第1話 『僕の名前は巡です。』
――ただ、ちょっとした好奇心だったんだ。
――本当は興味なんてなかったし【見て】しまったのもたまたまなんだ。……なのに。
――目の前にはエルフの女の子の裸の花園がそこにあった……!
とっさのできごとに興奮が抑えられず、彼の心中はただ彼女の胸のことで頭がいっぱいになっていた。
もちろん僕はそこらのウェイ系のやつらとは違うので、
単純な性癖など持ち合わせてなどいないんだが、目に入ってしまったから仕方ないじゃないか。
これで、興奮しないのは逆に失礼に値する。そうだ。僕は悪くない。
こんな姿をしたお前が悪い。
「……ふぅ」
安心してくれ。なにもしてないから。
ひとまず気持ちを落ち着けて一言。
「こいつはやべぇわ」
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新條巡18歳。ちょっと性格が歪んでいるのは認めるが、
どこにでもいる平凡な学生だ。
ただ、思ったことは自然と口に出てしまい、自分が嫌なことをNOと言える。それだけだ。
別に求めてもいないが、友達は少ない。彼女も作る気がない。
どうせ告白なんかされても女同士の遊びかなんかだろうし。
学校も最低限留年をしない程度に通うくらいだ。
そんな僕には最近ハマっているものがある。
「よし、起動するか。」
2030年を代表する次世代機『スマコン』はご存知だろうか?
正式名称はスマートコンタクトレンズで、
文字通りコンタクトレンズにスマートフォンの機能を搭載したようなデバイスだ。
デバイス機器自体携帯電話を始め、スマートフォン、AR、VR、MRなど多くのデバイスが発売競争に敗れ、唯一生き残ったのがスマコンだ。
当初は目の中に入れる危険性や、歩行時の事故率などで世間はうるさく言っていたが、
開発会社が真摯にアップデートしていき、今では若者にとっての必需品となっている。
「ランキングが更新されてるはず…またレイドボスでの上位逃した…!!くそ!」
話を戻すがハマっているものとはこのスマコンのアプリゲーである。
2010年代に流行していていた位置情報ゲームアプリの進化版だ。
僕の日課は『学校は行かないが散歩はする。』だ。
現在時刻は15時
今日も周回ルートを散歩の真っ最中だ。
「っち……なんで上位とれないんだよ。絶対上位のやつらチート使ってんだろ……ハァー」
不貞腐れるのも無理はないって自分を慰める。
トップランカーみたいに私生活を投げ売ってゲームをしてはいるが、
自分にはどうも才能はない。イライラが募り、一旦アプリを終了する。
「ハァ……考えたくないこと考えてしまった。ジュースでも買うか」
目の前にあった自販機の前へと立ち止まり、いつものように炭酸飲料の『Split』を選択し、スマコンで決済する。
「ゴクッゴクッ……プハァ!」
すぐそばで犬を連れて散歩している通行人には目もくれず、
取り出し口からSplitを手に取り一気に飲み始める。
あぁ…この脳に酸素が送られてくる感覚。イイ
「なんでこんな美味しいんだ。」
そんなことを考えながら歩き始めた時、視線に警告が表示された。
――ポップアップがブロックされました。
「びっくりした。なんだ、広告でも踏んだ?」
詳細を確認すると認可を受けていないアプリケーションが受信されたとのこと。
アプリ名は「マイアー -myai-」と表示されており、
概要欄には『あなたにとってこれが初体験となります!!』と書かれていた。
「……あほくさ。」
どうせ、R18関連の類だろうそう思って広告を消そうと思った。
「……」
特に意味はなかった。
どうせつまんないものだろうって。思いながらも妙な好奇心に駆られ、
思わず、ダウンロードを開始してしまった。
「ま、まぁ……1回だけ!1回だけ試して辞めるし!」
誰に言い訳をしているのか分からなくなっている内にインストールまで終えてしまう。
「……よし」
そして、アプリ『マイアー』を起動させ――
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そして話は冒頭へと戻る。
「知ってました。やっぱりR18だってわかってました。なんで急にエルフのはだっ……っ」
周りの視線が痛くなったので言葉にするのはさすがにやめた。
マイアーはただのR18アプリだ。なにが初体験じゃ。
そりゃエルフの裸なんか、ほとんどの人が初体験だろ。
「にしても今どき主観の映像アプリって古いな」
2030年を過ぎた現代のエロ事情はそんなものではない。
さっきも話題には上がったが、衰退した
AR/VRデバイスのそのほとんどが
R18系のアプリのデバイスとして今でも細々と運用している結果となっている。
SAOの時代なんかなかった。
だからエロを映像で視聴するはもう古いのだ。
だが、ほかの動画は一応チェックはしてみる。
さっきは適当な動画を選んだだけだったが、他にも色々コンテンツがある中で、
一つのワードが目に止まる。
「『あなたの視線です♪』……?」
意味が分からなかったがとりあえず押してみる。
「……え??」
すると、今まで見ていた風景とは一変し、目の前に森林の景色が広がった。
SAOの時代は来てほしいと切に願って"は"いる