Part63 太陽を繋ぎ留めるモノ
大きな塔の一階で、俺たちは今後の方針を考えるために話し合っていた。
ちなみにキルカとウルフさんは話についていけなかったので塔の外で遊んでいる。なんかウマが合うらしい。
さて、塔の一階部分の構造や安全の確認を終えたところで、八百万がおもむろに切り出した。
「『悪魔』に挑んだとして、勝てると思いますか?」
「無理」
御兎姫が即答し、GOODが首を振る。
「そんなに強いのか、アルカナシリーズって」
「これが本番なら、確実に無理ね。前哨戦なら可能性はあると思うけれど……それも苦戦は必至よ」
確か、アルカナシリーズは通常のユニークモンスターよりも強いとか聞いたことがある。
といっても今までに戦ったことのあるユニークモンスターはゲートキーパーだけで、それも普通の戦闘ではなかったからイメージがしにくいのだが。
ただ、この場にいる廃人達が「無理だ」と即答するのだから余程強いのだろう。
「そういえば、ここに来る途中に蟹にあったんだ」
「蟹?」
ここに転送されてすぐに出会った化け蟹——アズールという名のモンスターについて、仲間を呼ぶ習性や『刻錨蟹』という謎の称号など、俺が知りうる限りの情報を話した。
それに対し、八百万が補足する。
「直接戦闘をしたわけではありませんが、あれはかなり強く見えました。おそらくソロでは無理でしょう」
「……似たようなのなら、私も見た。蟹じゃなくて虎だったけど、アンカーだった」
「虎か……なんなんだろうな、アンカーって」
錨といえば、船を固定するためのアレのことだ。
そう考えると、刻錨は……時間を止める為のもの?
仮にそうだとして、時間を止めておく意味が全く分からないな。ただ、関係するとすればステージギミックだろう。
時間を変動させることで何かが起こるとか、そういった類の仕掛けは別ゲーで見たことがある。
「アンカーに関する考察はもう少し調査が進んでからにしましょう。今考えるべきは……」
不意に、八百万の声を遮って、コツ、コツと足音が響いた。
その場にいた全員が、咄嗟に武器に手をかけて音のした方を見る。
音の出所は、薄暗い二階へと続く階段だった。
「なんだ……?」
階上から足音は徐々に接近してきて、やがて音の主が姿を現した。
燃えるように逆立った赤い髪と、同色の瞳。
黒っぽいローブのような衣服をまとった男は、口元に笑みを浮かべて俺たちの元へと歩いてきた。
「やあ、こんにちは。オレの名はヴェルメリオだ」
赤髪の男——ヴェルメリオと名乗ったNPCは、仰々しく両手を広げ、俺たちを眺めながらそう自己紹介した。
「ようこそ、原初不夜空間へ。オレはキミ達を歓迎するよ」
「原初不夜空間……?」
「この空間のことだ。原初の世界を再現し、『悪魔』を閉じ込めて、時間をアンカーで繋ぎ留めている」
「ちょっと待て、情報量が多い」
GOODが一度ヴェルメリオの言葉を制し、その上でこの場にいる全員が気になっていたであろうことを聞く。
「ヴェルメリオ。お前は味方でいいのか?」
「さあ、それはわからないが……質問には素直に答えよう。オレはその為にココにいるんだ」
断言はしない返答に対しGOODは考えるように目をつぶり、「そうか」と呟いてから八百万に視線を送った。
任せる、と言うことなのだろう。
八百万は一つ頷いてから、ヴェルメリオに対し質問を始めた。
「では、先ず一つ。アンカーとは何ですか?」
「さっきも言った通り、時間を繋ぎ止める錨のことだ。この空間に捕らえられた『悪魔』を逃がさない為のものであり、『悪魔』を倒しうる人間を選別する為のものでもあるな」
「もう少し詳しくお願いします」
「詳しくって言われても、オレもあまり知ってるわけじゃないんだけどな……そうだ、何か書くもんあるか?」
「ええ、どうぞ」
八百万がインベントリから取り出した紙とペンをヴェルメリオに渡す。
ヴェルメリオは紙に二重の円を書き、その上からXの形に線を引いて円を分割した。
「塔を中央として、この空間は八つのエリアに分かれている。内円には平地、峡谷、枯れた森、奇岩地帯。外円には旧市街、砂漠、山岳、古戦場だ。ちなみに外円の外に出ようとすると反対側から出てくる」
紙に書いた図形をそれぞれ指し示しながら、彼は地形について説明していく。
GOODの写真にあったカッパドキアのような地形は内円の奇岩地帯なのだろう。ついでに、俺がいたのはおそらく平地だ。
「……で、それぞれのエリアに一体ずつアンカーがいるんだ」
「なるほど。つまり合計八体ですか」
「まあ、そんなところだな。『悪魔』と戦うんならアンカーを全て倒す必要がある」
「ふむ……そうですか。ありがとうございます」
とりあえずこれでこの空間の仕組みは分かった。
八体の怪物を倒し、現れたボスも倒す。
単純明快、シンプルなクエストだ。
アンカーは一筋縄では行かないだろうが……しかし丁度いい。
ここに来るまで、俺はあまり戦闘において苦戦することがそこまで多くはなかった。
いや、全体的に敵は強いのだが……いかんせん、それ以上にステータスが上がっていたのだ。
レベルを上げて物理で殴る。流石にそんな単純なゲームではないが、ステータスを無視できるようなシステムでもない。
だが、ここに来て明確に『格上』だと感じる敵が出てきた。
これはなんというか……燃えるな。
「さて、とりあえず今言えるのはこのくらいか。オレは疲れたから寝る。じゃあな」
ヴェルメリオはあくびをしながらそう言うと、踵を返し二階へと向かった。
マイペースなやつだ。
そう思っていると、階段の中程まで上がったところで、彼は思い出したように振り返った。
「あ、そうだ。アンカーは大体近くにいる人間の数に応じて強くなるから、あまり一気に行きすぎると面倒なことになるぞ」
「マジかよ……」
最後の最後にとんでもない情報を提供してきた彼は、そのまま暗い階上へと上がって行ったのだった。




