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Part67 霧纏う『白』の虎



 翌日、ヴォックソ内で合流した俺たちは、八百万とGOODによって編成されたチームでアンカーの討伐へ向かうことになった。


 俺が相手をするのは、主に単体攻撃を繰り出してくるアンカーだ。

 群体で行動する蟹や範囲攻撃の多いクリスタルなどは除外され、現段階では白虎(ヴァイス)ゴーレム(グレイ)蝙蝠(ノワール)の三体を相手取ることになっている。

 見事に白、灰色、黒という感じになったが、あくまでも試作パーティーだ。相手の行動が明らかになるに従って変化する可能性も十分考えられる。


 とりあえずは、俺とウルフさんで白虎、ミーティアと御兎姫で巨大ワーム(ヴェルデ)、GOODと八百万で群体蟹(アズール)、という風に分かれて挑むことになった。

 ちなみにキルカは塔で留守番ということになっている。色々と面倒なことになりかねないからな。



 というわけで、俺は今ウルフさんとともに枯れ森を歩いている。

 荒れ果てた大地に根を張る大きな木々は、しかし既に生気を失っており、萎びた枝には葉の一つも付いてはいない。

 不思議な場所だ。



「なあ、一応聞いておくけど作戦とかってあるのか?」


「うーん、戦ってから考えればいいんじゃないかな! 私は攻撃しかできないし!」


「だよなぁ。俺が回避してウルフさんが攻撃して……作戦って感じでもないけどこれしかないか」



 作戦会議っぽいことをしながら得も言われぬ寂寥感漂うフィールドを歩いていると、不意にウルフさんが足を止めた。

 俺の進路を遮るように手を伸ばし、きょろきょろと辺りを警戒している。


 何かいたのか、と小声で尋ねると、彼女は遠くの方に目をやりながらコクリと頷いた。

 その方向を見ても、俺の目には何も映らない。

 狂戦士(ベルセルク)という職業にはそういう敵探知スキルみたいなものがあるのだろうか。

 実際、狩人系の職業には痕跡などから大体の敵の位置を割り出すスキルもあるようだし、狂戦士ともなれば気配から察知することも可能なのかもしれない。



「付いてきて」


「ああ」



 変化はすぐに訪れた。

 長い距離を歩いたわけではないが、歩みを進めるごとに辺りの景色がだんだんと朧げになっていく。

 視界は白く、見通しは悪い。つまりは、霧だ。

 足元が見えないわけではなく、行動に支障が出るわけでもないが、それでもこの空間の異様さを表すには十分だった。

 そして——



「……来るよっ」



 そのような深い霧の中から、それは現れた。

 踏み出された足は物音一つ立てず、霧のように白い毛は逆立ち、その佇まいからは神聖さにも似た異様な雰囲気が伝わって来る。



「話には聞いてたけど……実際見るとヤバイな」


 白く流れるような毛並みのその虎は、世間一般的な虎の体長から大きくかけ離れていた。


 足先から頭頂部まで、およそ五、六メートルはあるだろうか。

 当然四足歩行なのだから、体感としては更に大きく見える。

 それぞれの足からは目に見えて濃い霧が放たれ続け、辺りを覆う霧の源流がこの白虎であることを表していた。



刻錨虎(アンカー) ヴァイス]



 白の名を冠するその虎は一つ高く吼えると、身体を深く構えて戦闘体勢をとった。



「盾役よろしくね!」


「おう!」



 戦闘開始だ。

 早速飛びかかってきた白虎をバックステップで避け、《スカイグライド》を地面ギリギリで発動して続く追撃を懐に潜り込むように回避する。

 すれ違い様に腹部へと一撃を入れ、離脱。

 ここで一度武器を楽器へと変化させ、挑発律によってヘイトを俺に向けさせる。


 ……なんか動きがヴォックソに最適化されてきた気がするな。これも日々の研鑽の賜物か。



「いくよー! 《狂化》!!」



 俺の行動を確認してから、ウルフさんが高らかにスキルを宣言した。

 一応、彼女の戦闘スタイルについては事前に聞いている。

 彼女が今使った《狂化》がまさにそうなのだが、狂戦士という職業は基本的に自分を狂化状態にするスキルを使用してから圧倒的破壊力を持つ通常攻撃で相手を打倒するという脳筋物理アタッカーらしい。

 狂化状態になると物理攻撃など様々なパラメーターが大幅に上昇するのだが、代償として攻撃系アクティブスキルが一切使えなくなるのだとか。

 更に狂化状態から一定時間が経つと使えるようになる《狂暴化》というスキルも存在するらしいが……まあ今はいい。


 とにかく、俺の役割はウルフさんが攻撃に専念できるように白虎のヘイトを受け持ち続けることだ。

 ウルフさんの火力がめちゃくちゃ高く、挑発律だけでは恐らく不十分だろうから、回避をメインに、しかし攻撃もある程度は継続する必要がある。

 難しいオーダーだが、格上相手なのだからそのくらいやってやれなくてはどうしようもない。



「よし、やるか……」



 多腕機神の刃影(ヘカトンケイル)を爪へ変化させ、《兵貴神速》を発動して加速。

 右上から振り下ろすような攻撃を跳んで回避し、そのまま腕の上に着地する。

 当然振り払われるわけだが、空中で《スカイグライド》を使って体制を整え、そのまま一度距離を取る。



「近寄りにくいねー……」



 いつのまにかすぐ隣にいたウルフさんが、相手の懐に飛び込む隙を窺っていた。

 やはり、現状のままでは厳しいか。ウルフさんが攻撃しやすいように意識して避ける必要があるな。


 そう思った途端、ピタリと白虎の動きが止まった。



「危ないっ!」



 まさに、一瞬の出来事だった。

 何かを察知したウルフさんは、一言叫んでから勢いよく俺の足を払って地に伏せた。

 当然、俺も勢いよく地面に伏せた……というか顔から倒れ込んだ。


 そして——その瞬間、凄まじい圧が頭上を通過していくのを感じた。



「っ!?」



 ウルフさんの足払いで俺のHPが二割強減っているのはともかく、先ほどの攻撃の正体を探る。


 白虎はその場から動いていない。

 予備動作も、強いて言うなら一度動きを止めたのがそれなのだろうが、爪を振るうなど目立った動作はしていない。というかそもそも先ほどの謎の攻撃は虎の方ではなく——俺の左側から飛んできていたように感じた。


 ……となると、魔法の可能性が高いか。

 物理防御力に比べると魔法防御力は幾分か高いものの、攻撃を耐えられる回数が増えるほどじゃない。当たり判定がわかりづらい分、物理攻撃よりも厄介と言える。

 勿論、今の攻撃はそもそも見えていなかったのだが……。



「次、来るよ!」



 焦ったようなウルフさんの声に、ハッと顔を上げる。

 白虎は静かに唸り声を上げていた。何か仕掛けて来る様子はないが、先ほどと同じ攻撃がここでも繰り出されると予想できる。


 

「今度は後ろ!」



 気配でも察知しているのか、いち早くウルフさんが叫んだ。

 後ろか。それなら今度はただ避けるのではなく、身体にひねりを加えて背後を振り返りながら倒れこむことにする。


 何となくでタイミングを合わせ、上体を逸らすような回避行動をとる。 

 同時に、白く淡い刃のような物が、俺の鼻先をかすめて後ろへと飛んで行った。

 そのまま刃は消滅し、後には何も残らない。

 周囲の霧と同化しているせいかよく見えなかったが、刃は最後に煙のようになって消滅していたような……いや、煙じゃなくて霧になっていたのか?


 俺はそのまま、二度目、三度目の攻撃を避ける。

 そうして、ようやく理解した。



「——あっ、霧か」



 攻撃の開始時、一瞬霧の濃さが変動していた。

 ある一定の空間は薄く、しかしその中央だけは濃い。

 恐らくは、霧を一時的に固形化させているのだろう。

 辺りを覆う霧が白虎の足先から流れ出ているものだとするならば、それを操ることも可能というわけか。


 それの推測が合っているかどうかはさておき、今するべき事が決まった。



「ウルフさん、足を狙って攻撃してくれ!」


「え? よく分からないけど、分かったよ!」



 これ見よがしに霧を排出しているのだ。

 恐らくは破壊可能部位であり、壊せれば霧も止まるだろう。


 一度目の挑戦から掴んだ勝利への糸口を手に、俺達は白虎へと立ち向かっていくのだった。

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