こちら執事、潜入に成功した。
はい、というわけであの後ちょっと王都に寄ってから深夜2時にこちらの領主邸にやってきました。現在屋根の上からの実況となります。
「……ふざけてないでさっさと終わらせるか」
久しぶりのスニーキングミッションだ。革の手袋をちょっと格好をつけるように着けて頭の中で冒険者だった頃のスイッチを入れる。
深呼吸を何度かして、バレないように魔力を遮断する腕輪をつけて一番上のバルコニーに屋根から降り立つ。
ちなみにここまではジャンプで登った。
いや、最初は【転移】しようとおもったんだけどね。万が一にも【魔力感知】とか持ってる人がいたらバレるんだよね。だから魔力を遮断する腕輪だ。これ、自分も魔力を使えなくなる代わりに魔力に関する感知にはまずひっかからない。
あとは気配を遮断するコウモリとフクロウの魔物から作ったコートやら感知系に引っ掛からないような諸々のアイテム各種。
冒険者時代に手に入れたアイテムがこんなところで役に立つなんてね……やはり盗賊や暗殺者はレアドロップがおいしいな。いや本当に。討伐するとゲームみたいに良い物が手に入るんだもの。組織が大きいとお金も溜め込んでたりするし。暗殺者のほうは流石に命がけだしそもそもあまり狙われないけども。
うん、やはりエンカウント率の低いレアエネミーって感覚になるな。
それだけ盛ればあとはステータスの暴力だ。助走をつけて塀にジャンプしてそのままピョーンとバルコニーまで塀の上から跳ぶ。
バルコニーの鍵は……さすがに閉まってるか。
ここで活躍してくれるのは先ほど【テイム】しておいた普通のネズミだ。そう、魔物ではなく普通のネズミ。
そもそも【テイム】には2通りある。信頼関係を築いたり調教して永続的に従属させる方法。
もうひとつが一時的に協力して貰う方法だ。今回はこっち。ちなみに報酬として旅の途中で出た生ゴミを提供する予定。安上がりで良いことだ。
配管を伝って部屋の中に入って、チューチューと鳴きながら何匹も壁にくっつき鍵のところまで届くと器用に開けてくれる。ちょっとかわいい。
というかこの部屋。領主の寝室でした。
気配を消しながらベッドを覗き込むとぽっちゃりした若い男と胸の大きな女性が裸で寝ていた。
いや、裸なのは床にメイド服が散らかってたからわかってたけどね。念の為に確認は必要だとおもいます。下心なんてありません。
寝ているならちょうどいい。懐から睡眠薬を取り出してハンカチに吸わせてからしばらく鼻のところに近づける。1分ほどしてから肩を揺らして確認。ヨシ、よく寝ているな。割と強力なやつなのでこれで数時間は確実に起きないはず。まずは先に別の部屋を確認しにいこう。
……
…………
………………
「おいおいおいおい……」
道中、執務室らしき場所で鍵を見つけたので各種部屋を確認しつつ人がいれば深い眠りに落としていく。
そして魔力を感知する魔道具。ちゃんとありました。玄関付近と執務室らしき部屋とさっきの寝室の中に。
なお、全部魔力切れの模様。こういう魔道具は内部に魔石があって魔力を充填するタイプがほとんどだ。効果の高い魔道具ほど魔力の消費が多いし充填するにも魔力が必要になる。
つまり、経費がかかる。いったいナニにお金を使っているのやら。
「…………まあ、楽でいいか」
ポジティブに行こう。冒険者時代に盗賊団の拠点に侵入した時と同じくらい警戒してたんだが拍子抜けもいいところだ。
寝室に戻って来て脱ぎ捨てられたメイド服と下着を踏まないように抜き足差し足。まずは戸棚をガサゴソ。いろいろと調べてたら枕元に執務室にあったのとは別の鍵を見つけたので確保。
んー、なんか別に変なところには隠してないっぽいしそのまま執務室に。
ゾロゾロと数十匹のネズミを引き連れて執務室を調べていく。気分だけならハーメルンの笛吹き男だ。
時折感知系のスキルで周囲を警戒しながら隠し扉がないかも調べる。こういうのってテンプレだと飾ってある絵の後ろに……ないなぁ。
貴族家の当主の最重要施設。それが執務室だ。今はちょっと力まかせに開けたせいでドアノブがへし曲がってるが、本来なら防音機能はもちろん、特に屋敷の中でも特に頑丈に出来ていて表に出せないようなものの1つや2つはここに保管されているはずだ。これはまあ貴族としては普通なのかもしれない。事実、お館さまの執務室も勝手に入っただけで厳罰対象になるし。
「だからこそ〜♪ 怪しいものはどこかな〜♪」
防音なのを確認してから鼻歌交じりでガサゴソ。
不正の証拠とか、不正をもみ消した証拠とか。
女遊びが酷いってハイネさんが言ってたし職権乱用して不正に貯めた金貨とか裏帳簿とか。
そういうものが出てくるはずだ。少なくともひとつくらい――――。
はい、さっき言ったやつ全部ありました。うっそだろおい。
床の一部を剥がしたら鍵穴があったので寝室で見つけた鍵を挿し込んでみたらあっさりと解錠できた。
ちなみに見つけてくれたのはリーダー格っぽいネズミ君。君には特別に美味しいベーコンを進呈しよう。
モグモグとベーコンにかじりついてるネズミを横目にこの後の予定を頭の中で確認していく。
ここ、ハーフニスは王都の管轄なので管理責任も王都、つまり王室直営になる。そして不思議なことに、近くの宿に近衛兵が泊まっているらしい。
なんでも夕方になって急に王族の誰かが視察目的で来たんだと。まあよくある抜き打ち調査だ。普通は調べられる場所に調べられて困る物なんてあるはずはないけど……まあ引き締め目的もあるし。本来ならね。
「そろそろいいかな? 【召喚】、バンシー」
もう魔力は使えるのでアイテムボックスから昔契約した魔物の魔石を取り出す。
テイマーとサモナー。ゲームでもよく聞くジョブだけどこの世界でのサモナーは魔物を倒した後に残る魔石に特殊な魔法陣を使って仮初の命を与えて契約を行う。
まあつまり……おっと耳栓しないと。
◇◆◇◆
「んん〜〜!!」
外が騒がしくて目が覚めた。
んーもう! まだ外くらいじゃん!
「お〜に〜〜い〜〜ちゃ〜〜〜」
部屋を出て、執事の部屋をコンコンと叩いて――むにゃ。
「はいはい、って扉に寄りかからないでください。開けられません」
「ん〜〜」
扉が開いたので隙間に頭を入れてグリグリと進む。慌てたように執事が扉を開けてくれたので身体を入れて部屋に侵入! そしてベッドに到着!
「や〜す〜み〜〜」
「お嬢様?」
「すやぁ……」
「全く、仕方ありませんね」
バタンと扉を閉めて、鍵をかけたあとに窓を閉める音も聞こえた。
寒いのに窓開けてたのかな? まあいいや、執事の匂いがついたベッドに顔を押し付けて……??
「……つめひゃい」
あったかくない。ぬくくない。むう……。
「む〜〜〜!!!」
横に来るようにベシンベシンとベッドを叩くと仕方なさそうに横に寝転んでくれたので布団を頭からかぶってオバケになりながら上から執事に抱きつく!
「はいはい、まだ暗いですから寝ますよ〜」
「……」
「もう寝てる!?」
執事の上に乗って、心臓の音を聞きながら、起きてるのと寝てるふわふわした感じからまどろみの中に飛び込む。
二度寝は最高。執事も最高。毎日これでもいいかもしれない。――むにゃ。
そもそも……急に大人扱いして……来…て……むにゃぁぁ。




