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Part64 フィールドワーク



 一先ずそれぞれの地形の情報を集めようということで、俺たちは四つのグループに分かれて調査を始めた。

 俺とキルカが北、GOODと御兎姫が西、八百万とウルフさんが南、ミーティアが単独で東だ。


 アンカーに関しては一先ず保留となっている。そもそも見つけられない可能性もあるし、仮に見つけられたとして初見では確実に負けるだろう。

 触らぬ神に祟りなし。下手に刺激して取り返しのつかないことになっても面倒だからな。



「おーいご主人っ、ここまで登れたぞっ」


「岩の内部が空洞になってんだな……。なんか見えるかー?」


「うーん、どこも同じ感じだぞー」



 岩の上からキルカが身を乗り出して辺りを見渡すが、特に成果は得られなかったらしい。


 ヴェルメリオが『奇岩地帯』と呼称したこの辺り一帯には、尖塔のように突き出す数々の巨大な岩が並んでそびえ立っていた。

 それぞれ削り取られたかのようにいくつもの穴が空いており、中には塔のように上まで螺旋状の穴で繋がっているものもある。

 人為的ないし何らかの生物の活動によって形作られたのだろう。

 もっとも、この辺りに出てくるモンスターの特徴からどうやって作られたのかはなんとなく推測できるのだが。



「ここもポイントとしてメモしておくか」



 外界から隔絶されたこの場所——原初不夜空間にはマップが存在しない。

 八百万のおかげで紙とペンには事欠かないが、それでも地図は自分で描く必要がある。

 地図を書くなんて経験、普通ならたとえゲーム内であってもほとんどすることはないだろう。

 だからこそこの作業はかなり難しい、はずなのだが……



「こんな所で昔の知識が役立つとはな……」



 俺は過去に『Vessel of Yggdrasil』という名のクソゲーで、ノイローゼ一歩手前まで地図を書き続けたことがある。


 地図を自分で描くことの楽しさをセールスポイントとして売り出されたこのゲームは、発売直後にクソゲースレに殴り込みをかけた。

 その年のクソゲースレは荒れに荒れ、年間大賞の候補となったのは過去最多の九作品。

 当然『Vessel of Yggdrasil』もその内の一つであり、候補となった九作はまとめて地獄篇(インフェルノ)と呼ばれるようになったりしたのだが、それはまた別の話だ。


 とにかく、セールスポイントにするだけあって地図作り(マッピング)自体は確かに楽しかった。


 しかし、問題なのはそこではない。

 このゲームにおける一番の失敗は、『ダンジョンに入る度に地形が変化する』という往年のローグライクによくあるシステムを採用してしまったことだ。

 つまり、作った地図はそれ以降なんの役にも立たないのである。

 そのくせメインストーリーを進めるためには地図の完成が必須であり、完成度も見られるので妥協や手抜きが出来ない地獄だ。


 世界には、穴を掘らせて埋めさせるのを繰り返す拷問もあるらしい。そう考えると『北欧の賽の河原』とまで言われたこのゲームがどれだけ凶悪なのかがよくわかるだろう。


『特定のパターンの地形はマッピングの評価基準となるポイントが本来あるべき場所からズレているため、見えている通りに書いてもミスだと判定されてしまう』というバグを発見した時は発狂しかけたが、それも今ではいい思い出…………いい思い出か?



「……ご主人、なんか嫌なことでもあったのか?」


「ああ……過去にな」



 地上に降りてきたキルカが心配そうに俺の顔を覗き込む。どうやら顔に出ていたらしい。

 懐かしむのは良い思い出だけにしたいものだが、クソゲーの経験が要所要所で役立ってしまうせいで何度も思い出してしまうんだよな。


 さて、それはともかく他に何か重要そうなものがないかと辺りを見回すと、不意に物陰から一匹のモンスターが飛び出してきた。

 大きさは大型犬と同じくらいで、黒い体躯の虫型モンスターだ。



「ギチチチ」


「うわっ、またアリか」



 会敵直後、アリの尻先から勢いよく放たれた酸による攻撃を躱し、ハンマーに変化させた多腕機神の刃影(ヘカトンケイル)を勢いよく振り下ろすと、それだけでアリはバラバラに砕け散った。


 初見では蟻酸攻撃に意表を突かれそうではあるが、それ以外に目立った特徴のないモンスターだ。雑魚敵であっても油断できないのがこのゲームなのだが、このアリは動きが単調で防御力も低く、あまり脅威には感じない。



「……まあ、何かあるんだろうな」



 アリのモンスターが出てくるゲームはかなり多く、その殆どで奴らは群れとして出現する。

 地球を防衛するゲームとかがまさにそれだ。

 そう考えると、今後コイツらが群れを成して襲いかかって来る可能性も十分ある。

 ゲームとは言え巨大なアリの大群とか普通におぞましいので勘弁してほしいものだが。


 さて、その後も少しの間奇岩地帯をうろうろと彷徨っていたが、出会うのはアリばかりでアンカーらしきものには一度も遭遇しなかった。

 一旦アプローチを変えてみるか。



「キルカ、アリの匂いって辿れるか?」


「うーん……狼に戻ってもいいか?」


「戻らないとキツイ感じか。まあ、人もいないしいいぞ」



 俺がそう言うと、すぐにキルカは変身を始めた。

 毛髪が伸び、メキメキと体躯が変形し、ものの数秒でキルカは最初に出会った時と同じ狼の姿へと変身したのだった。

 

 この状態だとやはり鼻が利くようで、歩き出した彼女についていくこと数分、俺たちは何やら今まで見たものとは少し様子の違う岩にたどり着いた。



「ご主人、ここ地下に続いてるみたいだぞ」

 

「マジか」



 入り口から覗いてみると、暗い穴に差す日の光は少し頼りなかったが、少なくとも入り口からすぐのところで三つにルートが分岐していることがわかった。

 姿こそ見えないが、モンスターの蠢くような気配も感じる。アリの匂いを尾けてきたのだから全てアリなのだろうが、そう考えるとこれはまさに「アリの巣」ということか。


 となると、やはりこのエリアのアンカーは蟻——特に、いわゆる女王蟻と呼ばれる存在をモチーフにしたモンスターと考えるのが妥当だろう。



「突入するか?」


「……いや、やめておこう。ここの適任は俺達じゃないだろうし、一先ず怪しい場所がわかっただけでいい」


「了解だぞ」



 単純な物量を相手にするのならGOODというスペシャリストがいる。俺もキルカも一対多はあまり得意ではないので、このボスを相手にすることは多分ないだろう。


 入り口の写真を撮り、ここまでの道を地図としてまとめた後、俺たちはもう一つのエリアに進むために更に北に進んだのだった。

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