お嬢様を強制連行します
「いーーやーーだーー」
「ダメです」
ベッドにしがみつくお嬢様の腰を持って引き剥がそうとしてるんですがなかなか手強いですね。
「今回はお館様からの『命令』ですので、私ではどうにもなりません」
「うわーん! 執事の裏切り者〜〜!!」
本日の早朝、速達でお嬢様の実家から呼び出しが来たのだ。これまでも帰省を促す手紙は来ていた。具体的には
『今年の冬は帰ってくるのかのぉ(意訳)』
とか
『寂しいのぉ(意訳)』
みたいなことを貴族風の(貴族だが)長ったらしい文章で書かれていたのに対して一応返事として
『勉学に励んでいます(建前)』
『仲間たちとともに有意義な時間を過ごしています(意訳)』
みたいなことをお嬢様のみんなで一緒に過ごしたいという希望をうけて返事を書いていたのだが……。
『連れ帰りなさい』
今回はこの一文のみである。
念の為に裏面を確認したり火で炙ってみても隠し文字は見当たらなかったので本当にこれだけだろう。
「みんなと一緒にいるの〜〜〜!」
「そんなことだろうとおもってお館様の許可はとってありますよ」
「マジで!?」
マジですよ。というかマジとか貴族の女の子が言っちゃいけません。
「ただ、お館様の許可が出てるだけなのでみんなにはお嬢様から――」
「言ってくるね!!」
はいはい、いってらっしゃい。ただなぁ……。
「えっと……遠慮したいなぁ、なんて」
「し、執事さんが一緒なら行ってみたいです」
「んー、私も遠慮しようかなぁ」
「なんで!?」
上からカンナさん、ルルさん、ハイネさんの発言だ。
「お嬢様、辺境伯とは王国でも上位の貴族なんですよ?」
「………………知ってたし」
本当に〜?
「庶民の感覚としては普通に緊張するんですよ? ……まあ他に事情がある場合もありますが」
チラッとハイネさんを見ると目をそらされた。やっぱり身分隠してますよね? お館様に出会うとバレるパターンですよねそれ?
「で、でも私にはみんな普通に接してくれるし!!」
「……まあお嬢様ですし」
「ねぇ」
「ですよねぇ」
「うんうん」
「なんで!?!?」
だってお嬢様ですし。もっとお淑やかに上品なオーラでも出せるようになったら……うーん。でお嬢様だしなぁ。
「まあそういうことですので。明日の朝には出発しますから連れていきたいならそれまでに説得してくださいね」
「うわーん! みんなお願いだからー!!」
……
………
次の日、説得が成功したのか全員で辺境伯領に向かうことになった。
なお、前日にお嬢様がピンクのフリフリたくさんの服を色々と着せられていたのはツッコまないことにする。学生は普段からの学生服ですからね、特にお金を節約したい庶民の方々は着たきり雀状態ですから。
お嬢様も見た目はかわいいですからねぇ……。子供のころから奥様の方針でしっかり貴族の娘って感じの格好させられながらも、その格好で木登りやら草むらに飛び込んだりしてましたし。
閑話休題
「しつじー、ここどこ?」
「転移の間ですよ」
「てんいのま?」
王都の四方にある門のすぐ横、そこにはバスケットボールのコートくらいの大きさの部屋があり龍の像やそれを拝む少女の像など特徴的な物が多く飾られている。
「執事って【転移】スキルなんて持ってたの?」
「執事ですから」
そういえば転移のことは教えてなかったですね。
「スキルの【転移】は基本的に記憶にある場所に行けるスキルです。なので場所の風景が災害とかで変わると行けなくなりますからね。なのでこういった専用の場所が作られてるんです」
「へー」
「国外から転移で来た人はここで入国税を払うことになります。さ、皆さん。手を繋いで陣になってください」
ちなみに、スキル持ちの血を使った専用の魔道具みたいなものもある。それを使うとなんとなーく感覚でどの辺に魔道具があるのかがわかるのでそこに転移することも可能なのだ。つまりそれさえあればどこでも侵入可能!
まあ、もちろん王城などの重要施設には転移防止の結界が張られてるんだけど。
「いきますよー、【転移】!」
瞬間、視界が切り替わった。
◇◆
「はい、到着です」
「ここ……どこ? もう屋敷についたの?」
「そうですよ。ちなみにここはお嬢様が子供の頃何度か無理矢理侵入しようとしていた開かずの間です」
「あそこかー」
チリンチリンと部屋に置いてあった鐘を鳴らして来訪を屋敷全体に伝えながらお嬢様の疑問に答える。
いや、ホントなんで子供は入っちゃダメと行ったところに入ろうとするのか。
別に転移の座標が重なったせいで合体! とか石の中にいる! みたいなことにはならないがここも決まった場所に決まった配置で物が置かれているので万が一に動かされるのは困るのです。
「「しつじーー!!」」
さて、懐かしい声も聞こえてきましたし。さっそくお館様に挨拶に向かいましょうか。




