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お嬢様の執事  作者: 天然ソーダ水
学園編
52/58

予定外の引っ越しと想定外の出会い

 王都に戻ってきて最初にやること。それは……


「大掃除ですね」

「や〜だ〜〜」


 お嬢様の嫌がる声が聞こえるが無視。

 いえ、本来なら執事の仕事だというのはわかってますよ? ただ、お嬢様は寮を出て大部屋を借りてみんなで住むことを選んだんです。

 目的は自立の練習ということで実家から送られてきているお金で。なので自分のことは自分でしてもらいます。いつまでも私に頼ったままだとお嫁に行けませんよ?


「そうだ! 別のところ借りようよ!」

「葛飾北斎ですか」

「かつ……?」

「ああ、いえ。こちらの話です」


 葛飾北斎。部屋が汚くなったら別の場所に引っ越しを繰り返したというのは有名な話だ。


 まあ汚く使ったならともかく、しばらく使っていないせいでホコリが積もってるのを掃除するだけなのに引っ越すのはどうなんでしょうか。


「寮以外で暮らす場合の仕送り金は上限が決まっています。その範囲ならパーティメンバーで自由に決めていいかと思いますよ?」

「やったー!」

「ただし、あまり広いところに移っても掃除が大変なだけですからね?」

「はーい」



……

…………

………………




「で、どうしてこうなったんです?」


 場所は王都の端。学園からは結構離れた場所にある小さい、一戸建ての……これは一戸建てと言って良いんでしょうか。いやどこかで見たことのある家ですね。具体的にはムー○ンの暮らしてる3階建ての塔のような家が目の前にあります。


 敷地面積は塔に加えて馬車と馬を置いただけでいっぱいいっぱいになりそうな狭い庭を追加した面積のみ。

 立地が悪く、外観も貴族が住むような見た目ではなく、貴族の移動に必要な馬車も常駐することが難しい場所。ああ、だから王都とはいえ端の方に建てられてるんですね。


「念の為に聞きますけど、借家ですよね」

「ここが安かったんですよ」

「…………なにかしましたか?」

「いえ、確かに交渉はしましたが条件付きなだけでなにもしてはいませんよ?」


 ハイネさんの言葉を受けて3階建ての塔を見つめる。条件ねぇ……妙な気配がするのはそのせいでしょうか。

 そもそも、寮以外で暮らすのに受けた資金で借りた大部屋は実際は資金の7割ほどしか使っていなかった。

 それを吟味したとしても……安すぎる。端とはいえ王都だ。資金の3倍はないと家なんて借りられないはずだ。


「執事〜」

「はいはい、なんでしょうかお嬢様」

「先に入って!」

「…………了解しました」


 お嬢様から鍵を受け取って扉の前に立ちます。念の為にお義父さんから貰った聖魔剣アロンダイトをアイテムボックスから出して構えつつ鍵穴に――ん?

 何故か鍵穴に御札……いえ魔法陣の描かれた紙が貼られてますね。

 それを剥がして鍵穴に鍵を挿し入れ、ガチャリと音がなるまでゆっくりと回します。


「…………」


 一度扉を開けて、隙間から部屋の中を確認して誰もいないことを確かめます。

 玄関から入り……おや? この世界では珍しく靴を履き替えるのですか。スリッパまで用意されてます。


「んん?」


 待ってください。これは()()用意したのでしょうか。

 誰かに歓迎されていると考えていいのでしょうか?


 一旦玄関に戻って顔だけ出してハイネさんのほうを見ます。


「ハイネさん、先程の条件を聞いてもいいですか?」

「別に隠すほどのことでもないのでいいですよ。2年は解約しないことです。そして、家の中で()()()があっても責任はとらないということ」

「曰く付き物件じゃないですか」

「執事さんならどうにかするでしょう? ちなみに、今までに入居出来たのはかなり昔にいた一夫多妻の人と、10年ほど前に住んでいた老夫婦一組だそうです」

「そうですか……」


 情報を貰って振り返ると、今度は小さめのスリッパが4組用意されていました。


「もしかして、家事妖精……いや屋敷幽霊か?」


 そう言うと目の前に魔力が集まっていく。それは少しずつ人型になろうとしていく。どうする? 今なら攻撃出来そうな気もするが。

 そう数巡したあと、見守ることに決めた。


 魔力が集まって、ゆっくりと薄かった身体が実体化していき、徐々にハッキリと見えてくる。見た目は黒に近い赤茶色の髪と目の女性。そして、


「デッッ――」


 思わず漏れそうになる声を手で抑え込む。うん、めちゃくちゃデカイ。ナニがとは言わないけど。一部分が前世と今世で見た中で一番デカイ。


〔アリアと申します。ご主人様〕


 コホン、一部分に視線が行くが全体の様子を確認する。

 カーテシーで挨拶をしてきたアリアの名乗った女性の見た目は20前後か20歳を少し過ぎたくらい。濃い緑色のヴィクトリアン風のメイド服は今の時代のメイド服と比べて若干古いデザインな気がする。

 そのアリアさんが顔を上げると、長い髪を一本の三つ編みにした部分が左肩から前に垂れて大きな胸に乗った。デカイ。


「ネームドか?」

〔誰かにつけられたという記憶はありません。気づいたときには、この名前で存在していました〕


 おそらく念話と同じ理屈なんだろう。言葉を発していないのに、頭の中に声が響く。


 家事妖精ブラウニー。ファンタジーの創作モノで目にする家に住み着く妖精だとされている。


 ただ、この世界には妖精族という存在が既に存在している。だから妖精ではなく、いわゆるレイス(幽霊)系の魔物として分類される()()だ。倒すと魔力が集まって魔石を落とすし。


 つまり、人に取り憑くのではなく屋敷に取り憑いた存在。それが屋敷()()だ。


「敵対するつもりはないんだな?」

「はい、ご主人様」

「その呼び方はちょっとやめてくれないか」

「駄目です」


 本来なら【テイム】するところなんだが……どうしようか。

次は簡単な屋敷幽霊の説明とか。

お掃除とかお風呂とかそんな感じのお話の予定です。

ちなみにアリアさんのとある一部分は約100cm。古い時代の人なのでメイド服に短い小さめのコルセットをつけてます。そのせいで一部分が更に強調されてるので……執事の目を釘付けにしてます。

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