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Part56 ヴォックソへの帰還

新年早々インフルエンザにやられてました。

皆さまもお気をつけください。



「やべえなこのゲーム」



 ミュージックブレイバーのパッケージを片手に、俺は独り呟いた。

 ミューブレを一通り遊んでみた感想である。


 発売から一ヶ月くらいしか経っていないというのに既にプレイヤー達がガラパゴス的に独自の進化を遂げており、ランカーや二つ名持ちは元より、それ以外の一般プレイヤー達の練度もかなりの物だった。


 一応検索してみると、やはりというか何というか、世間的には賛否両論であるらしい。

 確かに万人ウケはしないだろう。俺はとても楽しめたが。



 そんな感じでブログの更新も済ませ、俺は少し休憩を取ってから久しぶりにヴォックソにログインするのだった。



————



「あー……なんか久しぶりだな、この感じ」



 ずっと治安の悪いアメリカのダウンタウンみたいなところで演奏を続けていたので、このファンタジーな世界観が逆に新鮮だ。

 そして、そのファンタジー世界に産み落とされたポストアポカリプス系SFの様な【アルゴノーツ】のクランハウスにも懐かしさを覚える。


 大樹に貫かれた鉄の家の自動ドアを潜り抜けると、待ってましたと言わんばかりにキルカが飛びついてきた。



「うわっ」


「久しぶりだぞ、ご主人」


「ああ……何日振りだっけか」



 一応ミューブレに浸かっている間に一度ログインしたのだが、それからゲーム内時間では一週間くらい経ったか。

 思ったよりも久々だったな。現実の時間だとミューブレを始めてから一週間も経っていないのだが。


 と、そんな風に考えていると、奥の部屋から超さんが現れた。



「やあ、思ったよりも早かったね。ミューブレはどうだったかな?」


「なんかもう、すごく楽しんできました」


「それは良かった。……と、そういえば三日くらい前に君にお客さんが来ていたんだった」


「客……ですか?」


「うん。いつもの場所で待ってると言っていたね」



 いつもの場所……?

 そう言われてもピンと来ないというか、そもそも誰なのかがわからないのでどうしようもないと思うのだが。



「ちなみに、どんな人でしたか?」


「名前はわからないけど、ゴスロリ系の服装で、語尾に『じゃん』って付けてる子だよ」


「あっはい、特定しました」



『じゃん』のインパクトが強すぎるじゃん。



————



 一度ツヴェルヘイムに飛んでから冥き門前へと飛び、地下空間に足を運ぶ。

 ツヴェルヘイムを経由する意味は特にないと思うのだが、まあ、念のためだ。

 一応、キルカもクランハウスで留守番させている。


 それにしても、ゲートキーパーの方から出向くというのはどういうことなのだろうか。

 何かフラグでも踏んだか?



「あっ、久しぶりじゃん!」



 門の前で肩まで地面に浸かっていた黒髪の少女は、俺を見つけるとザバッと影から這い出て近寄って来た。



「ああ、久しぶり。あれ以降誰か来たか?」


「誰一人として来ないじゃん……やっぱ立地が悪いじゃん……」


「だろうな」



 流石に地割れの底に降りて進んでみようだなんて思うプレイヤーはそうそういないだろうし、そもそもその地割れのある『冥き跡地リデトロ』が攻略的にはあまり赴く必要のない場所であるという事もあって、いまだに俺とユーゴさん以外にたどり着いた人間はいないらしい。

 というか恐らく地割れから行くのは正規ルートじゃないし。



「で、用事ってなんだ?」


「そろそろヘカトンケイルを使いこなせるようになった頃だと思ったじゃん。前にも言った通り、使いこなせるようになったら次の段階を目指せるじゃん」



 そう言われて、俺はヘカトンケイルの情報を確認する。

 成る程。確かにヘカトンケイルの熟練度が100%に達していた。知らぬ間に次のユニーククエストの条件を達成していたらしい。



「ヘカトンケイルの覚醒ってやつか……これって他の武器種にもあるのか?」


「冥武器はどの武器種も二度の強化があるじゃん」


「なるほどな。まあ当然か」


「じゃ、ちゃちゃっと解放しちゃうから貸して欲しいじゃん」



 ゲートキーパーにヘカトンケイルを渡すと、彼女はすぐに懐から工具のようなものを複数取り出し、ガチャガチャと音を立てて改造を始めた。

 なんか思ったよりも物理的な改造だな。もっと魔法で変質させるような感じかと思っていたんだが。



「完成じゃん!」


「おお」



 一分と経たずに改造は終わり、俺の手に新たなる進化を遂げたヘカトンケイルが手渡される。

 見た目上の変化はないが、注視してみるととりあえず『ヘカトンケイル』から『多腕機神の刃影(ヘカトンケイル)』に名前が変わっているのがわかった。



「何が出来るようになったんだ?」


「ふっふっふ、聞いて驚けじゃん。なんと、武器を吸収させることでカスタマイズできるようになったじゃん!」


「っていうのはつまり……素のヘカトンケイルよりも強い剣を手に入れたら、吸収させることでその剣に変形させることができるようになる……ってことか?」


「概ねそんな感じじゃん! あとは、同じ武器種の武器を複数入れることはできなかったりするじゃん」



 なるほど……って、めちゃくちゃ良くないかこれ。

 ヤバイな。


 武器とか色々使ってみたいと思ってはいたのだが、ぶっちゃけヘカトンケイルがオールマイティに出来てしまうし、他に冥幻闘剣を一度も見たことがないという現状ではずっと同じ武器を使うしかなかったわけで、こうして色々な武器を使えるようになるというのはかなり嬉しい。



「ただ、同じ武器種を吸収させると新しいものに上書きされるじゃん。そうなると、古い武器は冥に飲み込まれて消滅するから気をつけるじゃん」


「あー、一度吸収させた武器は取り外せないってことか」


「そういうことじゃん。ただ、一部の武器は飲み込まれずに取り外すこともできるじゃん。仮にの話だけど、ヘカトンケイルに他の冥武器を吸収させたとしたら普通に取り外せるじゃん」



 武器のレア度などで変わるのだろうか?

 それか、クエストの報酬などで一度しか入手できない武器のことを言っているのかもしれない。


 どちらにせよ、その辺りは流石にカスタマイズするときに注意書きのようなメッセージが出るとは思う。



「というか、前みたいに試練とかないんだな」


「ふっふっふ。戦うのは第三段階の解放の時までお預けじゃん。その時また頃合いを見て呼びに行くじゃん」


「ちなみに、第三段階はどんな感じになるんだ?」


「うーん……まだ考え中じゃん!」



 ……考え中?

 秘密じゃん! とかではなく、考え中なのか。

 まあゲームだし、まだそこまでは実装されていないということかもしれない。というかそういうことだろ、これ。


 何はともあれ、新しくなった相棒とともに、俺は冥き門を後にしたのだった。


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