Part66 八色
「あああぁぁぁ……」
リスポーン地点として設定された塔内部に転送された後、俺は頭を抱えてうずくまっていた。
あれはない。あの死に方はないわ。
謙虚堅実な神回避がモットーの俺にとって、あんなクソダサい死に方は精神的にくるものがあった。
調子乗った結果建物の倒壊で死ぬとか、自分の生み出したクリーチャーに殺されるマッドサイエンティストみたいなものだ。
……そう考えると悪くないかもしれない。いやそんなことないか。普通に嫌だわ。
「あっ、ご主人! ……なんでうずくまってるんだ?」
「キルカか。癖みたいなものだから気にしないでいいぞ」
「癖……」
怪訝な表情をしないでくれ。
それはともかく、キルカが無事に帰ってこれたようで良かった。少なくとも時間稼ぎとしての役割は全うできたわけだからな。
その後他のメンバーも次々に塔に帰還し、少しの休憩の後、それぞれが集めた情報を共有することになった。
「では、北組から聞いていきましょうか」
「ああ。まず、奇岩地帯のアンカーは発見できなかった。ただ、多分アンカーはアリだし、怪しい巣穴も発見できた」
そう言いながら、先ほど撮ったアリや巣穴の写真と大雑把な地図を八百万に見せる。
「なるほど、アリのアンカーですか……群体系の可能性が高いですね……それに巣穴……私が行くべきか……」
そんな風にブツブツと呟きながら、彼は手元の用紙にメモを取って行く。
考えが声に出るタイプらしい。
「で、次に奇岩地帯の先、ヴェルメリオが旧市街って言ったエリアだけど、そこのアンカーはグレイって名前のゴーレムだった。これが写真」
「へえ……ゴーレムっていうかロボット?」
「それは俺も思ったけど、正直ロボットっぽくもないからな。それならゴーレムの方がファンタジーっぽいし」
「ふむ……ありがとうございます。実際に戦いましたか?」
「ああ、一応。頭部のユニットが弱点ってこと以外は特にわからなかったけど」
「なるほど、それで十分です」
その後も情報交換は続けられ、數十分ほどで一通りの情報が出揃った。
旧市街にゴーレム。
平地に群体蟹。
砂漠に巨大ワーム。
枯れた森に白虎。
谷に蝙蝠。
山岳に大鷹。
古戦場にクリスタル。
そして恐らく、奇岩地帯に蟻。
俺たちはこれから、この八体と戦って行かなくてはならない。
それも、低人数でだ。
起きてきたヴェルメリオに人数に関して詳しく聞いてみると、どうやら二人までは変化がなく、それ以降は指数関数的に強くなって行くらしい。
つまり基本は二人で、役割が足りない場合などに限って三人で行くというのが良さそうだ。
「さて、長時間ログインしてしまいましたし、ここで一度ログアウトしましょうか。作戦を練るのはゲーム外でもできますからね」
確かに、よく考えたらかなり長い時間ログインしていた。
ゲーマーたるもの、快適なゲームプレイのためにも健康を疎かにしてはいけない。
俺たちはチャットルームを作ってから、それぞれログアウトしていったのだった。
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ヘッドギアを外し、大きく伸びをする。
何だかとんでもないことに巻き込まれてしまったような気がするが、楽しいからまあ良いか。
冷蔵庫の具材を適当に選んで中華鍋にぶち込んでチャーハンを作っていると、不意に端末から通知音が聞こえてきた。
チャーハンを皿によそってから左手首の端末を確認すると、早速あのチャットルームから通知が来ているようだった。
どうやら、アンカーに挑むメンバーは八百万とGOODの二人で行うらしい。八百万はそういうの得意そうだし、GOODはアルゴノーツのメンバーの得意不得意を知っているだろうし、それぞれ適任だろう。
それから、長丁場になる可能性が高いからログインできる時間を教えてほしいとも書いてあった。
スケジュール帳を開いて確認するが、そこまで用事があるわけでもない。
……っていうか、今って九月の始めだったか。
なんか現実とゲーム内で時間の進みに差があるせいで少し曖昧になるな。
一応九月の終わり頃に大きなゲームイベントに出演することになっているが、流石にそこまでもつれ込むことはないだろうし、特に問題はない。
それまでに数回ある打ち合わせは被ってしまうが、そこだけ考慮して貰えば良いだろう。
という感じで、用事のある日時やログイン時間をチャットルームに流す。
一番近い打ち合わせは三日後なので、それまでに一体くらいは倒してしまいたいところだ。
「……そういえばあのイベント、ヴィルベルヴィンドも出るんだっけ」
確かそんな話を聞いたような気がする。
だとすると、御兎姫とリアルで会うことになる可能性もあるな。
トリバードとは家が近く、同じジムに通っているので何度も会っているが、ヴィルベルヴィンドそのものと共演したことはないので、御兎姫に会ったことは一度もない。
少し緊張するが、まあお互いネットで検索したら顔が出てくるような立場だろうし気にするほどでもないか。
「それよりも、今はアンカーだな」
当然、負けっぱなしでは終われない。
これから始まる本格的な戦いに備え、俺は反射神経トレーニング用のゲームを始めたのだった。




