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Part87 第一段階

新章です。割とリアルの描写が多くなると思います。

ちなみに「煌魄交叉る」は「こうはくまじわる」と読んでください。



「——というのが詳細な流れになっています。何か質問はありますか?」


「いえ、大丈夫です」


「それでは、飛戸さんが来るまでまだ時間がありますし、休憩に致しましょう」


「わかりました」



 トイレに行くと言って部屋の外に出て、俺は小さくため息をついた。


 俺は今、一般的な大学生七月(ななつき)怜穏(れおん)ではなく、有名ブロガーのナツレンとしてここに来ている。

 今月末に行われる『World e-Festival』、通称WeFの打ち合わせの為だ。


 前回は軽い顔合わせのような感じで終わった為、ちゃんとした打ち合わせはこれが初。

 軽いイベントに出ることは今までにもあったが、こんな規模のイベントに出るのは初めてなので勝手がわからない。


 別に人前に立つのが苦手ってわけでもないんだけどな。単純にWeFという場に俺という存在が見合っているのか不安なのだ。


 一度気分をリフレッシュしよう。

 そう思って自販機でエナジードリンクを買ったところで、不意に声をかけられた。



「よう、怜穏」


「ん、陽雄馬(ひゅうま)か。もう着いたんだな」



 現れたのは、身長190cmに届きそうな程の大男。

 鍛え抜かれた筋肉は服を着ていてなお強い存在感を放ち、金の短髪とサングラスも相まって彼の存在を周囲から浮かせていた。

 彼の名は飛戸(ひこ)陽雄馬(ひゅうま)。ヴォックソではトリバードとして活動しているプロゲーマーである。



「相変わらずアメリカの軍人みたいなやつだな……」


「はっはっは! そう言う怜穏は相変わらず痩せてるな。ちゃんと食べてるのか?」


「お前を基準にするなよ。一般的には俺も結構筋肉付いてる方だからな?」



 陽雄馬の筋肉のように隆起しているわけではないが、これでも内の筋肉はついている方だ。

 そもそも陽雄馬のは見せる為の筋肉だからな。俺のとは目的から違うわけで。


 それにしても、リアルがムキムキなこいつがヴォックソでは線の細い優男なのに対し、リアルが中性的なGOODはヴォックソでは若い頃のシュワルツェネッガーみたいなアバターになっているというのはなんか面白いな。



「そういえば、他のメンバーは来てないのか?」


「ヴィルベルヴィントのか? 俺以外はステージが違うからな。こっちには来ない」


「なるほど。まあ出演者も多いもんな」



 一箇所に集めるのは流石に無理があるのだろう。

 陽雄馬と同じヴィルベルヴィントに所属している御兎姫や、ゲーム好きの女性芸能人として出演することになっているリンネなど、ヴォックソをプレイしている知り合いの中でもWeFに出る人間は多いのだが、この場所には来ていないようだった。


 それでも、ここで見かける人間は大抵どこかで見たことのある人間ばかりだ。

 有名声優とか、実況者とか、そんな有名人の集まるWeFという大舞台に俺が立つというのは、改めて考えてもとんでも無いことだと思う。個人的にはかなりプレッシャーを感じている。



「ところで、俺たちって何のステージに出るんだ?」


「その辺は後で説明があるけど……ツークフォーゲルの新規IPあるだろ? アレの試遊らしい」


「あー、アレか。気になってたんだよなあ」


「だと思った。……まあいいや。今休憩時間だけどお前待ちだから、さっさと行こう」



 飲み終えたエナジードリンクの空き缶をゴミ箱に捨て、俺は陽雄馬とともに部屋に戻ったのだった。




————————




 翌日、アルゴノーツのクランハウスにて。


 幻水に呼び出されてログインし、何の用だろうかと考えながら待っていると、俺の目の前にゴトリと音を立てて大ジョッキが置かれた。

 ガラス製の容器の内に満たされた毒々しい「何か」を作った張本人——ミーティアが、笑顔で告げる。



「カクテルを作ってみたの」



 なるほど、彼女の住んでいる地方では血溜まりの事を「かくてる」と呼ぶらしい。変わってるなぁ。



「飲みやすさを意識してみたのよ。度数が結構高いのにゴクゴク飲めてしまう、謂わゆるレディーキラーカクテルね」


「ははは……」



 レディーキラーというか、ジェントルマンも死ぬと思うんですけどね。

 これが男女平等というやつか。こんな破滅的な男女平等なら実現しないほうがマシだと思う。

 あとカクテルって普通大ジョッキで出さなくない?

 それ以前の問題ではあるんだけどさ。



「ちなみにこれは……何が入ってるんだ?」


「滅龍の焔酒をベースにしつつ、清涼感を出すために碧玉の実のエキスとか、幽蜘蛛の血とかを入れてみたわ。隠し味に荒漠竜の心臓も入ってるの」



 相変わらず未知の素材だらけなんですけど。滅龍とか初めて聞いたわ。

 あと浮いてる固形の物体、これ荒漠竜の心臓だろ。隠し味が全く隠れてないんだよ。



「名前は『リバーサイド』にしようと思ってるの」



 ビジュアルと名前のギャップがエグすぎる。

 百歩譲って血の池地獄だろ。


 と、思ったこと全部言ってしまおうとも思ったのだが、ミーティアの表情を見ていると、不思議とそんな感情は消えてしまう。

 自信満々なんだもんなあ……。



 ええい、(まま)よ!


 俺は震える手でジョッキを掴み、五感の全てを意識の外に追いやってから一気に血溜まり(かくてる)を胃に流し込——








 ゆさゆさと身体を揺すられて、俺は目覚める。

 思い瞼を開くと、心配そうにこちらを覗き込む幻水の顔があった。



「ナツレンくぅん? 大丈夫?」


「……あれ? 今何時?」


「十四時半だねぇ。寝てたの?」


「いや、ゲームの中じゃデバフ以外で寝ることは無いし、違うと思うんだけど……」



 ふとテーブルの上を見ると、一枚の書き置きと……なんだこれ、水銀?

 よくわからないが、とにかくその二つがおいてあった。

 書き置きを手に取って読んでみる。



『ごめんなさい! 貴方がお酒に弱いとは知らなかったの。私の配慮が足りていなかったわ……。お詫びと言ってはなんだけど、シジミの味噌汁を作ったの。是非飲んで頂戴。(ミーティア)』



 酒……? なんの話だ?

 確かに普段あまり酒は飲まないけども。


 結局この書き置きから読み取れるのは、一緒に置いてあった水銀がシジミの味噌汁の成れの果てであるということだけだった。

 なんというか、始皇帝の気分を味わえそうだ。末路まで同じになるだろうけど。


 というか、謝罪するくらいなのだから何かあったのだろうが、思い出そうとしても何も思い出せない。

 それどころか、思い出そうとするほど身体が小刻みに震えてしまう。まるで身体が思い出すことを拒否しているようだった。



「ナ、ナツレンくん? 体調悪いならまた今度でもいいんだよう?」


「いや、大丈夫……それより、なんの用事だ?」


「……まあ、ナツレンくんが良いなら良いんだけどねぇ。じゃあ本題に入るけど、ナツレンくんって確か刀探してたよねぇ?」


「まあ、そうだな。あまり良いのも見つからないし保留にしてるけど」


「そんなナツレンくんにうってつけのクエストがあるんだよう! はいこれ見てねぃ☆」



 バッと目の前に突き出されたウィンドウを見てみると、そこにはヴォックソ攻略wikiのページが表示されていた。

 どうやら周知されているユニーククエストについての情報がまとめられているページのようで、少し前に俺がクラウソラスを手に入れるために利用した『聖剣巡礼』などが乗っている。


 その中から幻水は、ある一つのクエストを指差した。



「『獅尊(しそん)刀脈(とうみゃく)』……?」


「そうそう、それだよぅ」



 ツヴェルヘイムからかなり歩いたところに存在するらしい、獅尊流剣術道場。

 そこには伝説の刀鍛冶がいて、試練を突破した者に刀を授けているのだと言う。


 普通のユニーククエストとは異なり受注条件は誰にでも分かるらしいが、その分突破は困難なのだとか。

 一応クリア者は存在するらしい。



「見るからに難しそうじゃん」


「でもナツレンくんなら行けるかもよう?」


「……まあ、一回くらいは行ってみてもいいかもしれないけどさ」



 ほかに刀のアテがあるわけでもないし、それに今はネクロヴァージ関連で名が知られてしまったため、少し表を歩きにくい。

 ダメ元で一度挑戦してみるくらいなら悪くないだろう。



「それにしても……お前から何か提案してくる時ってロクなことがないんだよな」


「心外だなぁ。今は同じクランの仲間なんだから、このくらいはして当然じゃない?」


「胡散くせ〜」



 まあ、何でもいいや。

 幻水のニコニコとした視線を背に受けながら、俺は剣術道場へと向かったのだった。


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