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Part6 更に闘う俺



 ログインすると、リスポーン地点にヤバい装備の奴がいた。

 まあ前もってグッドを呼んでおいただけなのだが、最初の町なだけあって初心者だらけなこの街で、廃人は装備的にもオーラ的にも浮いているのであった。



「よう、グッド。何回も呼び出して悪いな」


「気にすんな。もともと俺が誘ったんだ、し……?」



 振り向いてすぐに固まるグッド。

 そういえば、今の服装は角材持ちの半裸虚無僧のままだった。



「……人違いか」


「いや俺だよ、ナツレンだよ。PKに遭って装備持ってかれたんだ」


「ああ、そういうことか。このゲームめっちゃPK多いから気をつけな」


「マジか……」


「まあ撃退できるようになればパラメーターの成長的にも旨いからな。早く俺と同じステージまで来い」



 そのステージは人間性の喪失とイコールで結ばれているような気がする。



「ところで、聞きたいことって何だ?」


「ああ、なんか変な状態異常にかかってな」



 グッドが俺のステータスを表示した。

 他人のステータスでも、割と詳細に見れるようだ。



「うっわ、めっちゃステータス上がってる……って何だこれ、運命力マイナス!?」


「ヤバいのか、これ」


「他のパラメーターに比べて自力で上げる方法がほぼないとはいえ、流石にマイナスになった奴は知らないな……それにこの【禍患】って状態異常も知らない。どこで食らったんだ?」


「カースゴブリンと戦って、最後に食らった。wikiにはその行動については書いてなかったけどな」


「ええ……戦ったのか……その装備で」



 ヤバいものを見るような目で俺を見ないでほしい。

 ただでさえ現在進行形で他のプレイヤーに同じような目で見られているというのに。



「まあいいや。そうだな……検証したいからちょっと手伝ってくれないか?」



————



 時刻は変わって夕方。

 俺たちは、昨日俺がカースゴブリンと戦った辺りまでやって来ていた。



「来たはいいけど、そんな簡単に会えるのか?」


「カースゴブリンは確実に毎日1体はスポーンするんだ。町の中央から一定距離離れた一帯にしか出ないっていう条件もあるから、この距離のままぐるっと町を一周すれば基本は出会えるはず」


「なるほど。先に倒されないことを祈るか」



 こういう時、廃人の知識量はあまりにも頼りになる。

 町の周囲をぐるっと一周するように進むと、丁度半分ほど進んだあたりで件のゴブリンを発見できた。

 辺りにプレイヤーもいるが、どうやらカースゴブリンには気づいていないらしい。



「よし、早速例の行動を探るぞ。どんな状況だった?」


「倒したと思ったら生きてて自爆……って感じ」


「なるほどなあ。最後の一撃って感じか……難しいぞ、これ。雑にやるとオーバーキルだ」



 確かに、今のグッドが持つ装備はその一つ一つがゴブリンなど軽く蜂の巣に出来そうなほどゴツく、機械的だ。

 かといって、俺は逆に装備が弱すぎて時間がかかってしまう。



「とりあえず、俺が一番弱い技で蛇が出るところまで削るから、そこからは頼むわ」


「了解」



 昨日の半分程度を削るくらいなら余裕だろう。

 武器を買うのを忘れていたので、今回も角材のお世話になることにした。



「よし、行くぞ」



 合図とともに、グッドは拳銃を取り出して弾丸を数発撃ち込んだ。

 カースゴブリンはよろめき、杖が赤く光りだす。



「……今ので半分以上削ったのかよ」


「レアとはいえ序盤の敵だからな」



 恐るべし、廃人。



「ここからは俺の出番か」



 インベントリから新品の角材を取り出し、構える。

 せっかくなので、今回はスキルも意識しながら戦ってみよう。

 《構え》と《流風》は前から意識はしているが、カースゴブリン戦で追加された《一閃》と《鎧貫》はまだちゃんと使ったことがない。

 《一閃》の方のパーセント……おそらく熟練度なのだが、これが少し上がっていたのは、知らないうちに使っていたということだろう。



 先程説明を読んだのだが、アクティブスキルを発動するためには、決められた動作をする必要があるようだ。

 例えば《一閃》を使う場合は横方向への大きな振りを、《鎧貫》を使う場合は突きを行うことで、対応するスキルが発動するのだという。


 また、これもさっき読んだことなのだが、上級者になる程『予備思考』というものが大きく関わって来るらしい。

 スキル発動のために決められた動作をする、というのはゲーム上の説明であり、実際にはその前の段階——すなわち、思考の状態で既に発動するスキルを決めることができるらしい。


 それが出来ると出来ないとではかなり変わって来るらしく、上級者になる為の一番の壁だと言われている。

 もちろん習得も容易ではなく、四肢を動かすのと同じレベルで無意識的に思考出来なければならないようだが。


 まあ、まだまだ初心者の俺は普通にスキルを使って行くつもりだ。



「よし……行くぞ!」



 全力で駆けだし、カースゴブリンに鋭い一撃を叩き込む。上からの振り下ろしだったため、《一閃》は発動しなかった。おそらく別スキルがあるのだろう。

 地面から突き出す根を前へのステップで回避し、大きく刀……じゃない、角材を横方向に振り抜く。

 瞬間、その軌跡に沿って派手なエフェクトが奔った。



「これがスキルか!」



 なんというか、エフェクトが入った瞬間急に爽快感が増したように感じられた。

 あらゆる虚構が現実的になるVR世界において、ある意味ではもっとも現実的でないものだからかも知れない。


 氷柱を躱しながらもう一度《一閃》を繰り出し、小さい攻撃を叩き込む。

 もう一撃。

 そう言って放った《一閃》は、ゴブリンを切った手応えと共に、謎の『嫌な感覚』を俺に与えた。



「何だ今の!?」



 予想外の感覚に驚く俺に対し、カースゴブリンは容赦なく氷柱を放った。一瞬回避が遅れた俺は、その一撃をくらい大きく吹き飛ばされてしまう。

 死んでこそいないが、大きくダメージを負ったために身体が動かない。



 俺の目前に迫り来る炎のうねりに、もうダメかと思ったその時……砕けるような音ともに俺の傷が癒えた。

 魔法を全力で回避しながら振り返ると、どうやらグッドが俺に回復アイテムを投げたらしい。



「大丈夫か? 急に鈍ったぞ」


「斬った時になんか変な感覚があったんだ」


「変な感覚、か。調べたいことだらけだが、今は集中しておけ」


 「言われなくとも!」



 様々な魔法を避けながら肉薄し、今度は《鎧貫》を放つ。鋭く放たれた角材が、白いエフェクトと共にカースゴブリンを突く。

 今度はあの妙な感覚は来なかった。


 このように様々な方法を試しつつ、その度に確率でくる『嫌な感覚』に耐えながらも、連続して角材を叩き込む。


 10分ほど経ってようやくカースゴブリンは動きを止め、そして力なく倒れた。



「やっぱ消滅しないな」


「なるほど……一種の死んだ振りか。カースゴブリンはHPの多い敵じゃないから、今まで気づかれなかったんだろうな」


「どうする? 食らってみるか?」


「……解呪条件のわからない弱体を進んで受ける気にはならないな」


「だろうな」



 仕方なく、俺が食らうことにした。

 一部例外を除いて、同じ弱体効果は重複しないらしいので、食らっても特に問題はないからだ。

 それに、そもそも分かっている攻撃を食らうつもりはない。


 倒れたカースゴブリンに近づくと、予想通りにその目は俺をじっと見据えていた。

 緑色の身体が光を放つ瞬間、俺は大きく背後に跳ぶ。

 直後に起きる煙の爆発は、紫色の、いかにも呪いのような毒々しい色をしていた。


 おそらく回避成功だ。ダメージはそもそもないので分かりにくいが、煙には触れていないはず。

 最後まで初見殺しに徹する敵であった。



「と、こんな感じ」


「ナイスだ、ナツレン!お陰で良いデータを取れた」


「急にテンション上がったな」


「新しい情報に出会えるほど良いことはないからな」



 こういう奴だったか? こいつ。

 友達になってから一年以上経つが、まだ俺はGOOD(神原)のことをまだあまり把握できていない。

 なんとも不思議な奴だ。



「あ、そうだ。ナツレンが感じた『妙な感覚』。予想だが、あれはバッドクリティカルだと思うぞ」


「バッドクリティカル?」


「或いは逆会心とか言われてるが、まあ名前のままだな。クリティカルと真逆なこと——つまりはダメージが下がるとか、武器の耐久力が大きく減るとか」


「そういうのがあるんだな」


「まあ、本来は状態異常か余程の能力差がある時にしか発動しないんだが……多分運命力がマイナスになったせいだな」



 運命力がマイナスになるというのは予想以上に面倒なことのようだ。この感じだと、エンカウント率やドロップ率などにも影響がありそうに思える。



「解除する方法とかないのか?」


「聖職者系ジョブに頼むしかないな、これは。呪術系でも行けそうだけど、どちらにせよ上級職じゃないとダメだと思うぞ」


「マジか……」


「一応アテはあるんだが……うまく捕まえられたら頼んでみるわ」



 めちゃくちゃ有り難い申し出に、まさに感謝の言葉もないといった感じだ。


 

「だからまあ、それまでは我慢するしかないわけだ」


「ああ、こういうのもゲームの楽しみだからな」


「クソゲーも楽しむ男だもんな、お前は」


「無理やり楽しまないとやってられねえんだよクソゲーは」



 本当に、楽しもうと思わないでも楽しめる《VOX-0》は神ゲーだ。プレイするほどにそう思える。

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