Part80 睥睨する者
めっちゃ投稿が開いてしまいました。申し訳ありません。
ずっと戦闘シーンに納得が行かずに書いては消し書いては消しを繰り返していたのですが、流石にこのままではマズイと思い妥協として途中で視点変更を加えることにしました。
今まで通り一人称はナツレン視点だけですが、これ以降多人数での戦闘シーンにおいては三人称視点が入ることになると思います。読みにくいかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。
虚空に生じた隙間から、大きな瞳がこちらを見つめる。
暗く明るい薄明の空に、赤黒い瘴気がゆっくりと染みを作るように漏れ出ている。
ついに目の当たりにした『悪魔』の威圧感に全員が気圧される中、最初に口を開いたのは幻水だった。
「……このロリコンどもめ?」
「雰囲気ぶっ壊すなって」
確かに一瞬よぎったけども。
そんな緊張感のない俺たちをよそに、バックベアード……間違えた。ネクロヴァージは人の胴体ほどの太さの黒い腕をいくつも現し、千手観音のようにずらりと並べた。
「八百万、指示出せるか!?」
GOODの問いかけに、八百万は一瞬考えてから口を開いた。
「……ウルフさん、御兎姫、ミーティア、ナツレンは散開してそれぞれ攻撃を。貴方は固定砲台になってください。残りでサポートします」
「了解した!」
「キルカ。貴女も戦えますか?」
「大丈夫だぞっ」
「ならばナツレンと共に行動してください」
咄嗟の指示に従い、俺はキルカと共に走り出す。
同時に、ネクロヴァージも攻撃を開始した。
眼の周囲から伸びる腕が無造作に叩きつけられ、地響きと共に破片を撒き散らかす。
チョップのように叩きつけられた腕は、そのままの形で地面を削りあげるように擦らせながら俺へと迫った。
「よっ……って、危なっ!」
ジャンプして避けた先に迫る二本の腕をスカイグライドで回避しつつ、それによって生じた回転力をそのまま攻撃に転用する。
「《軌煽爪風》!」
回転しながら連続して斬りつける爪の技を、今回は敢えて深く突き立てる形で使用した。
一撃が食い込み、続く攻撃も食い込む。
回転しながらそれを連続することによって、俺はネクロヴァージの腕を上手く登ることに成功した。
過去にアニメで見た動きを思い出してやってみたのだが、割とぶっつけ本番でもどうにかなったな。
さて、流石に腕の上に乗った羽虫を気にしないほどネクロヴァージは大らかではないらしい。
俺の乗った腕はすぐに勢いよく暴れ始める。
その揺れに対し爪を駆使してしがみついていると、降り落とすのを諦めたのか今度は別の腕を使って払い落としに来た。
横薙ぎの払いをバク転のような形で飛び避け、続く叩きつけを直前で回避する。
すると、振り下ろされた腕はその勢いのまま俺の乗っている腕に直撃した。狙い通りだ。
「流石にこれ以上は無理か……!」
続く一撃を腕から飛び降りて回避し、空中でスカイグライドを使用して柔らかく着地する。
「ご、ご主人、流石について行けないぞ……」
「ごめん、一人で行きすぎた。なるべく地上で戦うから援護よろしく!」
「了解だぞ!」
まだ戦いは始まったばかりだ。
出し惜しみしている場合ではないが、それはそれとして後のことも考えながら動かないと後々面倒なことになりかねない。
「ご主人、笑顔だな?」
「……うん? 笑顔だった?」
「うんっ、楽しそうだったぞ!」
楽しそう、か。
確かにそうだ。過去一度も討伐されたことがなく、設定として存在しているだけでほぼ全て未実装であると噂される程のアルカナシリーズ。
その一体が今、目の前にいるのだ。
手に持った多腕機神の刃影を槍に変化させ、俺はキルカと共に『悪魔』へと立ち向かっていくのだった。
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「あのナツレン、久し振りに見たなあ」
襲い来る腕を曲芸の様に避け続けるナツレンを見ながら、GOODはしみじみと呟いた。
そんな彼を見て、幻水は不思議そうに尋ねる。
「んー? いつもは違うの?」
「まあな。あいつ、たまに凄え集中力発揮することがあるんだけど、今がまさにそんな感じなんだ」
「ふーん……GEVOの時のナツレンくんもああだったのかなあ」
「ああ、アイツがGEVOやってた時はリアルでも研ぎ澄まされてたな」
そのように談笑してはいるものの、攻撃の手は緩まない。
インベントリから弾薬を掴み取り、素早く装填。
その一瞬の無防備な状態を狙うかのように腕が飛来するが——
「《アルファ・ブレード》」
残像を残すほど素早い電磁ブレードの一撃が腕を斬り払い、仰け反らせる。
同時に白い大蛇が腕を咬み、その動きを鈍らせたところにGOODが弾幕をブッこんだ。
「腕を倒していてもキリが無いですね……GOOD、狙いを眼にしてみてください」
「おう、任せろ」
八百万の的確な指示に従い、GOODは照準を巨大な眼に合わせる。
先ほど咄嗟に八百万が考えたのは、移動速度を犠牲に圧倒的DPSを手に入れたGOODを戦術の核に据え、動き回れるアタッカーをそれぞれ離れた位置に配置することによって腕を分散し、その上でGOODの方にやって来る腕を八百万と幻水でどうにかするという作戦だ。
分散させる戦法は半ば賭けでもあったが、概ね八百万の予想通りになった。
腕はそれぞれ個でモンスターとして完結しているらしく、ダメージの総量によって全ての腕のヘイトが決定付けられるというわけではないようだから、分散の戦法は意味を成す。
仮にヘイトが腕全体のダメージによって決められていた場合はGOODに攻撃が集中してしまうことになるため作戦を変更する必要があったのだが、それは杞憂だったらしい。
それ故に、攻撃は恐らく本体であろう眼に対してのみ効果があるのだろうという予想も成り立ったが、それはGOODが遠距離攻撃を持っているが故に容易に解決できた。
標的を「眼」に合わせ、GOODはしっかりと引き金を引く。
それに呼応して、城壁の様にGOODの周りに鎮座する重火器群が一斉にミサイルや弾丸を撃ち、その全てが余すことなくネクロヴァージの眼に着弾した。
とりあえず攻撃自体は通りそうだ、と八百万は胸をなでおろす。
しかし、同時に言い様のない不安が存在するのも確かであった。
その不安を補強する様に、GOODが呟く。
「なんか弱いな」
八百万の抱えていた不安感は、まさにそれであった。
彼が戦ったどのアンカーも、確かに全て少人数で挑んだとは言え、今のネクロヴァージよりも強かったと断言できる。
「……少人数戦ばかりだったからそう思えるのでは?」
「まあそれもあるだろうが……前に戦った『月』、リーサル・エクリプスは初っ端から対応するのがやっとだった。それに比べると、同じアルカナシリーズでもコイツはだいぶ弱く感じる」
「ふむ……」
ヴォックソにおいて、これ以前にアルカナシリーズに挑んだ人間は数人のみ。
リンネが入るよりも昔の【アルゴノーツ】のメンバーだけだ。
それ故に、この場においてはGOODの言葉の重みが増す。
何かあるのだろうかと思考の深みに嵌っていく八百万の横で、さして考える様子もなく幻水が呟いた。
「スロースターターなんじゃないかなあ?」
その言葉に反応するかの様に、ネクロヴァージはゆっくりと動き始める。
眼は徐々に高さを増して行き、やがてフィールドの真上へと達した時、その眼の淵からドス黒い液体が零れ落ちてきた。
ドプン、ドプンと音を立てて、粘度の高い液体は意思を持つ波の様になって動き始める。
異常に早い第二形態への移行に、八百万は最早この先を考えることが出来なかった。




