part7 脱・半裸虚無僧
二度目のカースゴブリン戦を終えた後、まだやることがあるというグッドと別れ、俺はログアウトした。
時刻は22時過ぎ。
簡単な食事を作りながら、ブログの内容を考える。
かなりスクリーンショットを撮ったので写真に困ることはないだろうと思っていたのだが、肝心のカースゴブリン戦を撮ることを完全に忘れてしまっていた。
一番盛り上がるであろうポイントだったために、惜しいことをした。
しかし後悔しても仕方ないので、なんとか良い感じにブログの内容を考えつつ、そのまま俺は寝落ちしてしまったのだった。
————
翌日の朝目覚めると、グッドからメッセージが送られてきていた。
開いてみると、『面白いことになってるぞ』という短文とともに、あるURLが添えられていた。
……一応乗っ取りが不安なので、URL内の文字から検索してみると、どうやらVOX-0のプレイヤーが集まる匿名掲示板のようだ。
手頃なスレッドを見てみると、8割近くの人間がコテハンをつけている。
匿名掲示板としては少し不思議な感じだが、そういう文化なのだろう。
若干の嫌な予感を感じつつ、俺はグッドから送られてきたURLを開いた。
————————
[アインシアに変なヤツがいたんだが]
1 提督閣下
何だこれ……(恐怖)
(gif画像)
2 十円
うわwww
3 XQS
何だこれ、虚無僧のブレイクダンス?
4 ななしさん
草
5 論理論理
地味にプレイヤースキルがエグすぎる
6 イナズマン
何だこの半裸虚無僧wwwww
7 トツカ
なんでこんな動き出来るんだ……
8 rovelica
半裸虚無僧で草
9 ななしさん
『パンツ一丁の虚無僧が角材でカースゴブリンを殴打してる』
何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何を言ってるのかわからねえ
13 六角
地味に横にいるシュワルツェネッガーみたいなやつも笑うんだが
なんの職業だこれ
15 うおのめ
草
てか横のやつ見覚えあるな
17 ロン毛ロン毛顎
例のクランの奴じゃね?
前にAliceちゃんと歩いてんの見た気がする
19 バット
災害のことAliceちゃんって言うのやめろよ!
20 ななしさん
初心者なのか縛ってる上級者なのか、どちらにせよ凄いな。
24 片原板志
角材殴打半裸虚無僧
25 イナズマン
角材殴打半裸虚無僧wwwwwww
27 論理論理
棄てられる要素が何一つないんだよな
29 rovelica
昆虫王者みたいな語呂の良さよ
32 ななしさん
ゴブリン殴打だけどな
……
[その後500辺りまでレスが続く]
————————
「……………………えっ?」
変な奴として貼られたgif画像に写っていたのは、まさに俺であった。
二度目のカースゴブリン戦を誰かが撮っていたらしい。
……こういうことってあるんだなあ。
顔もプレイヤーネームも出ていないので別に良いのだが、全く意図しない形で広がってしまったので少し驚いている。
きっと運命力がマイナスになったせいだ。そう思おう。
「まあいいや。ログインしよ」
————————
「さて……」
改めて俺の服装を確認するぜ!
頭には深編笠!腰にはパンツ!手には角材!
以上だ!
「想像以上にヤバいな」
なんというか、gif画像という形で客観的に見ると、この格好のヤバさが身にしみてわかった。
相変わらず俺を見る目が痛いので、金も溜まったことだし、装備を整えることにしよう。
「いらっしゃ、うおぉっ!?」
「そんなに驚かなくても……」
とりあえず武器屋に行ったのだが、屈強な武器職人でさえもこの格好にはビビるらしい。
逆に使えそうな気がしてきた。
「刀が欲しい。えーっと、そう、斬鉄」
「あ、ああ、斬鉄な。500アインだ」
表示されたウインドウを操作し、購入を確定する。
インベントリから取り出してみると、なかなかにいい重さが手に伝わった。
角材と比べればなんだって最高だが、やはり侍は刀を持ってこそだろう。
パンツに刀を挿しこみ、帯刀的な状態にする。
「マシになったか?」
「いや無理だろ。服を着ろ」
ですよね。
店主に礼を言って、今度は防具屋を訪れる。
もはや反応は割愛するが、所持金でいい感じの服を買うことができたので良しとしよう。
外見的にも性能的にも、初期装備から大きく変わるわけでは無いのだが、やはり服は良い。安心感が段違いだ。
装いも新たに街をぶらついていると、俺を探していたらしいグッドと出合った。
「よう、全裸虚無僧」
「全裸じゃねーよパンツ履いてんだろ。てかもう虚無僧じゃないし」
「着替えたのはいい判断だったな。若干だが見にきてるやついたぞ?」
「やばいな、ネットのおもちゃコースじゃん」
「顔映ってなかったのが救いだったな」
マジでそう思う。録画やSSには名前が出ないという仕様にしてくれた運営に最大限の感謝を送りたい気分だ。
それはそれとしてグッドは身元が割れてたくさいので、こいつから特定される可能性もありそうだが。
「あ、そうだ。ちょっと提案したいことがあるんだ」
「え? なに怖い」
「怖くねえよ。俺の入ってるクランに入らないかって話だ」
「クランっていうのは……なんか、グループみたいなやつだったっけか」
「正確には『斬りかかられてもこいつなら返り討ちにできるな』とお互いに内心でほくそ笑むプレイヤーたちが作る共同体だな」
いや結局怖えよ。
それが正式なものだとして、俺は目の前の筋肉モリモリマッチョマンの廃人を返り討ちにできる自信などないのだが。
「まあ半分、いや一割くらい冗談だけどさ」
「九割本気じゃん。まあ別に入るところなんか決まってないしいいんだけど」
「そうか! じゃあささっと次の街まで来てくれ」
「次の街?」
「デュオクレインってとこな。クランに入れるようになるのはそこからなんだよ」
なるほど。たしかに、この町は規模が小さい。
初心者が最初に訪れる場所ということで、敷地自体はかなり広いのだが、施設に関してはあまり充実していないように感じる。クランなるものに関連する施設も見たことがない。
まあ、ここも含めてチュートリアルみたいなものだからとっとと次の街に行けよってことなのだろう。
「次の街ってどう行くんだ?」
「メインクエスト進めればすぐだな。一応聞いておくけど、手助けは?」
「必要ないな」
「そう言うと思ったよ」
圧倒的パワーで突破するのは基本的に奥の手だと考えている。 余程詰まることがなければ頼りたくないものだ。
それに、せっかくの神ゲーなのだから全力で遊び尽くしたいし。
「まあ、デュオクレイン着いたらまたチャットなりなんなりで連絡してくれ。俺はちょっと暫く用事があって簡単には会えなくなりそうだからな」
「了解」
それだけ言い残すと、グッドは羽の舞うエフェクトとともに消滅した。テレポートだ。
一度行った街同士であれば、テレポートは簡単に行えるらしい。
「さて……メインクエスト進めるか」
二度のカースゴブリン討伐の結果かなりステータスが上がったので、そろそろ攻略を進めておきたいと思っていたところだ。
これ以上ステータスをあげるとヌルゲーになりかねない。
インベントリからマップを呼び出し、次に行くべき場所を見つけてから、俺は歩き出した。