学園へ(2年目)
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「うん、ただいま。ね、ねぇ執事。今日も……ね?」
「おやおや、すぐにしたいのですか? よろしいですよ?」
「え、待って。今日は……」
「わかってます。先にお風呂ですね? 一緒に、すみずみまで、ですよね?」
部屋に入った私の手をとって抱き寄せながら、そう言うと執事はゆっくりと背中の紐を緩ませて私の服を脱がせ――――
《コンコンコン》
「お嬢様、いま見回りから戻り――」
「わぷぅ!?」
「――ました。……なにしてるんです?」
「な、なっ、ナンデモナイヨ!?!?」
執事が馬車の扉の窓を開いたので慌てて今読んでいた本をお尻の下に隠す。
今、パーティのみんなと館を出発して学園に戻るために馬車で移動をしてるの。
それで馬に乗った執事が軽く周辺を探索してその報告に戻ってきたんだけど……わぷぅってなに、わぷぅって!? びっくりしたじゃない! もぅ!!
しばらく執事には怪しい目で見られたけど……行った? もう行った?
よし、みんな集まって。続きを読もうっと。ふむふむ、こ、これは!? こんなことも??
ふわ……ふわぁぁあああ!?!?
◇◆◇◆
今、お嬢様メンバーは館を出発して学園に戻るために馬車で移動をしています。
それで馬に乗りながら軽く周辺を探索してその報告に戻ったんですが……わぷぅってなんですかわぷぅって。初めて聞きましたよそんな悲鳴? 鳴き声? は。
「ノ、ノックして返事を待たないのはどうなのよ!」
「緊急案件ですよ。近くにゴブリンの痕跡を見つけたので暫くここで待機です」
ちなみに見つけたのは俺じゃなくて他の護衛の人たちだ。
「そ、そうなんだ」
「――ところで何か隠しました」
「ゼンゼンソンナコトナイヨ??」
目が物凄く泳いでますが? とにかく、学園に戻るまではしっかり緊張感を保たなければなりません。
……もう一度覗いたほうがいいかな? いや、やめておくか。
お嬢様の外堀り埋め立て作戦(勝手に命名)から数週間後、年末を過ごし、年が明けたあとに学園に向かうことになった。
来たときのように転移で向かってもよかったのだが……あれはお嬢様が嫌がってなかなか帰宅しなかったための最終手段だ。
本来は時間をかけても帰省し、その道中の村々にお金を落としていくことこそが貴族の務めだとお館様はおっしゃっていた。
ちなみに、異世界での年越しは別に大掃除もなければお年玉文化もなく大変楽だったとだけ言っておく。
ただ、人種族が産まれた日に歳を重ねるのとは違い異種族は年越しで年齢を重ねるそうなので単眼族のカンナさんのお祝いだけパーティメンバーでやったらしい。
俺からはお嬢様の執事としてこっそり弓用の手袋を渡しておいた。本来なら右手三指、左手二指覆うタイプのものを贈るべきなのただがちょっと考えがあって普通の手袋タイプにした。
龍王の皮膜部分を使ったのでミスリルの剣でも傷はつかないと思われる。これなら冒険者活動で剣を使うことがあって手を狙われた場合でも安心だろう。
魔力の隠蔽に四苦八苦したのはここだけの内緒だ。
「さて、と」
と、回想はここまで。焦げ付かないように焚き火から距離をとってフレンチトースト一枚目完成っと。
「執事〜、それおやつー?」
「思ってたより時間がかかりそうなのでお昼の用意ですよ。あれ? 顔赤くないですか?」
「ソンナコトナイヨー」
「そうですか?」
卵と牛乳と砂糖だけのシンプルな味付け。ちょっと焦げ目をつけてバターを一欠片。おかずはどうしましょうかねえ……地球でならインスタントのコーンポタージュかコンソメスープでも作ったんですけど。
アイテムボックスをガサゴソ。ポーションの素材に使うブルーベリーに似た果実を干したやつがありましたしこれを添えておきますか。馬車での移動って身体を動かさないし軽めの昼食でも大丈夫でしょう。
ふと、風が吹いてまだ冷たい空気が襲ってきた。
よく見れば周囲は平地。数cmほどある雪の下から緑の小さな葉が頭を出している。春もすぎれば一面麦畑になっているだろう。
「お嬢様、よく見てください。ここをいずれあなたが引き継ぐんですよ? ――お嬢様?」
振り返れば既にお嬢様は馬車に戻ったようだった。うん、まだ寒いもんね……。
よし、熱ーい紅茶を入れてそっちにブルーベリーに似た干し果実をいれますか。ある程度甘みのある果実なのでお砂糖かわりになって甘くなるはずです。




