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Part77 冥き血と蛇



「助っ人ってお前だったのか……」



 そう言えばGOODが助っ人を呼んだと言っていた。

 アタリは三分の一(リンネ)だったのだが、見事にハズレを引いてしまったようだ。

 まあココロアに比べたら全然マシか。



「あ、この子? わたし今蛇神憑(カガチツキ)って言う特殊職なんだけど、セットでこの白い蛇も付いてくるんだよねぇ。ちなみに役割は前と変わらずデバッファー。頼れる妨害役の幻水をよろしく〜☆」


「それは後で聞くから!!」



 ベラベラと口を動かしながらも、幻水はグレイの攻撃を避けつつデバフを差し込んでいた。

 性格はともかく腕は確かなんだよな。



「はいはぁい。……っと、そういえばクラマスさんから御兎姫ちゃんに届け物があったんだった」



 そう言って、幻水は懐から大きめの巾着を取り出して御兎姫に放った。



「……何これ……って、丸薬……!?」


「よく分からないけど、『長期戦なら必要になることもあるだろう』って言ってたよ?」



 マジか。流石超さん、タイミングが抜群だな……。



「行けそうか?」


「……うん。大量にあるわけじゃないからペースは控えめにするけど、それでも十分」


「それなら良かった」



 と、ここで腕の薙ぎ払いが俺たちの元に迫り、それぞれ回避行動をとって戦闘に転じた。



 幻水の参戦によって三人に増えたわけだから、実質御兎姫の負担はこれまでよりも減るはずだ。

 楽観的な考えではあったが、実際にグレイとの戦闘はこれまで以上に上手くいった。

 一度行動パターンの変化が入ったところで全滅してしまったが、それ以降は一度も負けることなく戦い続けている。

 三人に増えたことによる弊害は目に見えて見えることもなく、そもそもデバッファーが増えたのだから数値的にはむしろ今までより下がっている可能性すらあった。


 さて、そのような感じで戦闘を進めていると、予想通りではあったが、グレイは突如行動を止めた。


 

「第三形態か……?」


「形態変化もあるんだねぇ」



 第二形態への移行時のように、何らかの攻撃を仕掛けて来る可能性もある。

 そう考えてある程度離れた距離からグレイの様子を見ていると、グレイのボディと頭部ユニットを淡く光る薄い膜のようなものが覆った。

 これは何なのだろうか。

 他にもまだ何かあるのかとも思ったが、それ以外には特に変化はない。



「何だこれ……触らない方が良いやつか?」


「そうなったら攻撃手段限られちゃうねぇ」


「……私が一撃入れてみる。融血——《奔流赫炸(ロードライン・ブラスト)》」



 御兎姫が赤い槍を形成して投擲すると、それは赤く輝く血の流れとなってグレイへと迫った。

 まさにレーザーのような攻撃だ。


 しかし——



「……!!」



 御兎姫の攻撃はグレイの表面に触れた瞬間、軌道を変えて明後日の方向へ飛んで行ってしまった。

 血の奔流はすぐ側の建物に着弾し、爆発を引き起こす。


 触れたら爆発するタイプの攻撃のようだが……何故グレイに触れた瞬間に爆発しなかったのか。

 単純な話、グレイの表面を覆う光は魔法を反射するものなのだろう。もしかしたら反射効果は副次的なもので、本来の目的は別のところにあるという可能性もなくはないだろうが、現状は魔法を反射するということだけわかっていればいいか。



「とりあえず俺には影響ないけど……二人は大丈夫か?」


「……凝血すれば物理攻撃になるから、大丈夫」


「状態異常は通りそうだねえ」



 なら一先ずは問題なさそうだ。


 恐らくは、これがグレイの第三形態。

 同じく形態変化の発生したヴァイスにも形態は三つ存在していたし、大きく形態が変化したなかったノワールにも、謂わゆる中間ポイントのようなものは二つ存在していた。

 どちらも三つに区分けされていることから、これが最終形態と考えて間違いないだろう。


 となると、ある程度削ったのちに奥義を使って畳み掛けるのもいいかもしれない。



「二人の奥義ってどんな奴なんだ?」


「……私のは、発動すれば必中……防御力も下限まで下げられる。でも攻撃の威力自体はそこまで高く無いから追撃が必要。同時に私もデバフで動けなくなる」


「奥の手って感じだな……」



 あまり奥義について知らないのだが、やはり奥義というのは窮地において効果を発揮するようなものなのだろうか。

 まあ使い勝手が良すぎたらそればかりになってしまう可能性もあるし、そういう調整なのかもしれない。



「追撃はナツレンくんに任せるとして、私はそのサポートかなぁ。せっかくだし、奥義も使っちゃうよう☆」


「幻水のはどんな奥義なんだ?」


「私のは色々だねえ。まあ、いい感じの使うから安心したまえよぅ」



 色々? 奥義が複数あるのか?



「……まあいいや。とにかくまずは削るぞ」


「了解」


「はいはぁい」



 奥義頼りで急増な計画ではあるが、とにかく方針は決まった。後はただ遂行するだけである。

 俺たちは一度目を合わせ、そしてそれぞれが己の役割を果たすために飛び出した。



————



 第三形態に移行したグレイの攻撃は、やはりそれ以前よりも強くなっていた。

 単純な火力面では、結局俺は一発食らえば死んでしまうことには変わりないので比較のしようがないが、避けにくさとかパターン数の増加とか、そういう部分においては明確に強化されている。


 それに、魔法の無効化だけが目的なのだろうと考えていた光の装甲もかなり曲者だった。

 あの光は俺たちからの魔法攻撃だけでなく、グレイ自身のレーザー攻撃をも反射するのだ。

 それゆえ、全く意識していないところからレーザーによる攻撃が飛んで来て死ぬことが数度あった。

 反射後のレーザーは威力がだいぶ落ちているのだが、それでも当たりどころが悪ければ俺一人殺せるくらいの威力はある。



 そんな苦労を乗り越えて、ようやく俺たちはグレイを追い詰めた。

 生き物ではないから疲弊と呼べるようなものではないのだろうが、グレイの動きは目に見えて変化していた。

 動きには正確さが消え、レーザーの攻撃も直接狙って来るのであれば避けるのにさして苦労しないほどだ。

 もっとも、その分攻撃回数自体は増えているので元から狙いの関係ない反射攻撃は回避がきつくなっていたりはするのだが……とにかく、ここが頃合いだろう。


 そう考えて、俺は二人に合図を送った。



「了解。奥義……」



 言葉と同時に、御兎姫の手にナイフが現れる。

 その刃は吸い込まれそうなほどに深く暗い赤色で、奥義に相応しい威圧感を伴ってこの場に存在していた。

 その圧とは対照的に、御兎姫の存在は搔き消える。

 音もなく、気配もなく、彼女はグレイの懐へと接近し——



「《一撃血殺(いちげきけっさつ)》」



 ナイフが突き立てられたのと同時に、複数の赤い棘がグレイの内部から突き出してきた。



「——!!!??」



 放たれた奥義をモロに食らい、グレイは乱雑な電子音を響かせながら腕を振り回した。

 その一撃が御兎姫に命中し、彼女の身体は壁に叩きつけられてしまう。

 HPは危ういが……今はそれどころではない。



「幻水、行けるか!」


「ふっふっふ、大丈夫だよう……奥義——《蛇眼炯々・呪縛結壊》」



 瞬間、空間を裂いて複数の大蛇が現れた。

 毒々しい色をしたそれらは勢い良くグレイに噛み付くと、その動きを完全に封じてしまう。



「なる早でよろしくねぇ……!」



 俺の前に立つ幻水が、振り返らずにそう言った。

 強力な技だけあって維持するのが難しいのだろう。


 さて、このチャンスを逃すわけにはいかないのだが、固定位置が悪く《スカイグライド》を使っても頭部ユニットには届きそうにない。

 かと言って胴体へのダメージは期待出来ないし……と、ここで一つ閃く。


 めちゃくちゃ怒られそうだけど、まあ緊急事態と言えば緊急事態だし許してくれるだろ。多分。


 ハンマーに変化させた多腕機神の刃影(ヘカトンケイル)を強く握り、俺は真っ直ぐ幻水のいる方向に向かって走り出す。



「すまん、幻水!」


「え?」



 地面を蹴って跳躍。しかし《スカイグライド》を使うタイミングはここではない。

 そのままの勢いで右足を突き出し——幻水の頭を踏み台にして二段目の跳躍を果たす。



「ちょ——ふえっ!」


「よしっ」



 これで高さは十分だ。

 足の角度に気をつけながら《スカイグライド》を起動。ほぼ垂直に近い角度で上昇し、グレイの頭部ユニットを捉える。



「——ウルトロゴス、多重解放(オーバーロード)!」



 握りしめた戦鎚が、眩く輝く。

 かつて覇王と呼ばれた男が話し合いでの解決に失敗した時に用いたとされる、究極の解決手段。

 その圧倒的な破壊力の前に、もはや言語は意味を持たず。

 故に、ウルトロゴス(究極の言語)



「《アトミック・ハウザー》!!」



 黄金に輝くその一撃は、流星の如く尾を引き——轟音とともにひしゃげた頭部ユニットが宙を舞い、爆ぜた。


血殺者のスキルは凝血(物理攻撃)と融血(魔法攻撃)で効果が変わりますが、ついでにスキル名の読み方も変わります。

霧咲血花は融血だとブラッディ・ローズですが、凝血だとキリサキケッカになるという感じですね。

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