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Part68 経験という名の屍を



「ダメだー!」


「キツ過ぎる……」



 俺とウルフさんは、ともに塔の内部で目を覚ま(リスポーン)した。

 今回は今までになかった近接攻撃によってウルフさんが吹き飛ばされ、それに気を取られている間に俺が葬られてしまった形だ。

 ここに来て新しい行動が出て来たということは、一応今の戦い方が間違っていないということを表しているように思える。

 とは言え、精神的にキツいことには変わりないのだが。


 白虎(ヴァイス)が繰り出す霧の攻撃を止めるには、足を攻撃すればいい。

 実際、四本の足のうち一本を破壊することには成功したし、予測通りその部分からの霧の噴出は止まった。

 しかし、そこから先に続かないのだ。

 一本壊せば多少は攻撃が弱くなるはずだと思っていたのだが、現実はそんなに甘くなく、むしろ認識範囲外からの攻撃の頻度は増すばかり。

 今回の挑戦では二つ目を破壊することに成功したが、それもギリギリといった感じである。


 そんなわけで、既にリスポーン回数は十を超えていた。

 理由は明白だ。単純に俺が白虎の攻撃についていけてないのである。

 近接攻撃はどうとでもなる。範囲こそ広いが、予測は容易い。

 やはり問題は認識範囲外からの魔法攻撃だ。

 一応近くで戦えば魔法攻撃は使ってこなくなるのだが、その代わりに繰り出して来る近接攻撃はかなり広範囲を巻き込む。

 ウルフさんに攻撃を継続してもらうためには、俺が遠距離攻撃を捌ききる必要があるのだ。



「どうしたらいいんだろうな……ウルフさんはどうやって察知してるんだ?」


「なんか、感覚!」


「感覚……」



 一応聞いてみたが、当てになりそうにはない。

 若干天然の入っている少女だが、その正体はミーティアに並び立つヴォックソのトッププレイヤーだとGOODに聞いた。その程度のことは容易くこなしてしまうのだろう。


 何か解決の糸口はないかと過去の事例を思い起こす。

 一応、認識範囲外からの魔法攻撃を繰り出してくるモンスターとは過去に戦った事がある。

 冥き門の試練で戦った、腕の奴だ。名前はディストーション・アームズだったか。

 後はまあ、ゲートキーパーそのものも結構そういう攻撃を使っていたはずだ。

 現時点で白虎の攻撃に多少ではあるが対応できているのは、あの試練があったからだろう。

 とは言え、あの時はとにかく死にまくって慣れたわけで……



「……今回も慣れるしかないか」



 結局は、そういう事なのだ。

 俺の戦い方は昔から同じ。

 死んで覚える。それだけだ。



「ウルフさん、少し俺ソロで戦ってもいいか? 攻撃パターンを覚えたいんだ」


「うん、オッケーだよ!」



 脚部を二つ破壊した時点で新しい攻撃パターンが追加されたが、魔法による遠距離攻撃に関しては若干スピードが上がっただけでそこまで大きく変わっていたわけではない。あの攻撃に慣れる為だけであれば、ソロでも問題はないだろう。


 

 既に場所を暗記してしまった白虎の居場所まで向かおうと腰を上げると、不意にチャットの受信を知らせる通知音が鳴った。

 八百万から、グループに一斉送信だ。



 『何やら石のオブジェクトを発見しました。簡易的なワープポイントのようで、どうやら塔からオブジェクトまでワープできるようです。恐らくエリア毎にあるでしょうし、効率を考えると先に探しておくといいと思います』



 添付された画像を見ると、荒野の真ん中に若干風化したオブジェクトが鎮座していた。

 石像のようなそのオブジェクトは微妙に青く発光している。見れば一目でわかりそうだ。



「ワープポイントか……確かに便利だな」



 死ぬ度に塔から白虎の所まで向かうのが地味に面倒だったので、これはありがたい。

 まあそれっぽいものをまだ見つけていないので探す手間はあるけど、今後もどうせ死にまくるだろうし早めにやっておいたほうがいいだろう。



「じゃあ、これは私が探しておくよー!」


「そうか、ありがとう」


「うん! そっちも頑張ってね!」



 ウルフさんに感謝しつつ、俺は単独で白虎のもとへと向かったのだった。



————



「はッ……はッ……しんどいな」



 スタミナの回復が追いつかず、呼吸が荒くなる。

 額に流れる汗を拭い、俺は一息にスタミナ回復のポーションを呷って《スカイグライド》を発動した。


 俺がソロで戦い始めてから、およそ三時間。

 累計死亡回数は三十回くらいだろうか。

 最初に比べると幾分か長く保つようにはなったが、それでも完全に相手の攻撃を御したとは言い難い。


 とは言え、成果はあった。

 白虎を取り囲む霧の中で、相手が霞んで認識できるような距離を保って円を描くように走り続けると、相手の魔法攻撃が八割型前方に生じるようになるということがわかったのである。

 二割程の確率で別方向から来るとは言え、攻撃のペースも大体は把握したので、普通に真正面から立ち向かうよりも数倍は回避が容易になる。脚部の破壊によって攻撃頻度が上がったとしても対応できるだろう。


 この方法の難点はスタミナをかなり消費するという事だが、これについては敵に接近して近接攻撃を誘発させ、その隙にポーションを飲む事でどうにか対応することには成功した。

 このタイミングはウルフさんと共有しておく必要があるだろう。



「よし……っと、ここか!」



 タイミングを合わせて微妙につま先を上げ、低い位置に生じた斬撃の魔法を回避する。

 スカイグライドで高い位置まで飛んだら二方向から攻撃が飛んでくるようになったのでそれほど高くは上がれないが、結局は最小限の動きで避けなければそれ以降の攻撃がどうにもならなくなるので、特段気にするようなことでもない。


 そうして回避すること二十分。

 今までで最長の生存時間だ。

 認識外から飛んでくる二割の攻撃にもあらかた対応できるようになってきたし、とりあえずは及第点——ん?



「何か小さくなって……あっ」



 俺の気が逸れた一瞬の隙を、白虎の鋭い爪が霹靂の如く貫く。

 胸部に刻まれた裂傷は浅いが、俺にとっては致命のものだ。

 そのまま俺は力を失って地に倒れふす。

 白虎対策は完璧ではないが、まあ、一先ずはこれでいいか。

 三時間前に比べて格段に強くなったという自信を抱きつつ、俺は塔へと転送されていったのだった。


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