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Part54 ライブは更に混迷を極める

今年もよろしくお願いします



 高い屋根から飛び降りてトラックの荷台に着地し、そのまま路地裏へと逃げ込む。

 当然それを見逃すような『羅生門』でもなく、すぐにヤツは俺を追いかけてきた。



「待って……危害は加えないから髪置いてって……」


「嘘つけ!!」



 背後から迫り来るアップテンポなヴァイオリンの音色が、俺の心臓を震え上がらせるのと同時に闇の波動的な攻撃を仕掛けてくる。

 その呪いじみた攻撃をどうにかアドリブで打ち消して逃走を続けるが、正直言って分が悪い。

 単純にこのゲームにおける経験が俺には不足している。ぽっと出の新人が簡単に勝ち上がれるほど、このゲームは甘くないはずだ。



 ……で、あれば。

 少々ギャンブルを嗜んでみるのも悪くはないだろう。


 進路は、先ほどフィールドの全体を見たときに見つけた、緑色の閃光が煌めいていた場所だ。

 まあ、当然そこにはトップランカーがいるだろう。


 しかし、「やばい奴にはやばい奴をぶつけろ」ということわざが日本にはある。

 それに従って、暗い路地から明るい通りへ、俺は勢いよく飛びでた。



「——?」



 プレイヤーが殆どいないそのストリートに、果たして目当ての人物は一人で佇んでいた。

 ペストマスクを着け、ゴツゴツとした黒いコートを纏った男だ。

 彼は深い呼吸音と共に、俺とその背後の『羅生門』を、品定めするかのようにゆっくりと見る。


 ゲーム内ランキング三位。「三楽師」と呼ばれ恐れられている三人のプレイヤーの内の一角。

 その異名は『師範』。何に類するのかわからない謎の楽器を使う、初見殺しのデパートである。



「髪……」


「おい、バンド組むぞ。髪は勝ってからやるよ」


「それなら協力するわよ」



 餌付けが簡単過ぎる。

 まあ、これが終わったらヴォックソに戻るつもりなのでもう会うことはないだろうが。


 さて、『師範』は一度辺りを見渡してから、インベントリから妙なオブジェクトを取り出した。

 自動車のハンドルくらいの大きさのリングに、縦横二本ずつ青い糸が張ってある。

 ……いや、糸ではなくレーザーか。とにかく、彼はその謎の楽器に腕を通し、そのままグルグルと回した。


 その見た目に反して、流れ出た音はピアノのようだ。

 何が起きるのかを警戒していると、情報通り、今までに見たことのない動きの攻撃が飛び出して来た。

 渦を巻いて炎が突き進み、その周りを緑色の電流が舞い、地面に接触した瞬間にレーザーとなって四方向へ弾け飛ぶ。



「あっぶね……!」



 ヴォックソで養った初見の技への対応力をフルに発揮し、どうにか全ての攻撃を避ける。

 次いで俺はギターを構え、勢いよくかき鳴らした。

 一つ一つの技はそこまで強いわけでもないが、速弾きによって密度を高めて面の攻撃にすることで、普通のプレイヤー相手ならば回避を許さない必殺の一撃となるのだが——



「——っ、やっぱ避けるよなあ!」



『師範』は最初の波を高く跳躍して避け、そのままインベントリから手のひらサイズの雫型の何かを二つ地面に叩きつけ、それによって生じた重低音が続く二撃目、三撃目を打ち消した。



「……そうか、新しくランキングに入った奴か」



 彼はそう呟いて、インベントリから大きな楽器を取り出した。

 ゴツゴツとした機関部と、そこから飛び出る銀色の板。

 彼が本体につながった紐を引くと、楽器はグォンと音を立てて震えだし、銀色の板の周囲に存在する無数の刃が高速で回転し始める。


 ……誰がどう見ても、チェーンソーであった。



「それ楽器じゃねーだろ!!」



 俺が唱える異議には耳を貸さず、『師範』はチェーンソーを家屋の壁に添え、ギャリギャリと音を立てさせた。

 システム的にはそれが「演奏」と認識されたらしく、すぐに上空から毒々しい色の液体が降り注ぐ。


 ジュウジュウと音を立てて地面が融けるのを見ながら、俺は必死で逃げ道を探った……が、ダメだ。このままでは逃げられそうにない。

 一撃食らわせて離脱、というのがまだ可能性があるぐらいか。



「うおっ、ランカーだらけだ!!」


「悪い!」


「ぐわーっ!?」



 通りかかったプレイヤーを盾にして、『師範』の懐へと突き進む。

 フェイントを入れつつ速弾きを重ね、標的まであと少し。

 そんな俺を、轟音による衝撃波が吹き飛ばした。


 

『おいおいおいおいお〜い!!!!! 俺も混ぜてくれよ!!!!!!』



 鼓膜をぶっ叩くような爆音とともに、新たなるミュージシャンが戦いにエントリーしてくる。



「——『重音戦車』か!!」



 ゲーム内ランキング五位タイ。『重音戦車』の名の通り、超巨大アンプをトラックにいくつも括り付けて爆音を撒き散らすやばい奴が、そこにいた。


 おかしい。明らかにランカーがここに集中している。

『師範』の注意が『重音戦車』に若干向いた隙に物陰に隠れ、現在の生存者を確認すると、なるほど、もうプレイヤーはほとんど残っていなかった。

 その内、トップランカーは七人。

 十位の『デストロイヤー』と八位の『尺八郭公』、五位タイの『戦艦楽器』は既に敗退していたが、それ以外は全員残っている。


 事前に聞いていたよりも明らかに人が消えるペースが速いが……トップランカーがそれぞれが暴れまわった結果なのだろう。

 となると、獲物を求めるランカー達がここに集まるのも必然か。



『俺の歌を聴け——ッ!!!!!』



 建物が震えるほどの爆音と、そこから生じる圧倒的な炎の勢いが辺り一帯を包む。


 流石にこの状況でコイツを放っておいてはいけないと、『師範』も含めて全員のヘイトが『重音戦車』に集まる。

 それは『重音戦車』にも分かったようで、一対三は分が悪いと彼はトラックをUターンさせて一目散に逃げていき…………数メートル先で爆発した。



「なんだ!?」



 原型をとどめない程にぶっ壊れ、メラメラと燃え上がる爆音トラックの残骸。

 その炎を掻き分けて——ヨーデルの声がやってくる。


 ……マジでどうしようもなくなって来たな。

 そう心の中で呟いて、未だに逃げの一手を考える俺であった。

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