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part8 猪突猛進エンカウント



「《兜割》!!」


「グルギェーッ!!」


ベネ(良し)



 新しく覚えたスキルを使いながらゴブリンを倒して行く。

 一度カースゴブリンを倒したので、ただのゴブリンなど恐るるに足らずという感じだ(二敗)。

 

 経験だけでなく、ステータスも前に比べて上昇しているのだが、これに関してはやはり分かりにくいというのが素直な感想だ。

 比較対象がないのが主な原因だと思うので、次の街に着いたら片っ端からプレイヤーのステータスを見てみることにしよう。



 さて、今俺は『白き谷シュラリネ』に来ているのだが、別にただゴブリンをしばきに来たわけではない。

 メインクエストを進めるために来たのだ。


 ここに至るまでの簡単な経緯についてまとめると、

『凶悪な盗賊が出没しているので関所は厳戒態勢中。でなおしてまいれ』→『聖者の証があれば通れるぞ』→『証が欲しければ白き谷に棲まう大猪を倒してこい』

 という感じだ。


 ちなみに関所を通らずにデュオクレインに向かえるルートを見つけたのだが、実際に通ってみたところ件の凶悪な盗賊が出てきてボコボコにされたので、やはり大猪とやらを倒すしかないらしい。



 猪には少し因縁がある。というかトラウマに近い。

 詳細は語りたくないが、恋愛ADVで市街地に野生の猪が現れるのは本当に意味がわからなかった。突進で死んでバッドエンド行くし。



 ゴブリンを屠りながら谷を歩いていると、少し開けた場所に出た。

 ボス部屋のようなその空間の中央には、当然のように巨大な猪が鎮座している。

 明らかに俺より大きい。大きさ的には乗用車程度はあるように見える。

 白と茶色の混ざったような毛並みと、透き通った結晶のような牙など、まさにこの白き谷のボスに相応しい姿だ。


 [ストーリーモンスター 晶牙のエルボア]と表示されたその大猪は、俺を見るなり地面が震えるほどの声で吠えた。



「うるせっ」



 刀を構え、様子を伺う。

 俺が攻撃しに行かないのを理解したのだろうか、大猪は大きく鼻を鳴らすと、勢いよくこちらに向かって突進を開始した。



「うおっと!!」



 見てから回避出来るほどのスピードではあるが、実際に猪が突進してくるとめちゃくちゃ怖い。

 大きさ的にもスピード的にも自動車が突っ込んでくるのと同じレベルだ。


 体勢を整え、追撃のために接近する。

 ……が、攻撃を加える前に猪は勢いよく振り向き、そのクリスタルのような牙を、地面を抉りながら振り上げた。

 牙には当たらなかったものの、削り飛ばされた石飛礫(いしつぶて)が全身に命中する。

 痛覚はないが、鈍い衝撃が全身を覆い、思わず刀を取り落としそうになってしまう。

 その隙に突進を開始する大猪。



「あぶねっ! ……攻撃のタイミングがねえな」



 突進をギリギリで避けながらそう呟く。

 技と技の間隔がかなり短い。常時発狂状態のような感じだ。

 となると、普通に攻撃するのは効率が悪いだろう。

 おそらくだが、何かしらの方法で隙を作るか、あるいは回避を続けることで疲れ果てさせると言うような手段が必要になってくるはずだ。


 ここまで作りこまれたゲームであるならば、モンスターのスタミナも設定されているだろう。

 しばらくは回避に徹しつつ、別の攻撃手段を考えることにする。


 猪の特徴としては、やはり「猪突猛進」という言葉が思い浮かぶ。

 猛烈な勢いで突き進み、急には止まれないというイメージがあったのだが、この大猪はかなり臨機応変に立ち回ってくるから厄介だ。

 ギリギリで回避して側面を斬るというのも試してみたのだが、一撃加えた直後に先程の石飛礫攻撃が飛んでくるので現実的ではなかった。

 回避し続ける、というのが正攻法なのだろうが、しかし……



「……それはつまらないな」



 もっと別の方法はないだろうかと考え、一つ面白いアイデアを考えついた。

 まあその分危険ではあるのだが、死んでももう一度戦えばいいので試してみる価値はありそうだ。



 大猪が鼻を鳴らす。何度も見た突進の予備動作だ。

 それを確認した俺は、身体を翻し、大猪と同じ方向に向かって全力で走り出した。

 前方には岩壁がある。つまり、猪→俺→壁、だ。

 後ろから響く足音がどんどん迫ってくるのがかなり怖いが……



「——ここだ!」



 恐怖心に耐えながら俺は跳躍し、目の前の壁を蹴って反転した。



[スキル《ジャンプアシスト》を獲得しました]という表示が視界の端に流れるのを見つつ、俺は大猪の背に飛び移った。

 しっかりとその毛を掴みつつ、片手で刀を掲げる。



「よし、地の利を得たぞ!」



 俺を振り落とそうと暴れる大猪に抵抗しながら、その背中に刃を突き立てていく。ロデオみたいな状態だ。



「ヴモォアーーーッッ!!」


「暴れんなっ!!」


 

 荒れ狂う海を相手にしているかのような揺れになんとかしがみつく。スキルを使う余裕はなく、地道ではあるが少しずつ削っていく他ない。


 振り落とされないように掴まり、突き刺し、体制を整え、突き刺し。

 それをひたすら続けて数分。大猪は一際大きな声を上げ、倒れた。



「うおっ」



 放り出され、受け身を取りながら転がる俺の目の前で、大猪はそのままポリゴンとして消滅していった。



「ふう……カースゴブリンに比べるとまだ楽だったな」



 比べるようなものではないと思うのだが、倒すのにかかった時間が段違いだ。まだ20分も経っていない。

 ただやはりロデオはキツかった。あれが正規なのかどうかは置いておいて、次に同じようなのと戦うとしたら、別の方法を考えるか、身体を固定するための道具が欲しいところだ。


[晶牙のエルボアを倒しました]という表示とともに複数獲得した称号などをながめながら、わかりやすく明滅する牙や毛皮などのドロップアイテムを集める。

 ボスモンスターの割には、落ちる素材の量があまり多くない気がするが気のせいだろうか。


 まあそれはともかく、これで次の街に行く準備が整った。

 あとは報告して、証を受け取ればいい。そう考えて街に戻ろうとした俺を、謎の声が呼び止めた。



「やあ、凄かったね。初見であの方法を見つけるなんて」



 振り返ると、男が一人、拍手をしながら立っていた。

 ネームバーが見えるのでプレイヤーだろう。

 MANDALAと表示されている。



「まあ、ゲームは色々やるので」


「このゲームは別ゲーの経験があるほど成長しやすいから頑張ってね〜。ステータスとか若干分かりづらいかもしれないけど」



 そう気さくに喋る男は、なんというか、存在感が希薄であった。

 掴み所のない……というのは別として、見た感じの印象が固定されない。ふわふわとしているような、謎の感覚だ。

 どことなく怪しさを感じ、ステータスを見てみようとしたのだが、なぜか開くことができない。



「あ、僕のステータスは非公開なんだ。そういうスキルがある」


「……何者なんです?」


「さぁ……。ってか、そんなに警戒しなくても良いのになあ。あ、そうだ。その【禍患】ってデバフ消してあげるよ」



 男が指を鳴らすと、その指先から緑色のエフェクトが迸る。ステータス画面を見てみると、本当に【禍患】が消滅していた。



「ありがたいんですけど……逆に怪しい」


「疑り深いねえ……まあ《VOX-0》はそのくらいの慎重さが必要だからね。君にはあってると思うよ」



 そう言って男は笑った。

 意図がつかめない。何者なんだ、この男は。

 知らないプレイヤーにPKされたのが若干トラウマになっているので、警戒は緩めずに聞く。



「あの、まだ何か?」


「いや、君を見れたからもう満足だ。じゃあね」



 男は手をひらひらと振り、沈むようにこの場から姿を消した。



「……もしかして、半裸虚無僧だったのバレてんのか」



  後に残ったのは、ただ呆然と立ち尽くす俺だけであった。


晶牙のエルボアはHPが低い代わりに攻撃が強いボスです。攻略としては、基本は走らせてスタミナ切れを狙うか、頭に乗って振り落としモーションを続けさせるかになります。

後者のメリットはHP10%以下の発狂を振り落としモーションで上書きできるというところです。その分耐えなければならずソロではきついのですが、ナツレンのように技術力があればなんとかなったりもします。

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