Part93 入門
投稿が遅れてしまいました。
何もかもたぬきが悪い。
ムシュフシュから逃げ出すことに成功した俺たちは、すぐに単独行動に戻った。
お互い、試験は一人でクリアしたいと考えていたからだ。
幸い、先ほどのもちのすけの言葉からヤバい奴の生息地は大体わかっている。
さっき戦った辺りに近寄らなければムシュフシュと棘猪には出くわさないだろうし、キノコ熊の場所も大体覚えている。
黒猿は恐らく、木の上に登らなければ平気だろう。一応目撃した場所の周辺には近寄らないようにはしているが。
まあ、そんな感じでムシュフシュとの戦い以降は特に大きなイベントもなく、気づいた頃には試験開始から十二時間が経過しようとしていた。
「そろそろか」
辺りに敵の気配はない。
鞘に刀を収め、木に寄りかかって目を閉じ、一つ息をつく。
57秒、58秒、59秒…………
「お疲れ様でした」
「!?」
突如かかった声に驚いて目を開くと、そこは森の入口だった。
何が起きたのかと考える間もなく、目の前に立つ杖を持った男が口を開く。
「これで試験は終了しました。あなた方が今回の合格者です」
辺りを見回してみるが、今この場にいるのは道場側の人間であろう二人のNPCと、俺を含め三人のプレイヤーだけだ。
あれだけの挑戦者がいて、三人か……。
ちなみに一人は予想通りもちのすけ。
もう一人は、褐色で筋肉質でギザ歯な女性アバターのプレイヤーだ。
ネームバーによると名前はドラ子。
何故か刀を持っていないようなのだが、途中で破損でもしたのだろうか?
もちのすけもそれが気になったようで、問いかける。
「刀はどうしたんだい?」
「なんかステータス下がるから捨てた!」
マジかよ。
「ダメだったか?」
ドラ子の質問に、NPCが答える。
「いえ、条件はあくまでもこの森で十二時間生存することですから。咎める理由にはなりません」
まあそうか。
そんな抜け道があったかと一瞬感心してしまったが、普通に考えたらスキル無しなら徒手より刀の方が強いに決まってる。
刀はスキルがなくとも武器として使えるけど、徒手ってそもそもスキルありきらしいし。
「さて、早速ですが場所を移しましょうか」
そう言って、彼は手に持った杖で地面をトンと一つ尽く。
瞬間、視界が一瞬大きく歪み、気がつくとそこは最初に俺が訪れた道場の前であった。
転移系の魔法だろうか。恐らく、先ほど森の入り口に瞬間移動したのも彼の力によるものなのだろう。
「申し遅れました。私はここ、獅尊流剣術道場の師範代。ゲンメイと申します」
ゲンメイはそう言って一度頭を下げ、言葉を続けた。
「あくまでも、先ほどの森での戦いは入門試験。あなた方が欲しているであろう刀を手に入れるためには、更に十の試練を突破する必要があります」
「試練はそれぞれで受けるのか?」
「いえ、三人で協力して受けてもらいます」
そういうシステムなのか。
普通に一人でやるものだと思っていたので、少し驚いた。
「さて、時間が惜しいので始めてしまいたいところですが……とは言え、流石に森の試験を終えた直後から試練を始めるというのは大変でしょう。ですので、モチベーションの向上も兼ねて一度刀の実物を見てもらいます」
ゲンメイに連れられ、俺たちは「刀の座」と言う名の部屋に案内された。
その名の通り、部屋に座していたのは複数の刀。
そのそれぞれが異様な圧を放ち、並ぶ刀が全てユニークアイテムであることを示しているようでもあった。
「あなた方であれば、見ればこの刀がそれぞれどのような力を有しているのかが分かるはずです。その上で、一先ずの希望を聞かせてください。どの刀が欲しいですか?」
とりあえず、俺はこの部屋にある刀のステータスを見ていく。
攻撃力などの数値にはあまり差がなく、全てが誤差と言っていいほどのもの。
大きく異なるのは属性と刀の種類だ。
一口に刀と言っても様々で、脇差だとか、大太刀だとか、とにかく色々な種類がある。
このように細かい武器種の違いがある武器は割と多い。『拳』と『爪』なんかがそうだ。
こう言った細かい武器主が存在するタイプの武器は、同じスキルツリーを共有した上で武器種に応じてスキルが若干変化するという感じなので、プレイスタイルに合わせて選ぶのが普通だ。
例えば、拳と爪はスキルツリーを共有するが、同じスキルでも拳装備なら打撃技、爪装備なら斬撃技や突攻撃になるスキルがあるという感じである。
ザッと見た感じ、この部屋の中には属性と大きさの組み合わせが全て網羅されているようだった。
まあ、それならば俺が選ぶ刀は決まっている。
無属性の太刀。一番無難な選択だが、俺のプレイスタイルには合っているはずだ。
変に属性を付けてしまうと最悪の場合無効化されてしまうこともあるし、属性攻撃しか通らない敵に対しては剣にセットしたクラウソラスでどうにかなるので、刀は汎用性を選ぶべきだと考えた。
大きさに関しては特にこだわりがあるわけではないのだが、まあ多腕機神の刃影は基本的に太刀に変化させて使っていたからな。わざわざ変える必要もないだろう。
「じゃあ、俺はこの月魄獅尊にする」
「私は鳴神獅尊を選ぶぞ!」
ドラ子は雷属性の大太刀を選んだようだ。なんかめちゃくちゃイメージ通りだな。
一方、もちのすけは未だ悩んでいる様子。俺が刀を選んだのを見てから少し悩み、ゲンメイに問いかけた。
「もし欲しい刀が被ったらどうするのかな?」
「そうですね……同じものを一振り作るのに何週間か必要ですから、どちらか一方に先に渡し、もう一人には出来上がり次第渡す、という事になります」
「どっちに渡すかはどう決めるんだい?」
「前例が一件だけあるのですが、その時は決闘で決めたようですね。まあ、穏便に話し合いで済むのならそれでも全く構いませんよ」
「なるほど……」
ゲンメイの説明を聞いたもちのすけは満足そうに頷くと、笑顔を浮かべて口を開いた。
「僕もこれにするよ」
彼が指差す先に鎮座するのは、無属性の太刀。
つまりは、俺が選んだ『月魄獅尊』であった。
「……これが良いのか?」
「うん、そうだね」
なるほど、俺が選んだ刀が丁度欲しかったというわけか。それならまあ、譲っても良いかもしれない。
別ゲーで大太刀を使った経験はあるし、せっかくだから種類を変えてみるのも悪くないだろう。
「なら俺が変えるよ。こっちの大太刀、『月輪獅尊』にする」
「じゃあ僕もそれにしよう」
「え……だったら俺が月魄獅尊とるけど」
「それなら僕も月魄獅尊にしようかな」
「…………」
「…………」
「……嫌がらせ?」
「ははは、そうかもしれないね」
なんなんだこいつは。何をしたいのかさっぱりわからない。
「理由を聞いてもいいか」
「うん。本当はさっき、森の中で会った時に君を殺すつもりだったんだ。前の二人と同じようにね。でも、やめた。今じゃ無いって思ったんだ」
前の二人……俺が見つけた死体か。
随分とあっさりPKを公言したうえ、更に俺にまで危害を加えようとしていたことを告白するんだな。
「僕はね、君と戦いたいんだ。何かを賭けて……さ」
そう言って、もちのすけは笑みを浮かべる。
冗談のつもりなのだろうかと思ったが、眼は全然笑っていないし、なんか異様な圧を放っているし、どうやら本気らしい。
正直言って、俺はもちのすけと戦いたいとは微塵も思っていない。
現段階で彼と戦った場合、確実に俺が負けるという確信があるからだ。
あのムシュフシュとの戦いで、俺は彼の動きを目の当たりにした。
ゲーム的なアシストの数々を制限された、素の実力というものが浮き彫りになる状況の中で見た彼の戦闘は、今まで見た誰よりも巧かった。
ぶっちゃけ、俺は対人戦があまり好きでは無い。
TTTやミュージックブレイバーほどシステム的にぶっ飛んでいればそこまで気にならないのだが、単純な話、負けるのが怖いのだ。
明確な実力差のある相手なら尚更。わざわざ負けの確定した戦いに飛び込めるほど俺は強くない。
……しかし同時に、俺はそんな自分が嫌いだ。
情け無いとも思っている。
だからこそ、変わるなら今か。
「譲る気は無いんだな?」
「うん、勿論」
「……わかった。受けよう」
「本当かい? じゃあ今すぐにでも——」
「ただし」
もちのすけの言葉を遮って、言葉を続ける。
「戦うのは全ての試練が終わってからだ。生憎、俺は入手が確定していないものの為に本気で戦えるような人間じゃない」
白状しよう。これは時間稼ぎだ。
今のままでは勝てないのなら、この試練の中で成長すればいい。
もちのすけも同じ試練を受ける以上、分の悪い賭けになるのだが……それは仕方がない。
「……なるほど。うん、わかったよ。戦うのは全てが終わってからだ」
そう言って、もちのすけは今度こそ心の底から楽しそうに笑みを浮かべたのだった。




