Part78 落陽は荒野に燃える
頭部ユニットの破壊に連鎖して、銀色のボディと四本の腕が爆ぜる。
その爆風を至近距離で食らってしまった俺だったが、どうやらムービー的な演出だったらしい。
爆発に当たり判定はなく、俺はそのままヒーローのような三点着地で生還した。
「ふう……」
額の汗をぬぐい、深く息を吐く。
ヴァイス、ノワールに続き、三度目の勝利だ。
難易度としてはヴァイスほど高くはなかったように思えるが、今回は俺も積極的に攻撃に参加していたから達成感が段違いだ。
そんな充足感に満ちたまま、俺は背後に感じる刺すような殺気に真正面から向き合い、笑顔で勝利を分かち合うことにした。
「ありがとうな、幻水!」
「想像もつかない手段で仕返しするから夜道に気を付けてねぇ☆」
こいつ本気だ。
ニコニコしているのに目が笑っていない。
まあ予想通りではあったが、踏み台にされたのを相当恨んでいるらしい。
常に他人のことを踏み台以下と認識しているような人間だが、自分自身が踏み台にされるとめちゃくちゃキレるんだよな。
とは言え、申し訳ないことをしたとは思っている。一応謝っ……
「そんなに美少女のことを足蹴にしたかったのかなぁ? もしかしてナツレンくんってばドS?」
「そういえばお前『ふぇっ!?』って言ってたよな」
「今謝るなら二つある臓器から選んであげるよぅ」
「内臓売られるのは確定なの?」
「……ねえ、漫才してないで……回復くらいしてくれても……」
「あっ」
そういえば、今御兎姫は動けない状態なんだった。
ステータス欄を見ると、おびただしい数のデバフが付与されているのが見て取れる。ミーティアの料理食った時みたいだな。
……奥義のデメリットと同等のデバフを付与する料理って何?
思考がダークマターの底に飲み込まれるのを振り払いつつ、インベントリから回復薬を取り出して飲ませ、体力が回復したのを確認してから御兎姫を持ち上げる。
「…………なんでお姫様抱っこなの……!?」
「さっきみたいに米俵の担ぎ方するのもどうかと思って……全身痺れてるなら背負うのも難しそうだし」
「……いや、そもそも塔にワープするだけだから大丈夫……!」
「えっ、身体動かないんじゃないのか?」
「…………??」
話が噛み合っていない?
「あー、そっかそっか。ナツレンくんって物理操作以外受け付けない脳味噌旧時代のお爺ちゃんだったねぇ」
「ここぞとばかりに煽ってくるなお前……どういうことだよ」
「ナツレンくんはメニューとか全部仮想UIを直接手で操作してるけど、別に手で触らなくても操作できるんだよう?」
「…………え、マジで?」
「マジ」
そうか。言われてみれば確かにそうだ。
今までやったどのゲームでも俺は物理操作だったし、現実でもキーグローブを使っている。
目線操作が出来ないわけではないのだが、やはり戦闘中にそれやると相手から目線を切らないといけないわけだし、思考操作は正確性に欠けるためそれ以上に扱いにくい。
まあ、どちらも何となくうまく出来ないから物理でやってるだけなんだけどな。
「……でも、物理操作の割にはかなり速いと思う。普通に目線とか思考で動かすのと変わらないくらい」
「そこはまあ、ナツレンくんだからねぇ」
「もしかして褒めてるのか?」
「九割貶してるよぅ☆」
だろうな。
……まあ、何はともあれグレイは倒すことができた。
八体いるアンカーのうち、残るは二体。
それぞれGOOD達が戦っているので、今のところは俺の出番はなさそうだな。
————
他のグループはまだ時間がかかるようなので、ひとまず俺はヴォックソからログアウトした。
中々に濃い戦闘を三回連続で行なったわけだが、これはアレだな……
「……また燃え尽きるかもしれないな」
俺の集中力にはムラがある。
普通にプレイしている上では特に気にするようなムラでもないのだが、例えば少し前、キルカ関連のクエストと黒蝕の禍を連続して行った時のように短期間に凄く熱中した場合、謂わゆる燃え尽き状態になってしまうのだ。
飽きというとまた違う気もするが、性質的には似通っている。
近いうちにまた別のゲームでも挟むべきだろうかとも思ったが……まあ、そのうちイベントもあるので心配することもないか。
さて、少し仮眠でも取るかと横になったところで、アンカーの色について気になっていたのを思い出した。
ヴァイスが白でノワールが黒、グレイが灰色というのは調べずともわかる。
しかし、他の色の由来はあまり予想がつかなかった。
もしかしたら何らかの法則性があってそれが攻略のカギになるのでは……と思っていたのだが、今となってはそれも意味はなく、純粋に俺の興味を満たす為だけの行動だ。
早速、ブラウザでそれぞれ検索をかけてみる。
ヴァイオレットは紫……これは知ってるやつだな。
アズールが青というのも、ゲームのタイトルに使われていたから何となく知っている。
残りはヴェルデとフラーウム。全く予想がつかないが、どうやら前者が緑で後者が黄色らしい。
イタリア語とラテン語のようだ。
……と、ここで俺は奇岩地帯のアンカーの名前を知らなかった事に気付いた。
俺は結局実物には遭遇しなかったが、確かチャットで誰かが名前を言っていたはずだ。
見てみると、実際にそいつと戦った八百万がグループに名前を載せていた。『ブルトカール』という名前らしい。
今までの色の傾向から察するに、ブルトカールは『赤』を表す言葉だろう。
これだけ様々な色があって赤だけないというのは不自然だからな。
そんな俺の推測は強ち見当違いとも言えないと思うのだが、調べてみるとすぐにそうではないという事が分かった。
ブルトカールはアラビア語でオレンジを表しているらしい。
つまりは、橙色。
青、黄、緑、紫、白、灰、黒ときて……橙?
何か不自然な気もするが……
「……いや、そもそもこの色に意味とかあるのか?」
これは流石に深読みしすぎかもしれない。
色なんて様々だし、適当につけることもまあ、無くはないだろう。
ただ、何となく。
何となく気になって、俺は他言語で赤を何と呼称するのかについて調べた。
「イタリア語でロッソ、フランス語でルージュ……この辺はわかるな。ロシア語はクラースヌイ、アラビア語はアフマル、トルコ語はクズルで、ポルトガル語は……」
そこで、俺の視線は止まる。
同時に「ああ、そういうことか」と納得した。
ポルトガル語で、赤はヴェルメリオ。
これは……もう一戦あるのかもしれないな。




