第六王女とか聞いていませんよ
≪コンコン≫
「入って良いぞ。では、墓場が荒らされていた件につきましては――」
お館様の返事を待って執務室に入る。そこにはお館様とお嬢様のご学友であるハイネさんがいた。
……いつものデスクじゃなくて会談用のソファーとテーブルの方にいますね。しかもお館様が下座だ。
「ハイネ様もいらっしゃったのですね、また後日改めましょうか?」
「ふふふっ、学園での対応でよろしくてよ?」
「そういうわけにはいきません」
ハイネさんにクスクスと笑われるが……そういうわけにいかない理由があるのだ。
「ちなみに、どのくらいまで予想できていますか?」
「……基本的に『当主』と『貴族の娘』では当主が上座になります。これは貴族と貴族の娘では文字通り格が違うためです。たとえ相手が格上の貴族の娘でも概ねこの形になります。
ですが辺境伯であるお館様は貴族の中でも最上位です」
ここで一呼吸つく。
「そのお館様が格下になるということは……王族、それも直系に近い立場にいる者かと推察します」
「いいわ、正解よ」
逃げていいですかね?
「改めまして、第六王女のハイネ・ホリクスエルシェです。覚えていないとおもいますが龍王討伐の式典で一度会っていますわよ?」
うそん。
「まあ、王女様もこう言ってることだ。これまで通り娘の友人を扱うように接してほしい」
「はぁ……。コホン。はい、了解しました」
正直に言えばなんで王女様が身分隠して学園にいるのかとかやたら剣の扱いウマイのとか聞きたいことはあるんですけどね!!
「ところで、パジャマパーティはどうしたんですか?」
「あなたのお嬢様がウトウトし始めたからそのままお開きになりましたわ」
ああ、はい。容易に想像できますね。
んー、ハイネさんの正体を聞きに来たのでもうすでに用事はなくなってしまったんですよねー。
「……では、私はこれで失礼します」
「待ちなさい。ワタクシもこれで失礼するので部屋まで案内してもらえるかしら?」
チラリとお館さまのほうに視線を向けるとコクリと首を縦に動かされた。いや別に問題はないんですよ? 単純に、王族なら部屋まで男性に送らせるなんてことでも問題があるかなぁとおもっただけで。
「……わかりました。送らせていただきます」
そう言うしかなかった。
■道中
暗くなってきたので魔法で灯りを出しながら移動する。
「ねえ、執事さん」
「はい、なんでしょうか?」
「あなた、ワタクシのモノにならない?」
「いえ、私はここの執事ですから」
前世で娘が読んでた漫画にそういう感じのセリフがちょくちょく登場していた気がする。
そういうストーリーではだいたい恋仲になってましたからね。即答で遠慮させていただきます。
「しかしいきなりどうしたんです?」
「さっきまでガールズトークしてたのよ? 女の子が集まってする話なんて色恋沙汰が一番もりあがるのよ」
「はぁ……」
そこから執事の話になるんですか?
「わかってはぐらかしてるでしょ」
「……」
まあ、前世も含めてそこそこ長い時間生きているので好意の視線はわかってますけどね。経験上、お嬢様の年代の恋は実らないことが多いんですよ。
「皆さん、まだまだ子供ですので」
「そうかしら? 生理がくれば立派レディーよ?」
いくら二人しかしないとは言え生理とか生々しい単語を言うのはどうなんでしょうか。
あーでも確かになぁ。15歳で子供産んで30歳くらいで孫がいるとかこっちの世界じゃ珍しいことじゃないんだよなぁ……。
「王族として、スキル目当てで子供を作ることも考えてるのよ?」
「確かスキル婚……でしたっけ? あれ本当なんですか?」
「実際、王族には強いスキルを持った人は多いわよ?」
スキル婚、子供にスキルが受け継がれやすいという説を元にしたスキル目当ての結婚だ。俗説というにはそこそこの確証はあるらしい……が、基本的に貴族たちの間で行われることでありそもそも戦争もほとんどないので重視している貴族はほとんどいないらしい。この辺は性根が庶民である自分にはわからないところだ。
おっと、そんな話をしていたら部屋の前まで来ていましたね。
「さて、では案内はここまでです」
「一緒に――」
「入りません」
「ちぇー」
急に子供っぽい反応しますね!?
「……あなたは間違いなく人類でも最強でしょう? なんでこんなところにいるのかしら?」
「お嬢様に恩があるんですよ」
唐突になにを聞いてくるかとおもえば……。
「彼女に命を救われましたからね。せめてお嬢様が大人になるまで、もしくは一生仕えるつもりですよ」
「そう? あなたにとってここは狭いんじゃない?」
住めば都? いえいえ、ここがいいんですよ。
「それに俺は最強だなんておもってませんよ」
そう、この世界は広い。たかが『人類最強』。人間より強い生き物なんてそれこそ人類の生存圏の外にたくさんいるだろう。
「ああ、首輪が付いててもいつでも引きちぎれる鎖ならアクセサリーってことね」
「そういうつもりで言ってるんじゃないんですけどね」
力を振りかざして傍若無人に振る舞うよりこういう生き方が性に合ってるだけですよ。
「ちょっとかがみなさい」
「はい……? ちょっ」
膝をついて身を屈めると首に抱き着いてくる。
「あの子に飽きたらいつでも言ってね? 飼ってあげるわ?」
「……遠慮しておきます」
耳元でそう囁かれてちょっとゾクッときた。
「ふふ、じゃあおやすみなさい」
楽しげに部屋の中に去っていく少女はやたらご機嫌で……。
「王族って怖いなぁ」
思わずそう独り言ちるのだった。




