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Part73 影の蝙蝠



「《アルファ・ドゥーベ》!!」



 光属性の剣スキルによって、八芒星を洞窟の壁に刻み込む。

 淡く輝く八芒星は、一拍おいて光を放ち、サーチライトのように反対側の壁を強く照らした。

 八芒星から照らされた壁までの間には何も存在しないように見えるが、しかし壁には濃く蝙蝠の影が浮かび上がっていた。

 


「今!!」


「オーケー、フルバーストだ!」



 状態変化スキル《弾幕掃射(バラージファイア)》によって文字通りの固定砲台と化したGOODから大小様々な攻撃が放たれ、壁ごとシルエットを爆撃する。



 ノワールというアンカーは、白虎(ヴァイス)以上に特殊だ。

 ノワールの本体は透明で、しかもこちらからの攻撃はほとんど通らないようなのだが、光を受けることで壁にシルエットが出来る。

 そのシルエットに対してのみ、こちらから攻撃を加えることが可能というわけだ。


 最初に挑んだときは普通に光霊を倒してしまい、回避不可能であろう即死攻撃によって敗北してしまった。

 それ以降は光霊を残しつつ戦っていたのだが、しかし光霊の光は部屋全体を照らしてしまい、ノワールが自由に飛び回ってしまうため効率が悪かった。

 そんなわけで試行錯誤を重ねること数回、ある作戦を立案し今に至る。


 その作戦とはつまり、「光霊の光を超える光量によって任意の場所にノワールの影を出現させる」というものだ。

 俺の剣スキルはほぼ全て光を生じるものであり、その光量であれば問題なく作戦を遂行できる。

 一度《アルファ・ドゥーベ》を発動すれば数秒は釘付けにすることが可能なので、その隙に俺とGOODで袋叩きにするという、極めて単純な作戦だ。



 羽音や攻撃から位置を特定し、スキルで影を出現させ、袋叩きにする。

 それを何度も繰り返し——



「《アルファ・ドゥーベ》!!」


「《爆撃轟々(ボンバード)》!」



 何十度目かの連携の末、俺たちはついにノワールに致命傷を与える事に成功した。

 巨大な影は千切れ、分裂し、無数の塵へと変化して行く。

 それが次なる形態への状態変化でないことを用心深く確認し、俺は張り詰めた緊張の糸を緩めるように一つため息をついた。



「ふう……お疲れ、GOOD」


「おう、ナツレンもな。にしても、群体蟹(アズール)に比べると相当楽だったぞ」


「それはこっちも同じだな」



 挑戦回数は十回ほどだっただろうか。

 白虎(ヴァイス)に比べると、ノワールは強さの大部分がギミックに依存していたため、そこを上手く突き崩すことが出来たことが勝利に繋がったのだろう。

 正直言って俺が光属性の攻撃を使えなかったらまあまあ面倒なことになっていただろうし、そういう意味では運が良かったとも言える。



「早く撃破できるに越したことはないな。……そうだ、俺が報告しておくよ」


「サンキュー」



 メニューからチャットを呼び出し、戦いが終わったことを報告すると、ほとんど同じタイミングでミーティアと御兎姫の方からも片が付いたとの報告がきた。


 八百万とウルフさんの方はまだのようだが、まあ俺たちが特別早く終わっただけなので当然といえば当然か。

 どちらも次組む相手ではないので俺にとっては特に問題ではない。

 


「アズール、ヴァイス、ノワール、ヴェルデまで倒したから、あと四体か」


「残りもこのくらい簡単だったら良いんだがな」



 ノワール程とは言わないから、せめてヴァイスよりは簡単であって欲しいものだ。


 さて、次の相手に挑むメンバーとして俺が選ばれたのは、戦略上の理由ではなかったりする。

 ヴァイスのように単体攻撃がメインなわけではないし、ノワールのように光属性の通りが良いわけでもない。

 ただ単純に「リベンジがしたいから」という理由で俺を編成して欲しいと頼んだのだ。


 軽く頰を叩いて気持ちを切り替える。


 次の相手は、グレイ。

 俺が敗北を喫したあの球状のゴーレムだ。


————



 随分と時間が経っていたので一度ログアウトして睡眠をとり、翌朝、俺は待ち合わせ時間の十分前にヴォックソにログインした。


 今気づいたのだが、太陽がかなり傾いて来ている。

 刻を留める者(アンカー)を倒した事によって、徐々に太陽が沈み始めているようだ。

 八体目を倒す頃には、完全に陽が沈んでいるのだろうか。


 さて、相変わらず休眠状態のキルカを確認しつつ塔の外へ出ると、出入り口の横に一人の少女が立っていた。



「ん? 早いな」


「……そっちこそ。まだ10分あるのに」


「早く来ておいた方がいいと思ってな」



 今回のグレイ戦を共に戦うプレイヤー、御兎姫だ。


 恐らくあのゴーレムに対しては魔法攻撃の方が通りが良いだろうという理由から、現在この空間に存在する人間の中で最も(というか唯一)魔法攻撃を使える彼女が選ばれたらしい。


 旧市街へと向かう道すがら、御兎姫は自身の職業について語ってくれた。

 彼女の職業は「血殺者(ブラッド)」というらしい。中二心をくすぐる名前だ。

 忍者とかアサシンとか、そういう系統として存在する特殊職のようだが、ほかの職業と大きく異なるのが物理攻撃と魔法攻撃を使い分けられるという点なのだとか。


 血殺者というだけあって攻撃に用いるのは血なのだが、それを固めると物理攻撃に、流動する液体として扱うと魔法攻撃になるらしい。

 前者は攻撃力が高くエフェクトがほとんどないため暗殺向きであったり、後者は派手なエフェクトこそ出るが範囲攻撃であったり、使い分けることで幅広く対応できるようだ。



「……まあ、その分スタミナの減りが異常なんだけど。両刀だから下手に継戦能力に振ると器用貧乏になるし、私は丸薬で補ってる」


「なるほどなあ。防御力は?」


「……魔法は避けにくいから、魔法防御はそこそこ振ってる。物理防御は……多分ナツレンと同じくらい」


「紙じゃん」



 まあ、防御力に関しては今いるメンバー全員平均以下なので、そこは誰が選ばれたとしても変わらないところだ。

 実際ヴォックソは序盤の敵が理不尽に強すぎて防御に振ったところで焼け石に水になってしまうので、それがトラウマになっているのか、ある程度安定して来てもみんな意図的に他のパラメーターに振っている傾向があるように感じる。

 俺ほど極端な人間はいないだろうが。



 と、ここで俺たちは奇岩地帯を抜け、旧市街エリアに足を踏み入れた。

 キルカと来た時とは別ルートだが、相変わらずどの建造物もボロボロだ。



「よし、まずはオブジェクトを探すか」


「了解……スキル使う」



 御兎姫の目が赤く光る。

 暗殺者系統の職業には、標的を探すタイプのスキルがあるらしい。

 流石にオブジェクトをそのまま対象として設定はできないだろうから全体的な地形を見るようなスキルなのかもしれないが、それでも十分便利だ。俺も欲しいな。


 十秒後、御兎姫は軽快な身のこなしで建物の上へと上がると、そのまま北東の方向を見る。



「……多分、見つけた。あっちに一つだけ教会みたいなのがある」



《スカイグライド》を使いつつ壁をよじ登り、御兎姫と同じ方向を見ると、たしかに北東方向に一つだけ教会が存在していた。

 ヴァイスの時もひとつだけ不自然に大きかった木のもとにオブジェクトがあったので、あそこにある可能性は高いだろう。


 グレイへの対策を考えつつ、俺は軽々と屋根の上を跳び進む御兎姫の後を追って教会へと進んだのだった。

 

色々考えましたけど見所があまりなかったのでノワール戦はカットで……

四章はあと二戦+αです

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