Part84 傷の狼の背に乗って
この章はあと三話くらいです
ズガン! と音を立てて、ミーティアが蹴り放った槍が地面に突き刺さる。
心臓部の目玉を潰され、頭部の目玉を貫かれたネクロヴァージ第三形態は、糸が切れたように膝から崩れ落ちると、そのまま液状になって地面に広がり、染み入るように消えた。
「……これで終わりか?」
GOODの呟きには、『そんなはずが無い』という意思が込められているようだった。
正直言って、俺もこれで終わりでは無いと思う。
静まり返る塔の上空に鎮座する眼は、未だ消えていないのだから。
果たして、状況は動き出す。
天空の眼はゆっくりと瞼を開けると、その淵から涙を流し始めた。
涙の一滴一滴はかなりの質量を持って落ち、低い音を立てて着地した先から変形して行く。
「うわぁ……」
円形のフィールドをぐるりと一周取り囲むように、ネクロヴァージの配下であろう異形がひしめいていた。
異形の相貌はごく普通の人間のような姿のものから、上半身が巨大な腕になっているものやそもそも全く人型ではないものなどさまざまだ。
大きさはそれぞれ普通の人間程度で、第三形態のように眼が付いているわけでは無いが、とにかく数が多い。
一斉に動き出した。
「GOODは上空の眼を狙い続けてください! 全員で守りますよ!」
咄嗟に八百万が指示を出す。流石頼れる司令塔だ。
俺も指示に従って異形との戦闘を始めることにした。
「それと、御兎姫。貴女の攻撃は届きますか?」
「……やってみる。《奔流赫炸》」
御兎姫から放たれたレーザービームのような攻撃は、真っ直ぐにネクロヴァージの眼へと突き進んで行く——が、あと僅かのところで消滅してしまった。
間合いの範囲外らしい。
「……ダメみたい」
「分かりました。それならGOODに任せるしかありませんね」
「それなんだが、連戦のせいで特殊弾薬がかなり心許ない。せめてもう一人欲しいところなんだが」
「なるほど……正直言って、私ももう遠距離攻撃に割ける電力はあまりないんです」
俺には特に必須アイテムのようなものはないのだが、御兎姫の丸薬やGOODの特殊弾薬など、ないと戦闘に支障をきたすようなアイテムがある場合、こういった長期の戦闘ではどうしても不利になってしまうのだろう。
もちろん、今の状況が突発的に発生したものだからこそ起こった事態であって、事前に長期戦であることを知っていればアイテムを買い込んでくるなどの対応が可能ではあるのだが。
「……せめてもう少し高さがあったら」
「私が肩車をするというのはどうかしら!」
「……却下」
ネクロヴァージの配下を薙ぎ倒しながらのミーティアの提案を、御兎姫が即却下する。
そもそもミーティアはかなりアクロバティックな動きをするので肩車とか無理だろ。
とは言え、御兎姫の攻撃は、肩車はともかくなにか乗るものでもあれば届きそうではあった。
「乗るもの……あっ」
ここで、俺は閃いた。
後々の為に残しておいた隠し球だが、使う場面はまさに今だろう。
そう考え、俺は一度退いてキルカに右手を向けた。
「行けるか?」
「いつでも大丈夫だぞ、ご主人!」
まあここまで温存していたわけだから準備は万端だろう。
大変な仕事を押し付けることにはなるが、出番だ。
強い闘志を宿したキルカの眼をじっと見て、俺はウィンドウに現れた表示をタップした。
瞬間、辺りが闇に包まれ、同時に先ほどまで辺りに響いていた戦いの音も消える。
まるで時間が止まったかのような変化だ。
そんな一瞬の出来事の後、霧が晴れるように徐々に世界に色と音が戻った。
「アオ————ン!!!」
巨大な狼の姿となったキルカは高く吼えると、四つの足でしっかりと地面を踏みしめて立つ。
久しぶりの巨大キルカだ。そもそも狼の姿になったのも最近見てなかったな。
「うおお!? 味方かこれ!! ……って、これキルカなのか?」
「あ、普通に使っちゃうんだねぇ」
「え、狼!? キャラ被り!!??」
突如現れた巨大な狼に対し、それぞれがそれぞれの反応を示す。
そういえばこの状態のキルカを知ってるのって幻水だけだったな。その幻水に対しても言葉で説明しただけで、実際に巨大化した状態を見せたわけではなかったはずだ。
「とりあえず説明は省くけど、キルカの上に乗ったら御兎姫の攻撃も届くんじゃないかと思ってさ」
「……なるほど……いけるかも」
巨大化状態のキルカは並みの馬よりもデカい。世紀末覇者の黒馬と並ぶレベルだ。
そのうえ跳躍力もかなりある。高さを稼ぐのには適任だろう。
「頼んだぞ、キルカ。多分敵から狙われるだろうからなるべく動き回ってくれ」
「了解だぞ!」
御兎姫を背中に乗せたキルカは、御兎姫の様子を確認しながら動き始めた。
御兎姫の攻撃も問題なくネクロヴァージの眼に届いている。これで一先ずは問題ないだろう。
「さて、俺は俺の仕事をするか……《舞荒ぶ颶風!」
風を纏う槍を振り回し、俺は異形の群れへと身を投じたのだった。




