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Part59 輝剣と覇王鎚


 ゼーヴェンクライツの北にある大きな教会。

 その裏に存在する祠に行くことで発生するユニーククエストがある。


 その名も『聖剣巡礼』。


 基本的にあらゆるユニーク関連の情報が個人によって秘匿されるこのヴォックソにおいて、発見の容易さから既にwikiに受注条件まで書かれているという特異なユニーククエストだ。


 その割には、未だに攻略出来た人間が一人もいないらしい。


 このユニーククエストの第一の目標は、最初に選んだ剣を使ってその他八本の剣の守護精霊を撃破することだ。

 その後は、剣の祠の地下に棲むエクスカリバーの守護精霊に挑むことになるのだが……そもそも八体の守護精霊をそれぞれ撃破することがやたら難しいようだ。

 一部の廃人がどうにかそれを突破しても、待ち受けるエクスカリバーの守護精霊は調整をミスってるのではと言われるほどに理不尽な難易度であるらしい。


 そんなわけで、殆どのプレイヤー達の間では、ここはもっぱら武器を調達するための場所となっているのだった。



 さて、祠へと通じる石造りの階段を下り、戸を開けると、妙に機械的なオブジェが鎮座する空間が現れた。

 ここが剣の祠だ。


 室内に足を踏み込んだ瞬間に現れた[ユニーククエスト 聖剣巡礼を開始しますか?]というメッセージに『はい』を選択する。

 瞬間、部屋の中央が俄かに揺らめき、その陽炎にも似た半透明の波は、すぐに人間の少女の形をとった。

 おそらくは彼女が剣の精霊だ。



『歓迎——よく来た、挑戦者よ』



 剣の精霊は抑揚のない平坦な声でそう言い、更に説明を続けた。



『説明——九つの剣の中から一つを選び、それを用いて八つの守護精霊を打ち払い、聖剣へと至れ』



 精霊の言葉とともに、俺の目の前にウィンドウが現れる。

 ウィンドウには、レーヴァテイン、ミストルティン、カラドボルグ、フラガラッハ、クラウソラス、ダインスレイヴ、グラム、デュランダル、ムラサメ……と、ゲームを嗜む者なら一度は目にするであろう伝説の武器の数々が並んでいた。


 俺はその中から、迷わずクラウソラスを選択する。



『承認——レイク・システム起動』



 精霊の言葉とともに、メカニカルな機械がカタカタと音を立てて動き始めた。

 チーン、という電子レンジのような音の後、開いた排出口から無造作に剣が放り出される。



「剣の扱い雑過ぎるだろ」



 仮にも伝説の剣じゃないのか。


 ……それはともかく、地面に横たわった青白い剣を手に取る。

 輝剣クラウソラス。

 アイルランドの伝説に登場する魔法剣の名を冠するその剣は、俺の手の先で刀身を一際強く輝かせた。


 クエストを受けるだけで貰える剣だが、そのステータスは中々の物だ。多腕機神の刃影(ヘカトンケイル)と比べると、あれ自体がかなり強力なのもあって単純な攻撃力の差はそこまで大きいものではないが、光属性があるだけで、俺の運用ではかなり猛威を振るうこととなる。



『期待——挑戦者がエクスカリバーを手にすることを願う』


「おう」



 精霊の声に、俺はガッツポーズをみせる。

 まあ、剣貰いに来ただけなんでクエストは進めないんですけどね。



——————



 クラウソラスを手に入れた後、俺は戦鎚を手に入れるために、熱気が立ち昇るリングの中で、身の震えるような圧を放つ一人の男と相対していた。

 毛髪は白く、シワと共に刻まれた古傷が目立つ、筋骨隆々な老人だ。

『覇王』の異名を持つ彼は、コォォと息を吐きながらゆっくりと拳を構える。



「ファイトだ、ご主人!」



 眼帯をつけたキルカが、リングの外から檄を飛ばす。

 その声を背中に受けつつ、俺はゆっくりと深呼吸をし、構えた。



「ゆくぞ、小僧!!」


「応!!」



 試合開始を告げるゴングと共に放たれたミサイルの様な一撃を寸前で躱し、カウンター……は無理と判断して一度退く。

 抉りあげるようなアッパーやフックをどうにか躱しつつ、反撃の機会を窺う。



「ここだッ!!」



 攻撃と攻撃の狭間。僅かに生じた隙を狙い、左脚を軸に放った鋭い回し蹴りは、正確に覇王の顎を捉えた。



「ぬおっ!?」



 これで脳震盪でも起こすことができれば良かったのだが、やはりそうも行かないようで、覇王の目がジロリと此方を見据えたのを確認してから、俺はしっかりと距離をとった。


 ちなみにこの戦い、設備的にはボクシングっぽいのだが、武器の使用と金的以外はなんでもありというルールなので、当然蹴りも織り交ぜていくことになる。



「ふッ!!!」



 大地を揺るがす程の踏み込みと、そこから生じる圧倒的破壊力を持った拳。

 先程と同様にそれをギリギリで回避する、が……



「甘いッ!!」



 それを見切っていた『覇王』は、俺の腹部に膝蹴りを叩き込んだ。

 ズン、と響くような衝撃が身体を駆け巡り、肺の空気が一気に押し出される。


 視界の端に表示される体力は残り僅か。

 腹部への強烈な一撃を食らって死に至っていないのは、ここがリングという特殊フィールドだからだろう。

 しかし、とにかく、あと一撃食らって仕舞えば、俺は七度目のリスポーンを経験することになってしまう。


 流石に、もうここで決めてしまいたい。

 俺は勝負に出ることにした。



「終わりだッ!!!」


「——いや、まだだ!」


「何ッ!」



 繰り出される蹴りに合わせた跳躍。

 そして、その勢いのまま俺は『覇王』の頭上を飛び越え、後頭部に踵蹴りを加える。



「がッ!!」



 予想外の攻撃にたたらを踏んだ『覇王』に回避する暇も与えず、俺は最後の一撃を放つ。

 かつて読んだ本に書かれていた。

 破壊力とは即ちこれであると。

 


「握力×(カケる)体重×(カケる)スピード=(イコール)破壊力!!」



 渾身の一撃が、振り返った『覇王』の腹部を捉える。

 そのまま彼はゆっくりとロープまで後ずさったが、もはや身体を支える気力も残っていなかったようで、やがてズシンと音を立ててリングの外へと倒れ落ちたのだった。



「っしゃあ!!!!」


「ナイスファイトだ、ご主人!」



 クエストクリアを知らせる表示とともに、リングの上に現れたハンマー、覇王鎚ウルトロゴスを天高く掲げる。


(何してんだろう、俺)という心の声を押し殺しながら、俺は力強く勝ち鬨をあげたのだった。


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