い、浴室に案内してもらう。
〔お背中、流しましょうか? ご主人様〕
「いやいやいやいや」
いやいやいやいや。いや本当に遠慮します。ここ数年、お嬢様の相手ばかりで大人の色香はご無沙汰だったんです。本当に勘弁してください。




