Part72 そして次なる戦いへ
俺が塔にリスポーンして数十秒後、ウルフさんが俺の側に現れた。
どうやら、虚脱状態になるとほとんど動けなくなるらしく、そうなる前に自分からリスポーンしたらしい。
「何はともあれ、ヴァイス撃破だ!!」
「いえーい!!」
俺たちは勢いよくハイタッチを交わした。
今までで最も長い戦いだったが、喉元過ぎれば熱さを忘れるということわざもあるし、実際終わってみると全然大したことは…………あったな。出来ればもう二度と戦いたくない。
そういえば、キルカはいつのまにか《休眠》という状態になっていた。
プレイヤーがログアウト状態の時にペットが自動的になる可能性のある状態らしいが、俺がログインしている状態でも休眠になっているのは、まあ恐らく長い間放っていたからだろう。
ここから出たらまた一緒に戦ってやらないとな。
そんなことを考えつつ、ハイタッチで削れたHPをポーションで回復していると、丁度GOODと八百万が帰ってきた。
二人は俺たちよりも早く倒したようで、次に向かうことになるであろうアンカーの下調べをしていたらしい。
ちなみに、ミーティアと御兎姫はまだ戦っているようだ。
一度様子を見に行ったGOODが言うには、ヤバすぎて笑うしかないレベルだったとか。
アンカーの中でも多少強さのバラつきはあるのだろう。
白虎は確実に強い方……だと良いなあ。
さて、それぞれのアンカーに関する簡単な報告の後、次のアンカーを倒すための作戦会議が始まった。
「では、次に向かうアンカーについて決めましょうか。尤も、この四人で二つのグループに分かれるとすると、自ずと『蝙蝠』『蟻』の二つが対象になりますけどね」
「俺はGOODとだっけ」
「ああ、そうだな。蟻の方は八百万とウルフだ」
「ウルフ『さん』ね!」
「あ。そういえば、もしかしたら助っ人が来るかもしれないぞ」
ウルフさんの指摘をスルーし、GOODは話を続けた。
「助っ人? ここに来れるの?」
「どうだろうな。この空間への入り口が開く条件が『時間』と『場所』だけなら来れるはずだぞ。その情報だけ送ったからな」
なるほど。まあ確かにそれ以外に条件と言われても人数くらいしか思いつかないか。
「ちなみに、誰が来るんですか?」
「まだ分からない。うちのクラマスに暇そうな奴を寄越してくれって頼んだだけだからな。まあ、来そうな三人はそれぞれ此処にいるメンバーとは役割が違うし、クラマスが来たらそれはそれで助かるから、どう転んでもメリットになるだろうな」
「なるほど……えっと、Aliceさんが来る可能性も?」
「それはない。多分」
GOODが断言した。
まあ、Aliceは戦うのが嫌いらしいので来ることはないだろう。というかモンスターと戦っているところを見たことがない。街中の大きな建物が切り刻まれて倒壊しているのとかはたまに目にするので、人相手には今もよく戦っているのだろうが。
「えっ、来ないの?」
「ん? ウルフさんは知り合いなのか?」
「うん! たまに偶然会うから一緒に街回ったりもするよ!」
「私は嫌われているようで、近づくだけでも攻撃されてしまうんですけどね……」
「そうなのか」
相変わらずAliceが人を攻撃する基準がよくわからない。
天真爛漫なウルフさんが警戒されないのはともかく、物腰柔らかな八百万が警戒されるのは何故なんだろうか。
実は本性が黒いとか? いや、それで警戒するのなら幻水とかココロアとか一瞬で粉微塵にされてるはずだ。
まあ、彼女に関しては超さんもほとんど知らないらしいし、俺がいくら推察したところで答えにはたどり着かないだろう。
————
目的の蝙蝠は谷底の洞窟に生息しているらしい。
というわけで、俺とGOODは二人でその洞窟へと挑んでいた。
内部は洞窟なのに先がある程度見えるほどには明るく、思ったよりも見通しが効く。というのも、この洞窟内には「光霊」という名のモンスターが生息しているのである。
その名の通り光を放つ霊であるこいつらは、ダメージこそ小さいものの普通に攻撃してくるので、先を照らしてくれるとはいえ倒して進むのが楽だ。
幸いHPは少ないらしく、適当な攻撃を当てると光霊はそれだけで消滅する。
「にしても、まさかお前と肩を並べて戦う日がこんなに早く来るとはな……」
GOODがしみじみと言う。
俺がこのゲームを始めたのが夏休みに入ってすぐだったので、現実時間で大体一ヶ月くらいか。
そう考えると、我ながら凄い成長ペースだ。
尤もこれは確実にミーティアのゲテモノとゲートキーパーの特異性が噛み合った結果だし、そもそもこのヴォックソ自体歴史の浅いゲームだ。
それに、夏休みはミューブレやってた時以外ほぼ毎日一日中ヴォックソをプレイしていたので、一般的なプレイヤーのプレイ時間はもう超えている可能性すらある。
MMOにおいて、「時間」はプレイヤーの強さを決定付ける貴重なリソースだと何処かで聞いたことがあるし、だからこそボトラーが生まれるんだろう。
でもどうせ一度ログアウトする必要があるんだし普通にトイレ行きゃいいのに。
「まあ、色々と運が良かったからな」
このゲームを始めてから、いわゆるユニークと言うやつに何度も出会った。
当然今やってるこのクエストもそうだし、冥き門とかキルカとか、何かと俺は恵まれている。
……運命力がマイナスなのに。
考えてみれば、少し不自然だ。
謎のタレントスキル【新月】のせいで、今の俺の運命力は-1500。その運の無さから何が起きたっておかしくはない。
それなのに、あまり実害を被った記憶がないのだ。
最後の調整に運命力のステータスを参照する工程が入るため、生産職に就くことはできない。
確かにそれは実害ではあるが、それはあくまでもステータスを参照した結果起こることであって、このステータスそのものが表す俺の運の無さとは異なっているように感じる。
一つのステータスは、表示されない様々な要素が合計された結果の値だ。例えば物理攻撃力の値が1000だったとして、その内訳は人によって様々。
運命力の内部の項目として存在されてると言われているのは『ドロップ率の増加』や『クリティカルの出やすさ』など。噂程度ではあるが『ユニークとの出会いやすさ』にも関係していると言う説まである。
しかし、ドロップ率は極端に悪いわけでもなく、禍患という状態異常で運命力がマイナスになった時に発生したバッドクリティカルもあれ以来一度も見ていない。
だとすると……俺の運命力は何が下がっているんだ?
というかそもそもタレントスキルって何なんだ。俺にしかない能力には憧れることもあったが、だからと言って現状デメリットしか思いつかないようなものを渡されても困る。
……とまあ、疑問は尽きないのだが、今俺が第一に考えるべきは次なるアンカー、ノワールだ。
俺が選ばれた理由は単純。相手が闇属性であるというただ一点である。
クラウソラスを手に入れ、更に光の戦士としてその力を増した俺は、闇属性を相手にする場合火力面でも大きく貢献する事が出来るのだ。
洞窟に入ってからおよそ五分。
道中大した分岐もなく、俺たちは最奥部にまでたどり着いた。
洞窟としてはまあまあ広い大部屋の中には、ここに来るまでに見たものよりも一際強い光を放つ大きな光霊が数体漂っている。
「ノワールは……いない?」
「いや、すぐに出て来るらしいぞ」
GOODの言葉通り、すぐに背後からバサバサと無数の羽音が聞こえてきた。
群体系か。
そう思って慌てて振り向いてみると、何故かそこには何もおらず、ただ羽音だけが響いていた。
しかし、ふと横を見ると、光霊の放つ光が当たる壁に無数の蝙蝠の影が飛んでいたのが見て取れる。
「影か……」
俺たちが倒した白虎は霧の化身のような存在だった。それに対し、この蝙蝠は影に潜む存在らしい。
やはり、アンカーはそれぞれギミックのようなものがあるようだ。それを解き明かしてようやくスタートラインに立ったと言えるのだろう。
「準備はいいか?」
「ああ、いつでも行ける!」
俺たちは大部屋の中で一度視線を交わし、武器を構えて戦闘に身を投じたのだった。
ノワール戦は……カットかなあ




