Part89 楽しい樹海探検
広場を離れ、俺は一先ず単独行動を……する勇気はなかったので、いち早く行動を開始した四人組を尾行することにした。
大柄な男が一人と、派手な髪色の女が三人。ハーレムっぽく見えるが、歩き方とか所作とかが男っぽいので多分ネカマだ。
ヴォックソを始めてからそんな感じの妙な観察眼が身についてきたような気がする。何の役に立つんだよ。
「来たぞ、カルカフだ!」
不意に、先頭を進む男が声をあげる。
その視線の先には……なんだこれ。なんか妙なモンスターがいた。
根っこをうねうねと動かしながら動く切り株に、真っ白い人型の何かが腰掛けている。
切り株の精霊?
「ユフラを先頭にいつもので行くぞ」
「ああ!」
ユフラと呼ばれた少女が前に出る。彼女をタンクとして、他のメンバーで畳み掛ける作戦のようだ。
やっぱ複数人でやるのが楽そうだな。誰かと組んでみてもいいかもしれない。
とは言え、急造チームを作ったところでお互いに萎縮してしまって本来の動きができなくなってしまうことも考えられる。
そうでなくとも、連携は確実にうまくいかないだろう。
誰か誘えばよかったかもな。
「よしっ、今!」
「おう!!」
男の振るう大きな刀が切り株を両断し、謎のモンスターを塵に還す。
かなり連携がうまく行っていた。やはり普段から四人で組んでいるのだろう。
さて、四人組を尾行し続けること数十分。
俺はふと、木のかなり高いところに爪で引っ掻いたような痕が残っているのを発見した。早速観察眼が役に立ったな。
「それにしても……高いな」
傷は、俺を二人分縦に並べてようやく到達するような場所に刻まれていた。
前を進む四人組が気づかなかったのも無理はない。
もっとよく観察してみると、傷跡からなにやらキノコの様なものが生えているのもわかった。
菌類の植生について詳しいわけではないからわからないが、何か特殊な傷なのだろうか?
これを見てなお進むべきか、それとも引き返すべきか。
そんなことを考えているうちにも、四人組はどんどん先へと進んでいく。
……まあ、危なくなったら引き返せばいいか。
そう考えた次の瞬間、それは現れた。
「カロロロロ……」
奇妙な鳴き声と共に現れたのは、体長三、四メートルはありそうな巨熊だった。
目には生気がなく、異常に発達した腕の先には鋭い爪が並び、そこから緑色の汁が滴っている。
「何だこいつ!?」
「前回こんな奴いなかっただろ……!」
四人組は狼狽えながら、各々刀を抜き放つ。
逃げるべき敵だと思うのだが、突然の遭遇にそんなことを考える余裕はないらしい。
そんな有様だから、当然戦闘もグダグダになってしまう。
「行くぞ!」
「突っ込むな! まずは様子を」
「!? 技が……っ」
「スキルは使えねぇって言ってたろ!」
「ちょっ、待——」
薙ぎ払うような爪の一撃をもろに食らったプレイヤーが吹き飛ばされ、全身を木の幹に強く打ち付ける。
俺が食らったら問答無用で一撃死が確定するような攻撃だったが、防御寄りのステータスなのだろうか、彼女はまだ体力的には余裕があるようで、刀を杖代わりに立ち上がった。
——が、しかし。
踏み出した一歩は力を失い、彼女は膝をついてしまう。
その身体には、様々なキノコが生えていた。
「うわ、これエグいな……」
状態異常を見てみると、どうやら《菌床》という状態異常にかかっているようだった。
HPやスタミナをキノコに吸い取られていき、吸われるほどキノコが成長してくるため行動を阻害されるというかなりヤバい状態異常だ。
先ほど木の幹に付けられていた傷跡にキノコが生えていたのはそういうことだったのか。
高さの関係上あまり見えなかったが、よく見てみると巨熊の頭部にもキノコが生えていた。熊も寄生されているのだろう。
「くそ……ッ! 受けきれな——」
「力が強すぎる、回避しないとダメだ!」
「無茶言うなって!」
「——ぐぁっ!」
巨熊に一撃返すよりも早く、一人が死んでしまった。
……これダメそうだな。
俺が行ったって戦況は変わらないだろう。死体が一つ増えるだけだ。
絶対に戦闘を避けるべきモンスターに遭遇しないためには、そのモンスターが残しているであろう痕跡を見逃さないことが重要。
ここで生き残るために最も重要そうなことを身をもって教えてくれた彼らに感謝しつつ、俺はその場を後にしたのだった。




