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Part79 薄明を睨む

週末は大阪に行っていたので更新が遅れました。申し訳ないです。

夢の島思念公園が最高でした。


 残りのアンカー、ヴァイオレットとフラーウムが撃破されたのは、俺たちがグレイを倒してからゲーム内時間で翌日のことだった。


 八百万からチャットにて集合の呼びかけがかかり、俺がヴォックソにログインすると、既に他のメンバーは揃っていた。

 ふと見た空は、燃え上がるように赤く染まっている。アンカーを倒したことによって徐々に高さを変え始めた太陽は、まだ沈みきってはいないようだ。



「あっ、ご主人」


「キルカか。起きたんだな」


「うん、ぐっすり寝たから疲れもとれたぞ」



 休眠状態から覚めたらしいキルカが俺の方に小走りで近づいてきた。

 まあ数日寝てたからな。実際それだけ寝てたら逆に疲れそうではあるが。


 

 さて、俺たちが全員集まったタイミングを見計らっていたのか、階上からヴェルメリオが姿を現した。


 彼は窓から外を眺め、それから俺たちの顔を順に見て口を開いた。



「アンカーを無事に八体倒したみたいだな。本当に良くやった。君達のような人間がいるのなら、きっと大丈夫だ」



 嬉しそうにそう語るヴェルメリオに、八百万が言葉を投げかける。



「ヴェルメリオ。貴方もアンカーなのですか?」


「ああ」



 八百万の質問に、ヴェルメリオはさして驚いた様子も見せずに即答した。

 途端、俺も含めその場にいた全員に緊張が走る。



「とは言っても、オレは戦うつもりないけどな」


「……そうなのですか?」


「戦いたいのなら相手はするが……オレの役割は、キミ達にとってどうにも相性の悪いアンカーがいた場合、そのアンカーに代わってオレが相手をすることで力量を判断することなんだ」



 ゲーム的にいうのなら、詰み回避用のお助けキャラというやつか? 

 それはなんか違う気もするが……極端な話、魔法しか使えないようなメンバーでグレイに挑んでいた場合は魔法反射を持つ第三形態で完全に詰んでしまう。

 流石にそんなバランスの悪いメンバーで来ることはないと思うが、そうでなくとも様々な要因から明確に相性の悪い相手は存在するだろうし、そう言った場合に必要な措置なのだろう。



「キミ達が八体のアンカーを自力で倒した時点でオレの役目は終わってるわけだから、戦わずとも自分から消えるつもりだよ」


「……では、消える前に悪魔について聞いても?」


「ああ、そうか。それは話さないとな」



 ヴェルメリオは思い出したように手を叩き、階段に腰掛けてゆっくりと話し始めた。



「まず、『悪魔』の名はネクロヴァージと言う。具体的な情報まではオレも知らないんだが、ヤツは『狭間』を根城とするらしい」


「狭間……?」


「ああ。何かと何かの境界線、お互いの区別が曖昧になるような狭間だ。時間帯でいうなら黄昏の後、薄明だな」


「だから時間を固定していたのね?」


「その通り。元々この空間はネクロヴァージの巣みたいなもので、時間は常に薄明に固定されていたんだが、それを無理矢理日中に変えることで逆にヤツを捕らえる檻にしたんだ」


「なるほど……そのまま捕まえ続けるのは無理なのか?」


「最初はそのつもりだったんだが、どうしても計画を変更する必要が出てきたんだ」



 ヴェルメリオは一層深刻な表情で言葉を続ける。



「アンカーには時間を固定する以外にもネクロヴァージの力を吸収して弱らせるという役割があるんだが、いつしかネクロヴァージも力を吸収するようになり始めてな。何年か前、ついにオレたちが吸収するより多くの力を吸収してくるようになった。これではいつ逃げ出すかわからない」


「だから手がつけられなくなる前に倒そうってわけか」


「そんな所だ」


「……うーん? よくわからないんだけど……封印できてるんだったらその状態で殴って倒せたりしないの?」



 ウルフさんが率直な感想を口にした。

 それを言ったら終わりじゃね?



「ネクロヴァージは今のところ薄明にしか現れないからな。こちらから一方的に殴ることは不可能だ」


「そっかー」


「……さて、質問はもういいか? 正直言ってこれ以上の情報はオレにはないぞ」


「そうですね、もう大丈夫です」


「そうか。じゃあ、付いてきてくれ」



 そう言って、ヴェルメリオは階段を登り始める。


 そういえばこの塔登ったことなかったな。

 そんなことを思いながら丁度一階分ぐらい階段を登ると、そこは既に塔の天辺であった。



「うわ高っ……急に頂上に来たな」



 まあ、流石に塔を一番上まで愚直に歩く必要があったらそれはそれで面倒なので、こんな感じに割り切った作りは結構有難い。


 

「何年……いや、何世紀振りかな。こんな空は。燃えるように赤い……オレにぴったりの色だ」


「……なあ、ヴェルメリオ。俺たちはネクロヴァージに勝てると思うか?」


「さあな。ただまあ、生きてさえいれば何度でも挑めるだろ」



 ヴェルメリオはひとしきり空を眺めてから、赤く染まる太陽を背にした。



「じゃあな。健闘を祈る」



 彼はそう一言言うと、炎を纏って解けるように消滅した。

 同時に、空の色が目に見える速さで移ろい始める。


 濃い橙色の空は徐々に青く暗くなって行き、やがて『狭間』が辺りを包んだ。


 黄昏のその先——薄明。

 ゴールデンアワーやマジックアワーなどと呼ばれる、太陽が沈んだ後の僅かな時間。

 日は見えずとも空は明るい、昼のロスタイムで、夜への助走。

 そんな余白のような時間に——それは現れた。


 空間が捻れ、歪みから現れた無数の腕が、力づくで虚空を引き裂く。

 そうして生じた穴から、巨大な眼が覗いた。



[ARCANA-XV ネクロヴァージ]



 正真正銘、アルカナシリーズの一体が、俺たちの前に姿を現したのだった。

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